076 スレスレでなくガチンコの車中
ー登場人物紹介ー
◆大道正火斗・鳳翔院学園3年。大企業財閥御曹司。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○華蔵透子・理人の妹。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
○天羽生颯・白吹村の引きこもり男性。
正火斗と風晴は何が大丈夫なのかはよく分からなかったが、聖がやる気を──とても珍しく出しているので天羽生颯の運転する車に(仕方なく)乗ることにした。
車が動き出して走り出す。
しばらく誰も話さなかった。
全員様子を伺っているかのような緊張感が続く。
それが暫く続いた時、正火斗は会話が無いなら無いで良いと思った。むしろ安堵する──その時、隣りにいた風晴に突然 腕を引かれた。
「正火斗!」
決して大きくはないが風晴の声は切迫していた。
身を乗り出すと風晴はラジオを指差している。そこからは……
「失礼」
正火斗は長い手を伸ばしてラジオのボリュームを上げた。
「な、なんだよ!!」
と天羽生が騒ぐが、誰も聞いていない。3人はラジオのニュースに集中した。
『……木拓眞さんと見られています。冴木さんは12月24日 深夜から行方不明になっており、警察が捜索している最中でした。発見された遺体には外傷があり、死因については調査中とのことです……』
「冴木さん……」
風晴が小さく呟いた。
その時 天羽生があざ笑うかのように言った。
「はっ、アイツ死んだんだ。そんな悪いことでもないと思うよ。特に透子様にとってはね」
後部座席の3人は言葉を失っている。天羽生は更に続ける。
「やなヤツだったよアイツ。高校にも顔を出しているみたいで女子高校生にもキャーキャー言われたりしてさ、役場職員達とも仲良しで。
村に来ない理人様と透子様と連絡取っているからって、みんなにチヤホヤされてたんだ」
小さな溜め息が風晴から聞こえて、正火斗は彼が呆れているのだと分かった。確かに小学生の嫉妬みたいだ。
「透子様はアイツと特別な関係だと思い込んで悲しんでいるかもしれないな。────僕、教えてあげようかな。アイツじゃ、何人と付き合っていたか分かったもんじゃないって」
正火斗は何か許せないものが込み上がって発言した。
「やめろ。透子様は昔からの親しい知り合いを失って悲しんでいる。残った思い出にわざわざ水を差す必要なんてない」
「何言ってんの? 真実を知った方がいいに決まっているだろう? それにどうせ いつかは分かることだ」
正火斗は膝の上の拳を握った。無意識に力が入る。
「いいや。透子様はゆくゆく理人様と白吹村を離れるだろう。だからこそ美しい思い出が支えになる人だっている。その支えを崩すような真似は残酷だ」
天羽生はチッと舌打ちをした。
「君って本当に偉そうに言うよね? 背が高くて顔が良くて偉い──僕の最も嫌いなタイプだよ。
そんなことは透子様自身が選ぶことなんじゃないの? 言うかもしれないよ"本当の姿を知りたい"──って」
正火斗は確信を持って首を横に振った。
「君から見た姿だって"本当の姿"かは分からない。何が真実だったかなんて当人達にしか分からないものもある」
「ははっ! 中身のない都合の良い言葉だよ、それ。君がやっていることは偽善でただの嘘つきだよ。
そう言う考えで女の子、よく騙しているんじゃないの? 」
正火斗の拳に血管が浮く。風晴はマズいと思って彼の手を押さえようとした。
次の瞬間車は速度を落とす。
もう華蔵家の敷地に戻ってきていた。
車が止まった時、聖が言った。
「天羽生さん、あなたにもう会いたくないです。……大嫌いだから」
ほとんど よどみの無い、強い言葉だった。
男らしい響きさえあった。
天羽生颯も振り返って聖を見つめた。その瞳は驚愕している。
聖は初めて彼をしっかりと見返して 言った。
「正火斗はとても優しい気持ちを持ってる。あなたはそうじゃない。……もう僕に2度とかまわないで」




