086 洋館を去る者
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。大企業財閥御曹司。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。親が大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○華蔵透子・理人の妹。
○斉藤豊子・華蔵家女中頭。
○斉藤美郷・豊子の孫。白吹村女子高生。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
○赤沢幸太郎・新しい華蔵家運転手。
○戸田広雪・白吹村男子校生。3年。
○ 秋月未来・白吹村役場職員。
○林有里子・白吹村役場職員。
○葉崎達哉・25年前からの行方不明者。
豊子は理人と書斎で話し合うことにはなったが、美郷を家に帰してほしいと懇願した。
美郷の方も理人の許可も出ないうちにスマートフォンで電話して、家の人に迎えに来てほしいと連絡してしまった。
誰もが美郷から話を聞きたかったが、美郷だけの拘束は問題だし 2人を残しても2人共何も言わない可能性は高い。
"盗もうとした"という発言はあるが実際に盗んだ訳でも無い。警察を呼ぶのは無意味だし──理人もそれを望んではいない。
「分かった。話は豊子から聞こう」
仕方なく──理人はそう決断した。
「着替えて来ます」
と足早に斉藤美郷は女中用の控室に向かった。
桂木はそれを追った。
1階の更衣室兼控室で美郷は窓から外を見ていた。
土曜日で仕事が休みの父親の車が来たのを確認してから、彼女は荷物を持って控室のドアを開けた。
「このまま泥棒まがいでいいのかよ? 君も豊子さんも本当は盗もうとはしてないんだろう?」
桂木だった。美郷が出てくるのを待っていたのだろう。壁に寄りかかって彼女を見下ろしている。
美郷は唇をかんで何も言わずに桂木の前を通り過ぎようとした。
「"誰に言われたか"は聞かない。でも教えてくれ。何を探してたんだ?」
美郷は玄関へと歩いていく。桂木は彼女についていく。
彼女が玄関を開けた時、桂木は美郷の左手を掴んだ。
「何十年もここに勤めていた豊子さんが本当に誤解されたままでいいのか!? 教えてくれ、オレの部屋で一体何を探していた?」
美郷は桂木を見つめて 小さな声で言った。
「箱。……空き箱……」
「え……?」
桂木が聞き返そうとした時
「美郷!! 来なさい!」
と外の車から声がした。見ると乗用車の車の窓が開いていて 中年の男性が睨んでいた。
桂木は反射的に美郷を掴んでいた手を放した。
美郷は車へと走って行く。
"箱? 空き箱?"
美郷の残した言葉を桂木は繰り返した。
その後──洋館には椎名と浅倉が戻って来た。
午後の空き時間は、正火斗は自分の使っている当主部屋にミステリー同好会メンバーと風晴、聖を呼んだ。
それぞれに行った先からの情報を報告し合う。
秀一と水樹からは洋館内の従業員達の話。
正直言って当たり障りのないものばかりだった。誰も彼も当主の悪口も村人の悪口も言わないような感じだ。
又、冴木拓眞や風晴、聖の行方不明事件の頃には 従業員のほとんどは帰っていた。
ただ冴木は3年前にここで働くようになってから──女性関係の噂は絶えなかったらしい。
付き合ったという女中もいた。しかしこの半年くらいは"恋人"と特定される女性は、女中達は皆 知らないと言った。
桂木、神宮寺は秋月未来の話からの林有里子についてを報告した。
両親については、母親は優しいが役場管理職の父親は少し怖い人物なようだ──とも。
椎名と浅倉は 戸田広雪からの連絡待ちであることと喫茶店で会った夫婦からの話、理人と透子の母親である優美子は自殺である可能性が高いこと──それから、新運転手の赤沢幸太郎から"白吹の呪い"を嗅ぎ回ることへの忠告があったことを述べた。
正火斗、風晴、聖は冴木拓眞の母親の話と洞窟所有者の金森香世の話だ。
金森香世は 優美子の高校時代の恋人でもあった葉崎達哉の姉でもある。彼女は 弟は殺されていて、"白吹の呪い"は人為的なものだと確信していると報告した。
最後に桂木は──今日の午後にあった斉藤美郷の客室荒らしと、それを盗難未遂に わざわざすり替えた豊子の話をした。
去り際に美郷が言った『空き箱』の言葉も。
だが桂木自身は、いくら考えても自分の所持品の『空き箱』については思い当たらなかった。
正火斗は わざわざ天羽生颯の話を出したりはしなかった。
実際 みんな それどころでは なくなっていた。




