第12話
「──財前? 何か用?」
今日のルーレットで当たった番号は23番。出席番号23番の男子生徒は、怪訝な表情を俺に向けている。
船木章三は口数の少ない男子生徒だ。クラスの中で誰かと話している姿をこれまでに見たことがない。実際に俺もこうして会話を交わすのは初めてだ。今まで交流のない相手から下校時に、急に声をかけられたら不審に思うのも仕方ないだろう。
ちなみに船木はテニス部に所属している。クラスに友達らしき人物はいないが、他クラスのテニス部員と話している姿はよく見かけるため、学校内で孤立しているというわけではない。
「えっと、特に用はないけど──姿が見えたから声をかけただけで──」
俺のあたふたとした言葉に、船木は眉間に皺を寄せる。
ルーレットが当たった人物と話をすることで、死を防ぐ糸口が何か見つかるかもしれない。もちろん何の根拠もないが、何もしなければ確実に死んでしまう。それならば、例え無駄な足掻きだとしても何かをした方がいい。クラスメイトを救うために俺ができることは、今はそれぐらいしか思いつかない。
とは言っても、流石に会話の話題ぐらいは考えておくべきだった。さて、どうしようか。
「用がないなら、帰っていい?」
「いや、ちょっと待ってくれ」
一体何を話せばいいのだろう。テニス部だからテニスの話題を持ち出すか? いや、そもそも俺はテニスのことなんて全く知らない。適当に好きな歌手でも聞いてみるか? だめだ、偏見だが船木に好きな歌手の類がいるとは思えない。
何か話が続きそうな話題はないだろうか──。
ん? あれは──?
船木が持っているスクールバッグに、500円玉サイズのキーホルダーがついているのが目に入った。
「にこまる?」
「にこまる」とは、黄色の猫のような形をしたキャラクターだ。悪い宇宙人が地球を侵略しにやってくるが、正義のヒーロー「にこまる」が宇宙人を追い払って世界を救うというアニメが、小学生の頃に放送されていた。
その「にこまる」のキーホルダーを船木はスクールバッグにつけている。
「にこまるを知っているのか?」
怪訝な表情を驚きの表情に変えて船木はそう聞いてきた。
「ああ、小学生の頃にアニメを見てたから」
アニメ放送がされていたものの、にこまるは世間一般的に有名ではなかったはずだ。当時、俺の周りでにこまるのアニメを見ていた友達はいない。
「あのアニメめちゃくちゃ楽しかったのに、何で人気が出なかったんだろう」
個人的ににこまるは、俺が見てきた数少ないアニメの中で一番面白い作品だと思っている。でも世間の評価は正反対。ひょっとして俺は変わり者なのだろうか?
「船木も、にこまるが好きなのか?」
キーホルダーをつけているくらいだからきっと答えはYesだ。でも、一応質問してみる。
「うん。基本的にアニメとかあまり見ないんだけど、何故かにこまるはかなりハマってしまってさ。でも、周りにはにこまるを知っている人が誰もいないんだよね。まさか財前が知っているとはなあ」
船木は頬を緩ませてそう言った。初めて同士が見つかって嬉しいのかもしれない。
「キーホルダー以外にもグッズを持ってるのか?」
共通の話題があると話は弾む。俺はさらに質問をした。
「持ってるよ。クリアファイルにマグカップ、置き時計、他にもたくさん家にあるよ」
「それはすごいな」
「いわゆる俺の『推し』ってやつだからね」
にこまるのアニメは小学生の頃に放送されていたが、再放送はされていない。数年前に終わったアニメのグッズを今もそんなに持っているということは、相当なにこまる好きなのだろう。
「もしよかったら今から俺の家に来ない? グッズ、見せてあげるよ」
「──いいのか?」
「うん」
家に招待してくれるとは、まさに渡りに船だ。これで船木とさらに会話を続けることができる。
黄色の猫のような形をしたキャラクターに、俺は心の中で感謝した。




