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第18話

◇6月16日(水)


 朝のホームルームで飯島の死が村上先生から報告された。死因は今まで亡くなった5人と同じで脳出血。


 驚きはないが、次は自分かもしれないという恐怖が教室を漂っていた。


「実はみんなに、言っておきたいことがあるんだ」


 そう言ってレオン=ルイスは椅子から立ち上がった。クラスメイトたちの視線が集まる。


「来週の土曜日に、イギリスに帰国することになったんだ」


 レオン=ルイスは父親がイギリス人、母親が日本人のハーフだ。父親の仕事の都合で中学校一年生の頃に来日している。細身で背丈が180センチぐらい、ライトブラウンの髪に高い鼻筋とサファイアのような瞳をしていて、雑誌の表紙を飾る外国人モデルのような男子生徒だ。


「それは本当か、レオン?」


 村上先生は驚いた表情でそう問いかける。どうやら学校にも連絡していなかったことらしい。


「本当です。昨日、父様にそう言われました」


 レオンの日本語はとても流暢だ。たまにカタコトになることもあるが、会話に支障をきたすレベルではない。


「帰国の理由は──今このクラスで起こっている不審死が原因?」


 クラスのリーダー大野が尋ねる。


「そうです。父様は俺を守ためにイギリスに帰国すると言っていました。日本は好きだけど、今の状況は危険すぎると。俺も日本が好きなので、とても辛いです。──ちなみにイヴェットは、家族から帰国の話とかはされていないのですか?」


 イヴェット=イェルは、両親共にアメリカ人の、純アメリカ人女子生徒だ。小学校入学前に来日しているらしく、レオンよりも日本の滞在歴は長い。肩まで伸びた金髪は毛先が軽くウェーブしており、くりっとした大きな目には、綺麗な茶色の瞳が輝いている。レオンとイヴェットが並ぶと、ハリウッド映画の撮影でもしているのかと錯覚してしまう。


「私は今のところ、帰国の予定はないわ。お母さんはとても心配してるけどね」


 レオンよりも流暢な日本語でイヴェットは答えた。


「レオンがいなくなると、寂しくなるね」


 大野の言葉に多くのクラスメイトたちが頷いた。話しやすく、実直な性格の彼はクラスの中はもちろん、他クラスの生徒からも人気が高かった。


「もっと日本にいたかったなあ……」


 名残惜しそうにするレオンだが、毎日一人ずつ誰かが死亡するクラスから、我が子を遠ざけたいという父親の判断は妥当なように思えた。


「明日死ぬのは、レオンかもね」


 日本国憲法が愛読書である小西太郎が突然、不謹慎な発言をし出した。口元をニヤつかせており、不気味な笑みを作っている。


「小西、何でそんな酷いことを言うんだ!」


 大野はギロリと小西を睨む。しかし小西は「ふふふっ」と笑みを絶やさない。


「大野、忘れたのか? 星野さんが死んだ時のこと。彼女は学校を休んだ翌日に死んだ。そのことについて西川さんが言ってたじゃん、『逃げ出す生徒は見せしめのために次の死のターゲットになるかも』ってさ。イギリスに帰国するだなんて、呪いが許すわけないじゃないか」


「それはただの推測だろ? 絶対にそうなるなんていう確証はどこにもない!」


「それを言うなら、絶対にそうならないという確証もないよ」


 ニヤニヤしている小西に、大野だけではなくクラスメイトたちも軽蔑した視線を向ける。小西が勝手な推測をするのは自由だ。しかし、それをこの場で、レオンに言う必要は1ミリもない。


 なんて嫌なやつだ──。


 小西はこの一連の死の騒動を楽しんでいるような雰囲気を醸し出している。同じ人間とは思えない。


 前からいけ好かないやつだと感じていたが、ここまで最低だとは思わなかった。


「二人とも、ケンカはダメです。言い合いをしたところで、何も解決はしないですから」


 レオンは二人に向かってそう言った。


「レオン、でも──」


「大野、気持ちは嬉しいですが落ち着いてください。俺は別に気にしていませんから」


 親指と人差し指でOKサインを作るレオン。素晴らしい人格だ、日本国憲法が好きなアニメオタクに、少し血を分けてやりたい。


「──まあ、明日の朝、誰が死んでいるか少し楽しみだね」


 尚も小西は不謹慎な言を続ける。クラスメイトの死を楽しみだと思える感覚を持っていることに、嫌悪感がわく。


「小西、もう黙ってろ」


 流石に聞き捨てならないと思ったのか、村上先生が止めに入った。小西は不貞腐れた表情をしたが、それ以上何も言うことはなかった。


 小西は明日、レオンが死ぬことを期待しているのだろう。そうなれば、逃げ出した者が優先的に死亡するという仮説が仮説ではなく、結果に変わるからだ。


 しかし、明日死ぬのはレオンではない。


 レオンの出席番号は28番。今日の朝、ルーレットで当たった番号は6番だった。


 出席番号6番の生徒は、柏木明久だ。


 ルーレットの結果によれば、明日死ぬのは柏木だ。しかし、彼はもうこの世にはいない。不運にも二日目、精神に異常をきたした彼女によって殺害されているからだ。


 既に亡くなっている生徒がルーレットに当たった場合、一体何が起こるのだろうか?

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