第6話
幸いにも、星野は保健室に運ばれてすぐに意識を取り戻したらしい。上野と大野は教室に戻ってくるとそう報告した。その10分後ぐらいに養護教諭と共に星野も教室へ戻ってきた。
「心配かけて、ごめんなさい」
涙目でそう言う星野を責める人間は、当然ながら誰一人いなかった。
理事長の判断により、その日、学校は臨時休校となった。本来なら二時間目開始ぐらいの時刻に、生徒たちは下校するよう教師陣に告げられた。
家に帰り、自室のベッドの上に倒れ込む。
激しい運動をしたわけではないのに体は疲弊していた。少し寝ようと思い目を瞑るが、全く眠ることはできなかった。
ルーレットで当たった番号と同じ出席番号の生徒が死ぬ──。悪夢であればどんなにマシだっただろか。だけどこれは、紛れもない現実だ。
しかも、そのルーレットを回しているのは俺。
つまり、誰が死亡するかを決めているのは俺ということになる。
俺が二人を殺したのか? 坂東と江口を俺が……?
そして今日は──。
幼馴染の顔が脳裏に浮かんだ。瞬間、吐き気に襲われる。トイレに駆け込むと吐瀉物を口から土石流のように吐き出してしまった。
莉璃──。
ルーレットのことを言うべきだろうか? だとしてもどう説明する?
「お前は今日の0時に死亡する」
そんなこと、言えるわけがない。何より、あいつが死ぬという現実を受け入れたくない。
最悪な気分のまま自室に戻ると、スマホが振動していた。手に取ると画面には、慶成から電話がかかっているという表示がされている。通話ボタンをタップし、電話に出る。
「──もしもし」
『七希、今どこにいる?』
「家だけど、どうかしたか?」
『今から会って話さないか?』
正直今は一人になりたい気分だった。でも、一人でいるとそれはそれで心が病みそうな気がした。
「どこに行けばいい?」
他のクラスメイトだったら断っていたかもしれないが、慶成からの誘いならと思い、俺はそう聞いた。
『赤江駅の東口に集合でどう?』
赤江駅は自宅から自転車で30分程走れば着く場所にある駅だ。
「わかった、今から向かう」
俺はそう言って電話を切り、スマホと財布を持って家を出た。
駐輪場に自転車を停めて、駅の東口に向かう。
慶成は既に来ていた。
「すまん、待たせたか?」
「いや、今来たところだよ」
慶成は制服姿だった。俺も家に帰ってから着替えていないため、同じく制服姿だ。
「昼はもう食べた?」
首を横に振る。母親に作ってもらった弁当があったが食べていない。
「俺もまだだから、ファミレスにでも入ろうか」
赤江駅は小さな駅で、駅周辺にカラオケや映画館、ゲームセンターといった娯楽施設は何もないが、飲食店はちらほらと存在している。
駅から歩いてすぐの場所にあるファミレスに俺たちは入店した。
平日だが昼過ぎということもあり、客が結構多い。とはいえ、順番待ちするほどの多さではないためすぐに席に座ることができた。
慶成はハンバーグ定食とドリンクバーを注文し、俺はシーザーサラダとドリンクバーを注文した。
「サラダだけで足りるの?」
「……あまり食欲がないんだよ」
慶成は「そうか」とだけ答えてそれ以上は何も言わなかった。
実のところ、サラダすら食べ切れるかどうか分からない。本当はドリンクバーだけにしたかったが、俺だけ料理を頼まないとなると慶成に気を使わせてしまうと思い、注文することにした。
「まさか二日連続でクラスメイトが亡くなるなんて──未だに信じられないよ」
ハンバーグ定食を食べ終えた後、慶成はそう言った。俺はその言葉に「そうだな」と答える。
「これってもしかして、殺人事件なのかな?」
「殺人?」
「うん。そういう可能性もあるのかなって思ってさ」
深刻な表情をする慶成。
「村上先生の話聞いてなかったのか? 二人とも死因は脳出血だ。誰かに殺されたわけじゃない」
「いや、脳出血を引き起こす薬を無理やり、殺意ある誰かに飲まされたのかもしれないじゃん?」
「脳出血を引き起こす薬なんてあるのか?」
「さあ、それは分からないけど。でも、同じクラスの生徒が二日連続で、しかも脳出血っていう同じ死因で亡くなるなんて、偶然で起こり得ることなのかな?」
「──断定はできないが、ほぼ起こり得ないだろうな」
「でしょ? 偶然の死じゃないってことは、二人を殺害した誰かがいてもおかしくないよ」
二人を殺害した誰か──その誰かとは俺なのか?
違う、俺はただアプリのルーレットを回しただけだ。
「慶成、仮にこれが殺人事件だとしたら、犯人の動機って何だと思う?」
腕を組み「うーん」と考えこむ慶成。
「普通に考えて、二人に何か恨みを持っている、とかじゃない? でも坂東君も江口さんも誰かから恨みを買うような人には思えないしなあ──ごめん、分からないや」
「動機がないなら殺人は起こらない。まあ、犯人が猟奇的殺人鬼なら話は変わってくるだろうけどな」
俺は二人を恨んでいない。そして猟奇的な殺人にも興味がない。
だから俺は犯人じゃない。自分を納得させるために、「俺が二人を殺したわけじゃない」と心の中で何度も呟く。
「まあ、何にせよ、これ以上クラスメイトが亡くなるなんてことは起こってほしくないよ」
慶成は何気なく言ったのだろうが、その言葉は俺の胸を強く締め付けた。




