074 もう一つの再会
ー登場人物紹介ー
◆大道正火斗・鳳翔院学園3年。大企業の財閥御曹司。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○葉崎達哉・25年前からの行方不明者。
○金森香世・葉崎達哉の実姉
"私は弟は殺されたと思っています。──"白吹の呪い"にこじつけて"
金森香世の言葉は客間に余韻を残した。ヒーターと加湿器の音だけがシュンシュンと 耳に届く。
だがその沈黙は意外なものへの衝撃ではなく────やはりという納得をする時間のようだった。
「何故そう思われているんですか?」
正火斗は尋ねた。
「"白吹の呪い"は、そもそもの昔から人為的だとはここの人間は感じていることよ。呪いなんて本当にあるわけがない。
葉崎家はね、大道くん、白吹村の村民ですら無かったの。30年くらい前に合併されて"白吹"になっただけ。
私はこの──金森家に嫁いで──ここは確かに"白吹"だけれど、あと少し行った先は昔"湯谷"と呼ばれていたところ。
そして葉崎家は"湯谷村"にあったの」
正火斗、風晴、聖は驚いた。そこには全く気づいていなかった。
「合併直後で達哉は白吹村側から見たら完全に余所者だったんだと思う。余所者が次期当主である一豊さんの花嫁候補をさらうことを、あの人達は許さなかったのよ。
彼らは華蔵一族に対して……異様に執着しているから……」
風晴は思った疑問を口にした。
「どうしてそんなに……白吹村の人達は華蔵家に執着するんです?」
「華蔵家は平安の頃から天候に関する神通力があると信じられているからよ。
実際にこれまでに何人かが凄い力を持っていて、雨乞いを成功させたり災害を予測したことはあるみたい。
表向きには決して話されることはないけれど…………かつてはその力に政府高官も頼りに来たと言われていて、白吹村村民はさまざまな控除や助成や公共料金が他と違っていた時代があったと囁かれているの」
部屋には4人しかいないものの 金森は思わず声を潜めていた。
「これもかなり昔のことよ。それでも大きな力による特別扱いと歪んだ信仰を、誰かが忘れられずに次の世代に伝えてしまっているんだと思う」
風晴達は声にはしないが、みんなうなずいた。
聖の人の話への反応が良くなったことに──内心 正火斗は感心していた。それから金森にさらに質問した。
「湯谷村だったご先祖が あの場所に山を持つことになった経緯は……ご存知ですか?」
「華蔵家さんとは比べ物にならないけれど、葉崎家も曽祖父や祖父は湯谷村ではそれなりの地位があって村長をしたりしていたの。
隣り合う村同士の実力者としての交流があったみたい。それで お互い所有している山を交換したことがあったそうです」
「……なるほど」
正火斗は納得した。
金森はテーブルの上で手を組んで さらに話し出した。
「私がこんなに打ち明けられるのも、あなた方は華蔵理人様のところから来た東京の高校生だからよ。ここで暮らしているとなかなかこんなことは話せないの。
息子達はみんな県外に出したから白吹の因習にもほとんど気づいていないし。──まあ、それでいいのだけれど」
彼女は風晴に目を向けて続ける。
「私は遠くからだけど、理人様や透子様も白吹村から離れた学生生活を送られたことを良かったと思っていたわ。
理人様が当主になられて洋館を売りに出す話が出ているとも聞いて、間違いなくそれは彼らにとって正しいとも感じていた。
あのクリスマスパーティーはね、息子の勧めもあったから行ったのだけれど……」
そこで思い切ったように金森は言った。
「実は私、理人様にお伝えしに行ったのよ! 白吹から華蔵家が去ることを妨げるために何かが起こる気がしてならなくて。
"気をつけて下さい"って、普段身につけないコートや赤い帽子やサングラスをして彼に近付いたわ」
ん? サングラス? 赤い帽子?
正火斗は記憶を辿った。確かにクリスマスパーティーの前半でそんな女性が近くに来た──
"風の噂にあなたが館を売りにだし白吹を去るとも聞きました。ご英断だと思います。──ですが、どうか周囲にお気をつけて"
彼女の言葉を思い出した!
(この人だったのか────!)
正火斗は声に出さないように気をつけねばならなかった。
金森の方は 自分があの日の"理人"とは気づいていないようだ。
しかし微笑みは浮かんでしまった。
2人とも自分を偽って会話を交わしていたとは……
思いがけない再会は ここに もう一つあったのだ。




