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第20話

「その様子だと、やはり何か知っているんだな」


 俺が何も答えられずにいると、上野は淡々とそう言った。


「答えたくないならそれでいいさ。無理に話を聞こうとは思わない」


 もう用は済んだと言わんばかりに、理科室から出て行こうとする上野。あまりにもあっさりし過ぎているその態度に驚いてしまう。


「待ってくれ」という言葉を無意識にかけていた。


「どうした?」


「──なぜ俺が、連続死のことについて何か知っていると思ったんだ?」


「お前だけ、周りと表情が違ったからだ」


 周りと表情が違う? どういう意味だ?


「朝、村上が今日は誰も死んでいないという話をした時、クラスメイトは全員、程度は異なるが喜びの表情を浮かべていた。もうクラスから死人が出ないと思えば、そういう表情になるのが当然だ。でも、お前だけは違った。財前、お前はあの時、一人だけ陰りのある表情をしていた。みんなが歓喜している中、一人だけ」


 その通りだった。俺はみんなが喜ぶ中、喜べずにいた。あの時上野は、冷静に教室の様子を俯瞰していたということか。


「あの状況で憂いを帯びた表情になってしまうのは、『連続死がまだ終わっていない』ことを知っているからだと推察できる。それは、これまでの連続死について何か知っている、ということと同義だ」


 ぐうの音も出ないとはこういうことを言うのだろう。上野を欺くことは、おそらく無理に違いない。


「お前の言うとおり、俺はこれまでの連続死について知っていることがある」


 だったら正直に言った方がいい。


 俺は上野に、今までのことを全て話すことにした。






「なるほど、ルーレットか」


 俺が知っていることを全部教えても、上野は特に驚いた様子を見せなかった。いつもと変わらないクールな表情を浮かべている。


「いくつか質問していいか?」


 俺は小さく頷いた。


「まず始めに、お前がディーラーに選ばれた理由に心当たりはあるか?」


「ディーラー?」


「要はルーレットの回し手って意味だ。クラスメイトは30人もいるのに、その中から財前のスマホにだけアプリがインストールされた。まあ、黙っているだけで、他にもアプリがインストールされているやつがいるっていう可能性もあるが、ルーレットの仕様やクラスメイトの様子を見る限り、それはほぼなさそうだ」


「心当たりは全くないよ」


 選ばれたというよりは貧乏くじを引いてしまったという言葉の方がしっくりくる。いずれにせよ、30人もいるクラスメイトの中で、俺のスマホにアプリがインストールされた理由は分からない。


「次の質問だが、この話は俺以外の誰かにしたことはあるのか?」


「お前が初めてだ」


「松島にも話したことがないのか?」


「ないよ、誰にも言っていない」


 正確には、夢の中で莉璃には話したことがあるが、そのことを言う必要はないだろう。


「最後の質問、どうしてルーレットの話をクラスメイトや世間に公表しないんだ?」


「──言うと、大混乱が起きるだろ? それに、こんな話を信用してくれる人間がどれだけいるか分からない」


「それもそうだな」


 少なくとも今、何の考えもなしに公表したところで事態が好転するとは思えない。むしろ悪化する可能性の方が高い気がする。


「色々教えてくれてありがとう。じゃあ俺、教室に戻るから」


「ちょっと待てよ」


 歩き出そうとする上野の右腕を俺は思わず掴んでしまった。


「どうした?」


「──いや、他に聞きたいことはないのか?」


「特にない」


 一切の迷いのない即答だった。いくら何でもあっさりし過ぎている。これが他のクラスメイトだったら、もっと質問攻めをしてくるに違いないのに、この男は無関心すぎる。


 俺の話をそもそも信用していないのか? いや、何となくだがそんな気はしない。だとすると──。


「実はお前こそ、ルーレットのことを何か知っていたんじゃないのか?」


 もしそうであれば、無関心であることに合点がいく。


「何も知らなかったよ」


 しかし上野は否定した。嘘をついているようには見えない。


「明日はお前が死ぬかもしれないんだぞ、怖くはないのか?」


「別に怖くはないな。ただ、だからといって、今すぐ死んでもいいと思っているわけでもない」


「なあ、どうしてそんなに冷静でいられるんだ?」


「慌てたり、恐怖に怯えたりしたところで、命が助かるわけじゃないだろ?」


 ノートに書かれている文章を、ただ無感情に読み上げるような感じで上野は問い返してきた。


 上野は元々、生きることに執着がないのかもしれない。死ぬことを、風邪を引くのと同じぐらいの感覚で捉えているような雰囲気を思わせる。


 他人の生き方や考え方を無碍に否定するつもりはない。でも──。


「俺はこの連続死を止めたいと思っている。クラスメイトたちを救いたい。もちろんその中にはお前も含まれているし俺自身もだ」


 ルーレットで当たった番号と同じ出席番号の生徒が死ぬ、などというふざけた死を見過ごすことはできない。例え上野が望まないとしても、俺は彼を救いたい。


「死を止める方法があるのか?」


「分からない、でもあると信じている。その方法を見つけるためにこの数日間、必死に考えているし行動もしている」


「行動というのは?」


「その日の0時に死亡予定のクラスメイトに接触している。会話をする中で、そのクラスメイトを救える方法が見つかるかもしれないからな」


「でも、今のところ誰も救えていないんだろ?」


「そうだ。でも、今日は救えるかもしれないし、今日が無理でも明日なら救えるかもしれない。明日が無理なら明後日には──。俺は自分の番が来るまで、諦めるつもりはない」


 上野はじっと俺のことを見ていた。無表情だけど生気の宿った、そんな不思議な表情をしている。


 こいつは一体今、何を考え、どんな感情なのだろうか。


 上野純という男は、謎に満ちている。


「上野、俺に協力してくれないか? クラスメイトを助けるために、手を貸して欲しい」


 だけど、仲間になってくれると心強い。上手く言語化できないが、俺の第六感がそう告げている。


「別に構わないが、あまり期待はするなよ」


「──本当に、いいのか?」


「ああ」


 あっさりと承諾してくれた。正直、「そんな無駄なことはしたくない」と一刀両断されると思っていただけに拍子抜けしてしまう。


 上野は相変わらず、感情の読めない涼しい顔をしている。


 何を考えているか分からない男だが、ひょっとしたらいつか、彼のことを理解できる日が来るかもしれない。

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