第4話
「今日一緒に帰らない?」
莉璃からそう言われたため、一緒に下校することになった。しかし、駅に向かう道中も、電車の中も終始無言。会話が一切ないまま、電車は自宅の最寄駅に到着した。
昨日に引き続き、空はよく晴れていた。だけどそれとは対照的に気分はどんよりと曇っている。
駅を出て少し歩いたところで莉璃は話しかけてきた。
「──全然実感がわかない」
「坂東のことか?」
「うん。突然のことすぎて、頭が追いつかない」
頭が追いついていないのは俺も同じだった。ただ、俺と莉璃ではその理由は違う。莉璃はクラスメイトの突然死に対して、一方俺は、アプリの結果と現実がリンクしてしまっていることに対して。
「ねえ七希、少し寄り道していかない?」
不安げな表情を浮かべる幼馴染の申し出に、俺は小さく頷いた。
自宅から歩いて5分程度の場所にある小さな公園に寄り道することに。白いペンキが所々剥がれているベンチに俺たちは腰をかけた。
「ここに来るのなんて久しぶりだわ。懐かしい」
莉璃の表情は先程よりも和らいでいた。
「昔はよくここで一緒に遊んだな」
「そうね。おにごっことか、缶蹴りとか、色々したわね」
小学生の頃、放課後になると毎日のように莉璃と遊んでいた。この公園は週に2〜3回は来ていたと思う。
しかし中学生になると、「お前たち、付き合ってるんだろ」というようなからかいの声をクラスメイトたちから多くかけられるようになり、それが妙に不愉快で自然と莉璃と遊ぶ機会は減っていった。いわゆる思春期というやつだろう。
高校生の今では、小学生の頃程ではないにせよ、また一緒に遊ぶようになった。先週の日曜日には、俺の家で一緒にテレビゲームをしていた。
家族間の仲はずっと良好で、4月上旬に両家で、桜並木が有名な公園に出かけて花見を楽しんだことは記憶に新しい。
俺は莉璃のことが好きだ。でもそれは異性としてではなく、親友として、というのともまた少し違う。きっと家族の一員という感覚が一番近いだろう。
莉璃が俺のことをどう思っているかは分からないが──。
「ねえ七希、夏になったらここで花火しようよ」
「花火?」
「うん。小学生の頃、一度だけこの公園で一緒にやったことがあるんだけど、覚えてる?」
「覚えてるよ」
確かあれは4年生の時の夏休み。財前家と林家の両家で市販の手持ち花火を買ってこの公園でやった。
怪我防止のため、両家の親たちは俺たち子供に着火はさせなかった。大人が着火し、火のついた手持ち花火を俺たちは受け取っていた。
しかし、自分で着火したかった俺は親たちの目を盗み、こっそりチャッカマンを使って自分で花火を着火させた。だが、勢いよく火がついた花火に驚いてしまい、持っていた花火を放り投げ、運の悪いことに花火から噴き出る炎が右手に当たってしまった。
すぐに親たちが気づき処置をしてくれたおかげで、軽い火傷ですみ、傷跡も残らなかったが、あれ以来手持ち花火をやった記憶はない。
「やるのは別に良いけど、急にどうしたんだ?」
「特に意味はないわ。何となく花火がしたいなあって思っただけ」
ニコッとした笑顔で莉璃はそう言った。
「じゃあ俺からも一つ、提案していいか?」
「どうぞ」
「この後俺の家に来ないか? この前の日曜日にやったゲームを、また一緒にやろうぜ」
「──別に良いけど、急にどうして?」
「特に意味はない。何となくお前とゲームがしたくなっただけだ」
すると莉璃はまた笑顔を浮かべて「そっか。じゃあ早く行きましょう」と言ってベンチから立ち上がった。
いつもなら何も思わないが、今日の莉璃の笑顔は俺の心を温めてくれているような気がした。
◇6月12日(木)
あのルーレットが本物ならば、江口は既に死亡している。逆に言うと、今日江口が普通に登校していれば、あのルーレットはただの不謹慎極まりないアプリで、坂東の死は偶然だったということになる。
ルーレットなんかで、クラスメイトの命が失われてたまるか。
坂東の死は偶然に決まっている。
スマホから通知音が鳴った。7時だ。
こんなルーレット、できれば回したくない。だけど、『ルーレットを回し忘れた場合、その日の0時にクラスメイト全員が死亡するのでご注意ください』というアプリの説明文が脳裏をよぎる。
クラスメイトが全員死ぬ──そんなこと、起こるわけがない。
でも、もし本当にそうなってしまうのだとしたら──。
最悪の結末を想像すると背筋が凍った。
とりあえず、今日は回そう。だけどもし、江口が今日無事に登校していたらこのアプリはインチキということが判明する。そうなれば明日以降は回す必要がない。
このルーレットを回すのは今日が最後になるはずだ。
画面をタップするとルーレットは回り出した。昨日よりも数字が一つ減り、円が28等分された形のルーレットは、やはり目押しなど到底できないほどに高速で回転している。
画面をもう一度タップしてルーレットを止める。当たった数字は──「21」
嫌な予感がする。俺の記憶が正しければ──。
スマホの写真フォルダを開き、クラスの名簿表を確認する。
出席番号21番は──林莉璃だった。




