第3話
◇6月11日(水)
朝食を食べ終え自室で制服に着替えていると、スマホからポップで明るいBGMが流れ出した。
謎のアプリ「クラスルーレット」を起動すると、スマホの画面にはルーレットが表示された。
昨日と同じルーレット──のように見えたが、よく見ると少しだけ異なっている。
昨日は30等分されていた円が、今日は29等分になっていた。1から順番に数字を見ていくと、22という数字が消えている。22は昨日当たった数字。一度当たった数字は消えていくようだ。
アプリの説明によると、クラスの出席番号22番である坂東大毅は0時に死亡したことになっている。
そんなこと、あるわけがない。
画面をタップするとルーレットが高速で回転し出す。もう一度タップ。徐々に回るスピードが落ちていく。
当たったのは4番だった。
昨日撮影したクラスの名簿表を確認する。出席番号4番の生徒は──江口美穂、か。
江口美穂はメガネをかけた小柄の女子生徒だ。休み時間は一人で黙々と本を読んでいることが多い。アプリによると、今夜0時にこの文学少女が死亡することになる。
学校に行く準備を整え、俺は家を出た。
教室に入るといつものように、クラスメイトたちは友達同士で談笑していた。賑やかな雰囲気に包まれている2年1組。
だけどそこに、坂東の姿はなかった。
まだ来ていないだけだよな……?
しかし、朝のホームルームのチャイムが鳴っても坂東は教室に現れなかった。
もしかして──。
「みんなに伝えなくてはいけないことがある」
教室に入るなり、村上先生は暗い表情でそう告げた。
「実は……坂東が──亡くなった。今朝、ご家族からそのような連絡が学校に入った」
クラスメイトたちは突然の訃報に唖然としていた。
「昨日の0時頃、急に苦しみ出してそのまま息を引き取ったそうだ。死因は脳出血だと聞いている」
「先生、そんな不謹慎な冗談……やめてください。嘘ですよね? 坂東が亡くなっただなんて……?」
飯島亮介は恐る恐るそう聞いた。村上先生は目を瞑り、何も答えない。
「ありえない……」
呆然とする飯島に村上先生は近寄り、背中を優しく撫でる。サッカー部に所属しており、身長が高くて体格も良い彼だが、今はその姿が小さく見えた。
「俺、昨日の部活終わりにあいつと一緒にラーメンを食いに行ったんです。いつも通りテンションが高くて、隣の席の人に『うるせえ!』って言われるぐらい元気だったんですよ? それなのに何で急に死ぬんですか……」
飯島と坂東は仲が良かった。それはクラスメイトなら誰でも知っていることだろう。
数分前まで賑やかだった教室は、まるで廃墟のような静けさとなっていた。
急に亡くなってしまったクラスメイト。いつもみんなを笑わせていた坂東大毅という高校生はもう、この世に存在しない。
悲しみに暮れるクラスメイトたち。だけど俺の心は悲しみ以上に、恐怖という感情に支配されていた。
坂東が死んだ。出席番号「22」の坂東が──。謎のアプリ、「クラスルーレット」が示した結果。それが現実のものとなった。
いや、ただの偶然かもしれない。偶然であるに違いない。
でも、偶然ではないとしたら──あのルーレットが必然を引き起こすのだとしたら、次に命を落とすのは──。
江口の方を見る。文学少女は青ざめた顔をしており、クラスメイトの突然死という現実に怯えきっている。
どうする?
本人に言うか?
「明日死ぬのはあなたである」と──。
……そんなこと、言えるわけがない。そもそも、偶然か必然かの判断もできていない。
一時間目開始のチャイムが鳴った。一時間目は担任の村上先生の現代文の授業だ。しかし、村上先生は飯島のそばから離れず、一向に授業を始めようとはしない。ただ時間だけが過ぎていく。
「先生、授業をしないんですか?」そんなことを言うクラスメイトは俺含め、一人もいなかった。




