080 喫茶店の温もり1
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。大企業財閥御曹司。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。親が大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
○赤沢幸太郎・新しい華蔵家運転手。
○戸田広雪・白吹村男子校生。3年。
浅倉が戸田広雪に連絡すると 戸田はすぐにも会ってくれることになった。
会う場所については迷ったが、試しに喫茶店"寿"の名前を出してみると──なんと戸田の家から近いことが分かった。
それで 彼らは喫茶店で会うことに決めた。
浅倉奏衣が戸田と忙しくやりとりする姿に 椎名はむしろ救われていた。
ぼぅ……っとしていても……許される。
心もグチャグチャ
頭もグチャグチャ
桂木との出会いは中等部の頃からで 1年半程になる。想っていたこれまでの期間を思い出して また涙が浮かびそうになったが、必死に打ち消した。
浅倉先輩の前でなんで泣いているのか聞かれたら大変なことになる…………
椎名もすでに気付いていた。
桂木先輩が好きなのは 浅倉先輩だ
喫茶店"寿"は木造りの外観に赤銅色の屋根がかかっていた。落ち着いたその赤色は木材の茶色と合っていて、それでいて雪をかぶった街並みの中でも目立っている。
駐車場に車を入れて、ここでは新しい運転手の赤沢幸太郎も車を降りた。
店のドアを開けるとカランカランと鈴の音が響く。
「いらっしゃい! よく来てくれたね」
と眼鏡の松下寿明がニッコリして迎えてくれた。
その笑顔と店内のコーヒーの香りに浅倉と椎名は包まれた。
10時開店の店内はまだ人がほとんどいない。だが、奥のボックス席に背丈のある若い男性は座っていた。
「戸田くん!」
見つけると浅倉は手を振った。やはり彼が戸田広雪だった。椎名はそれも助かったと思った。
彼がまだ来ていなかったら、浅倉先輩と2人で待つのは今の自分には辛かっただろう……
赤沢はカウンター席に座った。当然松下と知り合いのようでコーヒーを注文している。
浅倉と椎名は戸田の待つボックス席に向かう。
しっかりと話を聞いて帰らなくては────
椎名はいつも持ち歩くタブレットとノートを抱える手に力を込めた。
戸田は来るといつもコーヒーフロートらしくて 今日もそれを頼んだ。浅倉はウィンナーコーヒー。
椎名は どうしても甘いものに癒されたくなっていて
「ごめんなさい、ホットココアってありますか?」
と松下に聞いてみた。
「あるよ。冬季限定のだからね、是非飲んでいって」
と言われてホッとする。
隣りでは、浅倉が早速 戸田にクリスマスパーティーのトークタイムの時のことを聞いていた。
「あの時僕らと冴木さん以外にいた奴らだね。確かに顔は見たことがある! 湯谷高校の生徒のはずだ!!」
浅倉と椎名は顔を見合わせた。──良かった。これでその人達と連絡が取れれば……
浅倉は更に説明した。
「あの時あの広間で 冴木さんが誰と話していたかを知りたいの。
広間にいた高校生に会えたら1番 嬉しいけれど……叶わないなら、冴木さんの話し相手がどんな人だったか分かるだけでもとても助かります」
戸田はスマートフォンを出して
「今 冬休みだし年末に入ってきているから連絡取るのちょっと時間がかかるかも。
男子の方──多分隣のクラスのヤツだとは思うんだけど、オレの知り合いってわけじゃないし……」
言いながら彼はもう打ち込みだしてくれている。
その姿に何だか浅倉は申し訳なくなった。
「強引なお願いばかりして本当にごめんなさい。……呼び出しも……急にしてしまって……。
どうしても手がかりか戸田くんしかいなくて」
戸田は顔を上げて浅倉を見た。
「何にも。やることも無かったし呼び出し嬉しかったよ。
ちょうど寿のコーヒーフロート飲みたいかなぁって思ってたし。──オレ、夏も冬もコーヒーフロートなんだよな」
笑い飛ばして戸田は言った。ちょうど松下がコーヒーフロート、ウィンナーコーヒー、ココアを持ってきてくれた。
「これこれ」
と言いながらコーヒーフロートに向かう戸田に、浅倉も椎名も微笑んでいた。
彼はのっているソフトクリーム部分を食べながら浅倉に尋ねた。
「付き合っている人とは? クリスマスうまくいった?」
瞬時に浅倉の表情は沈んで、その変化に──大柄な彼女が縮んで見えたほどだった。
浅倉は無言で首を振ってから
「今日は彼の誕生日だったはずだけど……今朝メールしても"ありがとう"って一文だけ。
今回はみんなで行く旅行の最中だから騒がなくてはいいとは元々言っていたの。
いろいろ事件も起こって、頭の中が……それどころじゃないみたい。それも いつものことなんだけれど……」
と力無く言葉を吐いた。
椎名は、いつもハキハキしている美人の副部長の打ちひしがれる姿を その時 初めて目にしていた。




