第7話
ルーレットのことを慶成に話すかどうか迷ったが、結局話さなかった。
おそらく慶成なら信じてくれただろう。たとえ、ルーレットで当たった番号と同じ出席番号のクラスメイトが死亡するという俄かに信じがたい超常現象が起きているということでも──俺が話せば一切の迷いなくその話を受け入れるだろう。
俺と慶成にはそれほどの信頼関係がある。
でも言えなかった。いや、だからこそ言えなかったのかもしれない。
言ってしまうと、俺が抱えている苦悩を慶成にも抱えさせてしまうかもしれない。そんなことは絶対にしたくなかった。
ルーレットのことは少なくとも、現段階では誰にも言わないでおこう──。
ファミレスの後はどこかに行くこともなく、その場で解散となった。
寄り道せずに家に帰り、何もすることなくぼーっと過ごす。時間だけがただ過ぎていく。
リビングで夕飯を食べ終え自室に戻る。時計を見ると針は19時を指していた。
莉璃が死亡するまで残り5時間──。
莉璃の死を阻止する方法はないのだろうか? 俺は頭のいい人間ではない。それでも莉璃を救うために脳をフル回転させる。
だけど、現状を打開する策は何も思い浮かばなかった。
このままだと莉璃が死んでしまう。そう思うと居ても立っても居られなくなり、ほぼ無意識に部屋を飛び出した。
隣の家──莉璃の家の前で幼馴染に電話をかける。
『もしもし七希、どうしたの?』
2コールで莉璃は電話に出てくれた。
「今家の前にいるから、外に出てきてくれ」
『え? どういうこと?』
「いいから早く来てくれ。説明は来たらするから」
『──分かった、ちょっと待ってて』
莉璃はすぐに出てきてくれた。無地の白い半袖Tシャツにデニムのショートパンツというラフな格好をしている。
「どうしたの?」
いきなり外に来いと言われたにも関わらず、莉璃は特に怒った様子もなく、微笑みながらそう言った。
「──えっと……」
とにかく顔を見たくて、会いたくて、話したくて衝動的に呼び出してしまったが、この後のことを何も考えていない。「説明は来たらするから」と言った手前、何か言い出さなくては──。
「……今から花火をしよう」
そんな言葉が咄嗟に出た。
「今から? 夏にやる約束じゃなかったっけ? まだ6月よ」
「旧暦だと6月は夏だ」
「確かに、そうね」
ふふふっと微笑む莉璃。
「分かったわ、今からやりましょう。こんな急に誘ったからには、もちろん花火はもう準備してあるのよね?」
「準備しているわけないだろ。俺がそんな計画的な男だと思うか?」
「もちろん、全くもって思わないわ」
「というわけだから、まずは今から一緒に花火を買いに行こう」
俺の無計画な発言に莉璃は笑顔で「了解!」と答えた。
旧暦では6月は夏と言ったものの、令和の現代ではやはり、まだ夏ではないらしい。莉璃と一緒に3つの店を自転車で回ったが花火は売っていなかった。諦めムードに気持ちが傾いたが、4件目の店でようやく見つけることができた。まるで花火がダイアモンドのように思えた瞬間だ。
一度家に戻り、チャッカマンと水の入ったバケツを用意して、昨日訪れた小さな公園へ来た。
購入した花火は手持ち花火が数種類入っているセットだ。いくつか種類があったが、二人だけでやるということで、一番数が少なくて、安いセットを買った。
花火を一本取り出し、チャッカマンを使って着火する。すぐに火が吹き出し、その吹き出した火を利用して、莉璃が持っている手持ち花火にも着火させた。
花火の炎が様々な色を見せるのは、炎色反応というものを利用しているらしい。以前、化学の授業で習った。
金属にはそれぞれが固有の色素を含むものがあり、その金属粉末を火薬に混ぜて熱することで、その色素を含む色の炎を発生させているとのことだ。
「綺麗だね──」
緑色の炎を見ながら莉璃は感嘆をもらした。緑色の色素を含む金属は、確かバリウムという名前だったはず。
この公園には街灯がないため、周りは真っ暗だ。それ故に、花火の色が一際際立ってより綺麗に見える。
次々と花火に火をつけていく。七色に輝く炎は、まるで夜の公園に虹を描いているように見えた。
花火はあっという間に残り二本となった。もっと数の多いセットを買っておけばよかったと少しだけ後悔する。最後に残しておいた線香花火を互いに一本ずつ持ち、火をつける。
パチッパチッという音と共に小さな火花が飛び散る。
俺たちはしゃがみ込み、その灯火が消えるまでの様子を、静かに眺めていた。
「線香花火って、『終わり』を象徴しているよね」
小さな火の玉が落ちたのを見て、莉璃はそう言った。
「終わり?」
「──うん、終わり」
「まあ、そうだな。手持ち花火の締めといえば線香花火っていうのは、日本全国共通の認識だろうな」
「──ねえ七希」
「どうした?」
「私って、明日死んじゃうのかな?」
莉璃から発せられた突然の問い──全身に寒気が襲った。




