第23話
◇6月18日(金)
菊池真理亜の訃報はクラスメイトたちを震撼させた。
連続死から解放されたという希望が、たった一日にして再び絶望に戻ってしまったのだから当然の反応だった。
「──どうしてまた、死者が出るようになってしまったんだ」
大野は拳を握りしめて悔しそうにしている。無力な自身を責めているようにも見え、その姿に俺は通じるものを感じた。ただ、連続死の真相を知っている俺ならまだしも、何も知らない大野が責任感を感じる必要はない。それなのに心から辛そうにしている。流石は2年1組のリーダーだ。
ふと、上野の方を見てみた。昨日(正確には今日だが)、クラスメイトが死ぬ瞬間を見たとは思えないほど、普段通りのクールな表情をしている。
『アプリのルーレットシステムそのものを破壊すればいい。そうすれば、この連続死を止めることができる』
昨日の上野の言葉が脳裏をよぎった。
ルーレットのシステムを破壊するという考えは、方向性として間違っていないと思う。問題は、どのようにして破壊するかだ。アプリをスマホから削除することはできなかった。上野曰く、スマホを壊しても意味がない。そうなると物理的に破壊するのではなく、何か別の意味で、ルーレットのシステムを破壊する必要があるということになる。
──別の意味とは一体?
「七希、ちょっといい?」
放課後、下校しようとしていると玄関先で慶成に声をかけられた。
「どうした?」
「明日、予定空いてる?」
今日は金曜日、つまり明日は土曜日、休日だ。
「空いてるよ」
本当はとある予定を入れようと思っていたが、それは日曜日に入れることにしよう。
「だったら一緒に来てほしい場所があるんだけど」
「どこに行けばいいんだ?」
「──海に来てほしい」
「それはまた、突然だな」
「ダメかな?」
「別に構わないけど」
「ありがとう、助かるよ」
「それで、どうして海に行こうだなんて言い出したんだ?」
すると慶成は、なぜか頬を少しだけ赤く染めた。
「実は今日の昼休み、弁当を食べ終わった後に芹沢さんと清水さんと話しててさ、話の流れで一緒に海に行こうってなったんだよ。女子二人に対して男子が一人だとバランスが悪いからってことで、七希も誘ってみるねってことになってさ」
昼休み、俺はいつも慶成と一緒に弁当を食べている。今日も例外なく一緒に食べていたが、昨日(正確には今日だが)の菊池の件で睡眠不足だったためか、食べ終わった後に強烈な睡魔が襲ってきて、俺は午後の授業が始まるまでずっと爆睡していた。慶成は俺が寝ている間に、女子二人と遊ぶ約束を取り付けていたということか。
芹沢彩乃は女子の中では身長が高く、すらっとした生徒だ。ポニーテールの髪型に赤いフレームのメガネがトレードマークで、「笑顔がかわいい」ということで男子から人気が高い。
清水風香はクラスの仕事や教師の手伝いを積極的に行うタイプで、いわゆる優等生と呼ばれる生徒だ。いつもふわっとしたボブカットヘアーをしていて、それがとても似合っている。
「しかし、再び連続死が起こり始めてクラス内に絶望が充満していたのに、よく休日に遊びに行こうっていう話の流れになったな」
「そういう雰囲気があったからだよ。たしかにクラスメイトの死は辛いよ。もちろん自分が死ぬかもしれないっていう恐怖もある。でも、そういうマイナスの気持ちだけを持ち続けていたら、死ぬより前に心が壊れてしまうじゃん。こういう状況下だからこそ、明るい話題を出すべきだし、楽しみを作り出すべきだよ。まあ、あまり公にはできないけどね、不謹慎だと思う人もいるだろうし」
なるほどな。闇を払拭するには光が必要だ。そして光が当たらない場所にいるならば、自分たちで光源を作るしかない。
「とはいえ、この時期に海ってどうなんだ? まだ海水浴をするには時期が早い気がするが」
日中は暑くなってきているとはいえ、今は6月だ。俺の勝手なイメージだが、海水浴シーズンは7月中旬頃だ。4月からシーズンだという沖縄県を除いて。
「大丈夫、海には入らないから」
「だったら何しに行くんだ?」
「今決まっているのは、砂浜でビーチバレーをするぐらいかな。その他にやることは当日に色々と決めようってことになっている」
ああ、そうか。海は塩水を浴びる以外にもやれることは色々あるのか。
「久しぶりだよ、心の底から明日が楽しみだっていう感覚を味わえるのはさ」
慶成は満面の笑みを浮かべてそう言った。
クラスの連続死が起こって以降、2年1組のクラスメイトたちにとって、明日を迎えることは恐怖以外の何ものでもなかったはずだ。でも今、慶成は明日が来ることを望んでいる。クラスメイトと一緒に海に行くという、些細な青春の一ページに胸をときめかせている。
そんな慶成の姿を見ていると、俺も明日が楽しみになってきた。
この連続死を解決さえすればきっと、毎日の明日が楽しみだと思えるようになるだろう。
だけど、そう思えるようになる日に、果たしてクラスメイトは何人残っているのだろうか──。




