084 ややこしさ倍増
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。大企業財閥御曹司。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。親が大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○橘信蔵・華蔵家執事。
○斉藤豊子・華蔵家女中頭。
○斉藤美郷・豊子の孫。白吹村女子高生。
○山原海・華蔵家料理人。
○秋月未来・白吹村役場職員。
雪像祭り会場は徐々に風が強くなり雪が降り始めた。
昼の時間も近くなり、秋月は家に帰って家族と昼食を取ると去っていった。
あの後秋月未来に"白吹の呪い"について聞いたが、話を聞いたことがある──程度の認識しか彼女はないようだった。
それでもいくらかは情報は得られた。
帰ろうかと桂木と神宮寺は車に戻った。
すると思いがけず────運転してくれている橘から提案があった。
「桂木様神宮寺様、ちょうどお昼でございますが実は……昼食について私から"オススメ"がございます。よろしいでしょうか?」
桂木と神宮寺は顔を見合わせた。
「お屋敷の外に出ての昼食は私には珍しいことなのです。行きたいお店があるのですが、お付き合い願えませんか?」
おー? という意味の無さない声と共に
「橘さんの行きたいお店どこでしょう!?」
「いいじゃん行こう行こう!!」
と2人は賛同した。
ジュー……と、鉄板から湯気が立ち上がる。
お店の人が開けてくれた丸い蓋の下からは、焼き上がったお好み焼きが現れた。
「鉄板焼き屋さん!!」
「確かに洋館じゃ、無理そう!!」
高校生の歓声に橘はニコニコしている。
「やはりお若い方にも喜んでもらえますね。ご一緒できて嬉しいです。
山原さんは、言ったらフライパンででも作っては下さるんです。──しかし、こういうのは雰囲気もありますからね」
桂木はチーズ乗せで、神宮寺はエビイカ入りにしてもらった。生地の厚い関西風だ。橘はネギ入りにしてもらっている。
ここで2人は謎だった橘さんの生活について質問した。
「橘さんは洋館で夜も泊まりで──あそこで暮らしながら勤めてきたんですよね? ……何歳からですか?」
チーズお好み焼きをヘラで桂木は切り分ける。
このヘラは『テコ』や『コテ』とも呼ばれるらしい。
「元は庭師でしたから……執事として洋館に入ったのは40歳くらいからなんです」
「「へぇ!!」」
2人も驚いた。橘には執事としてのイメージしかなかった。
「若い頃は私も東京に出ました。仕事も家庭も失敗してバツイチです。白吹に戻ってきてから庭師に弟子入りしてました。今も夏や秋は庭をいじっていますよ」
神宮寺は思ったことを聞いてしまう。
「理人さんが洋館を売却してしまったら橘さんはどうなっちゃうんですか?」
「いやぁ……理人様は、私と豊子さんには退職金を約束して下さっています。山原さんと冴木さんにも次の職場を用意すると言っていました。
私に限っては、暮らしの準備をしろと半額はもう頂いてまして」
橘は頭をかきながら言った。
裏話に桂木と神宮寺は目を丸くするばかりだ。
「後払いと合わせたらかなりの金額なんです。──ですから、私自身は理人様のご決断にはなんの文句も無いです」
職を失う不安があるかというのは、こちらの勝手な憶測だったようだ。
「いい職場だったんですね……」
桂木はお好み焼きを頬張りながら言った。
「あんな立派な館に住めますし、まかないで旨いものも食べれましたからね。自分にとっては間違いなく良い職場です」
神宮寺はやはり、頭に浮かんだことをすぐ口にしてしまう。
「再婚はなさらなかったんですね。……でも洋館の中で何かしらはあったんでしょうね、橘さんも」
橘は少し照れたように苦笑いした。
「いろんな人が来ますからね。若い頃は仕事仲間から声をかけられたりはありました。こちらもアプローチしたり。
今は────皆様が眩しいですよ。
何が正しいか間違いかはともかく、それぞれが感じたり考えたりしていることは……大切なことです。
そのうち悩んだり迷ったりもしないで、機械がすぐ答えをくれるような時代になるんでしょうね。
それが幸せなのか、私には疑問ですが」
そうして橘はネギ入りお好み焼きを口に入れた。
桂木は今朝の、斉藤美郷と椎名のやり取りを思い出した。
チャットGPTに聞いていたら、どう対応するのが正解だと言っただろうか?
聞いてる時間も無かったが
だが自分はやはり間違えた。──とんでもなく間違えたとは……分かっている。
椎名は桜田風晴が好きで、自分はずっと浅倉奏衣に片想いをしている。
なのになんだって自分と椎名が両想いで恋人同士なんて話を斉藤美郷にしてしまったのか……
自分はともかく、夏休みから見ている限り椎名と桜田はうまくいく可能性は充分ある。──というか、うまくいきそうだったんじゃないか、あの感じは
物凄く邪魔者だ。最低だ、オレ
そうして桂木慎は心から思ってしまった。
椎名が桜田とうまくいくように絶対 応援しよう! と
────そう 思ってしまった…………




