075 別れ際の抱擁
ー登場人物紹介ー
◆大道正火斗・鳳翔院学園3年。大企業の財閥御曹司。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○葉崎達哉・25年前からの行方不明者。
○金森香世・葉崎達哉の実姉
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
○天羽生颯・白吹村の引きこもり男性。
金森家への来訪は大きな成果があった。
帰り際──風晴と隣の聖を交互に見て 金森は
「ねえ、最後にハグさせてもらっていいかしら」
と突然言った。
「ハグ!?」
風晴と聖は少し驚く。
「勝手な思い込みなんだけれど、私 凄く嬉しいのよ。あなた方が助かることに──25年前に弟を失った場所に行ったことで 携われたことが」
彼女は目を細めて微笑んだ。
「今度こそ防いでやれた! って少しは思えるじゃない」
聖や風晴──正火斗も嬉しくなった。
風晴は改めて生き延びて良かったと思った。こんなところにも、生還を心から喜んでくれる人がいる。
風晴と金森、聖と金森がハグをした後、聖が
「彼も雪崩に巻き込まれそうになった……助けに来てくれて……」
と正火斗を指差した。
風晴も
「病院でオレより入院が必要でした。脱水症状を起こしていて」
と更に説明したので、正火斗とは言え赤くなった。
しかし金森は真剣に
「必死だったのよね、わかるわ。探している側も、それはそれは苦しいものよね……」
と正火斗をやんわりと抱きしめた。
刹那────さまざまな感情が入り乱れた。
記憶にない──愛情のこもった母親からの抱擁
あの夜の風晴と聖が連れ去られたと分かったときの衝撃
助ける術がなくて 自分に感じた絶望
この人はどうやって……25年も過ごしてきたんだろう
顔を上げた時、一枚の5人の人間が写った───家族写真が目に入った。
「あの……これは……」
正火斗の視線の先に金森は気がついた。
「ああ、これね。最後にとった家族写真なの」
金森──葉崎達哉の姉は言った。
「私と死んだ夫と……息子の達樹、達夫、達仁よ」
「良い人だったな、金森さん」
金森家を出て、風晴が言った。
「良い人で……良かった……」
聖もしみじみと言った。
「強い人だな────それに」
正火斗も付け加えた。
しかも、賢い人だ
金森香世も気づいてはいるのだろう。
弟の達哉は遺体となって……それは今も白吹村内のどこかにあるはずだ──自分達はあの洞窟のある森近辺だとあたりをつけてはいる。だが、とても彼女にそんなことは話せなかった。
それでも今回 冴木拓眞を殺した連中を挙げれば、きっと犯人の中に葉崎達哉の情報を持っている者もいるはずだ。
目まぐるしく考えていた正火斗は、天羽生颯の待つ青のNOTEが視界に入ると足を止めた。
風晴と聖が不思議に思って振り返る。
「またアレに乗るのは嫌だ。もうタクシーでも呼ぼう」
正火斗はうんざりしていた。
天羽生とのやり取りで推理は確実に分断されて邪魔されている!
あの空間がとてつもなく嫌だ。
風晴は迷っている。正直、そこまで正火斗が嫌がっていることに驚いた。
すると聖が正火斗に告げた。
「大丈夫、正火斗。……今度こそしっかり……僕が言うから!」




