090 夜の訪問者達4
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。大企業財閥御曹司。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。親が大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○華蔵透子・理人の妹
○斉藤豊子・華蔵家女中頭。
○斉藤美郷・豊子の孫。白吹村女子高生。
○戸田広雪・白吹村男子校生。3年。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
○ 秋月未来・白吹村役場職員。
○林有里子・白吹村役場職員。
"誰か、好きな人が……いるの?"
それは最も正火斗にとって向き合いたくない話題だった。
彼はその場を逃げたくなったが、浅倉はがっちりと彼をつかんで答えを待っている。
「………………気になってる…………相手は…………いる……」
認めるのが酷く嫌で、おそらく表情にも出ていた。それを見たのだろう──浅倉は驚いていた。
「だ、誰……? 私…知ってる人……?」
余計ややこしくなるのが目に見える
「答えたくない」
そう言って正火斗は、驚きで緩んだ浅倉の手を逃れて立ち上がった。彼女も続いて立ち上がり、そして呟いた。
「そんな人がいるなら……付き合ってくれなくて良かったのに」
この浅倉の言い分は もっともだと思った。
「悪かった。……あの頃もだし今も、好きだの嫌いだのとは思ってもいない相手なんだ。ただ……気にはなってる。
できれば気にしたくもなくて、今後は関わり合いにならないようにしようとも思ってる」
誠実に説明しようとして、本音が思わずベラベラと出た────訳の分からない本音が。
浅倉は目を丸くしている。
「なんだか……複雑なのね。正火斗がそんなに悩んでるなんて思いもしなかった」
「悩んではいない。……少し混乱は……しているかもしれない。何で特別に感じるのか……」
頭を抱える正火斗を 浅倉は黙って見つめた。
ショックでもあり 不思議と……面白がる自分もいた。彼にこう言わせることができる人間が──羨ましいなとも。でも……
「そう言う感じなら……まだ私と付き合っていても……だめ? いつか正火斗がその気になる相手への気持ちを恋愛感情だって判別できたら、その時はちゃんと別れを受け入れるから」
そんな日は来ることは無い
「浅倉には、これからも水樹の友達でいて欲しい。君は……良い人だから。
もっとお互いに傷ついて取り返しがつかなくなるほどに憎み合ったりしたくないと思った。
……それから実は……」
彼は珍しく言葉に迷った。浅倉は促した。
「言ってしまって、正火斗」
「……誕生日プレゼントがほしいと思った」
「何がほしいの?」
「別れてほしい……」
浅倉はつい笑ってしまった。
「最低。それじゃ、断れない」
「本当にごめん」
彼はそう言って頭を下げた。
こうまでされる自分が情けなくもなり、こうしてくれる彼を憎くも 愛おしくも思ってしまう────
「分かった。別れることは……分かったわ。仕方ないみたいだから」
けれども そんなに すぐには割り切れない
「別れても私は好きだから、正火斗。これまで通り」
顔を上げた彼の表情は当然かたい。でも譲れない。
「だから、正火斗の方が相手とどうなっているかは教えて。上手くいったら 私も諦め易いし」
すると彼は露骨に嫌な顔をした。美形であってもかなりの崩れ具合だ。笑わされてしまう程に。
「何よ、別れてあげるんだから、それくらいいいでしょ!」
彼の腕を軽く はたいた時に、LINEの着信が点滅した。表示が見えたので 思わず飛びつく。
「正火斗、今日会った戸田広雪くんから、24日に冴木さんを広間で見ていた高校生が見つかったって!!」
正火斗が浅倉のところまで来てLINEを覗く。
「冴木さんと話していた相手は……」
そこまで言って 彼は言葉を切った。答えは分かった。
──その時だった、すぐ外の廊下を走る音と声がした。
「正火斗先輩!! 大変ですー!!」
椎名の声だ。
咄嗟に正火斗はドアに行って開けた。
廊下を走る後ろ姿の椎名と桂木に声をかける。
「椎名、こっちだ! どうした!?」
椎名と桂木は振り返って、ただの驚愕ではない驚愕をした。──正火斗が浅倉の部屋に2人でいたことを驚愕されたんだと気づいた時には、全てはどうにもならなかった。
お互い何でもない大人の対応に徹する
「ぁああ! 正火斗先輩、ここここここちらでしたか! すみません、あの、大変な時に! こちらも大変だったもので!! すぐ会えて助かりました! ハイ! いてくれて〜ハハハ! 良かったデス!!」
椎名はだいぶテンションが迷走しているようだ。その分、いつもよりも桂木は冷静だった。冷静というか……下がってる?
「すみません夜中に……。斉藤美郷の探していた"空き箱"が分かったんです。
オレのもらった林有里子さんからの腕時計のプレゼントの箱です。箱の中から、文章が書かれた紙が出てきました」
桂木は細長い用紙を正火斗に見せた。そこには
"華蔵透子を連れ去る時間"
とあって、桂木は続けて針の止まってる腕時計を出した。
「多分、この時間のことです」
正火斗の後ろから浅倉も
「こっちも戸田広雪くんからの連絡があって、冴木さんがトークタイムで話していた相手は秋月未来さんだって!!」
と発表したので
「ええ!? 秋月さん!?」
と声が上がり──見ると廊下の反対側には神宮寺、水樹、秀一も扉から顔を出していた。
「秋月さん!? 秋月さんが冴木さんの死に関わりが!? ええ!?」
こう騒いでいるのは勿論 神宮寺だ。
気のせいか、正火斗は様々な混迷度が深まっている感じがした。




