005 白銀の闇の始まり3
「この洋館の──華蔵一族の直系には妙な伝承があるんだ。ここの子供が恋をすると、好かれた相手は冬の吹雪の日に姿を消す────と」
ミステリー同好会メンバーは全員"信じられない"という顔をした。そんなのは……
「僕自身も信じてなかったさ。小さな時から曽祖父に言い聞かされていたのに、だ。
曽祖父は僕に言っていたんだ。
"女の子に可愛いと告げたり、1人だけ ひいきにするのはやめなさい"──と
"神々の力を授かる私達にはそれは邪な感情で、穢れを嫌う吹雪の神に相手をさらわれてしまう"のだそうだ」
「ええっと……"曽祖父"って……ご先祖だっけ?」
聞き慣れない言葉に、桂木はだいぶ遡ってる。
「“ひいおじいちゃん”ですよ、桂木先輩」
隣から椎名が小さく教えた。
「曽祖母も私に同じように言っていました。曽祖母は盲目だったんですが"透子は人形のように可愛いとみんなが言っているから気をつけなさい"と。祖母は……私に"男の子を避けるように"──とまで」
透子からの衝撃の発言に
「ええ!? 人生恋愛禁止!?」
「そんなの聞いたことないですよ!」
と浅倉と神宮寺から悲鳴に近い声があがる。
「では、どうやって結婚を?」
秀一が尤もなことを聞いた。
「親が決めた別家の人間と見合いをして、すぐ結婚すれば問題無いようなんだ。結婚は神に約束する祝いの式だし」
「だけど見知らぬ方と好きでもないうちに結婚──ということなんですよね!?」
あまりの理不尽さにか、椎名の声は少し震えていた。
それでも理人の対応は冷静だった。
「君達 令和の高校生には理解できないかもしれないが、昔だと日本も 父親が決めて来た相手が婚約者で──そこから結婚するのが当たり前の時代や階級はあったんだよ。
親も子供の幸せを思ってはいるわけだから、問題がある人間は選ばない。子供の頃交流させて、気が合っている相手から選んではいたようだ」
「それでも問題よ。恋ができないなんて」
恋人のいる浅倉には理解不能のようだ。やっぱり令和の高校生だし。好きな人でなければ結婚だってしたくない。
しかし理人の更なる説明は場を凍らせた──
「小学6年の時だ。透子の髪型に似ている女の子がいたから“その髪型可愛いよね”と声をかけて、それから仲良くなっていた。するとその年の冬に、その女の子がいなくなっていた」
「嘘……」
「本当ですか?」
水樹と秀一の声だ。
正火斗は
「女の子の両親は警察には?」
と現実的なことを尋ねた。
「女の子の両親は僕に"娘のことを凄く好いていたのですか?"と聞いてきたよ。僕は正直に"可愛いとは思ったけれども、好きかと言われたら分からない"と答えた。
するとその両親は"それなら娘は戻って来るかもしれません"と言って……それだけだったと思う。──警察には多分届けていない」
桂木は、もう呆れたような声を発した。
「そんなのダメだろ……」
「あなたが小学6年生なら何年前? 明治や大正でもないだろうに……信じられない」
正火斗の問いに理人は答えた。
「10年前だね。平成だ。ただ女の子は戻ってきたんだよ、本当に」
「「「ええ!?」」」
その答えはまた一同を驚かせた。
「だが僕は精神的にダメージを負った。曽祖父の言葉を当時は本当なんだと信じた。それで中学からは県外の男子寮のある学校に通った。高校も大学もだ」
「私も兄と同じ頃から私立の全寮制の女子校に。父と相談して入りました」
理人は透子にうなずき、そして続けた。
「だが、僕ら2人がどうしても白吹村に戻って来なければならないことが起こった。──父が心筋梗塞で倒れて入院し、死んだんだ」
沈黙が広がる。
「父が息を引き取るとき、僕は傍らにいた。最期に父は僕に言った」
誰もが静かだった。
「“華蔵のすべては まやかしだ”────と」
話の前半に出ていた理人の言葉を正火斗は読み解いていた。
「それで館ごと売り払い、白吹や華蔵の全てを終わりにしようと思ったんですね」
「そうなんだよ。父の言葉は2つ意味があると思う。
華蔵家に神通力は無いんだろう。あったとしても偉大とは程遠いレベル。
もう一つは呪いの方だ。
そもそも白吹村には昔からの雪の童謡があって、雪の降り積もる中 子供と犬の姿が見えなくなる歌詞なんだ。
おそらくはそういう風土から"白吹の呪い"が言い伝えられてしまったんだとは──考えられる」
理人は手で顎をさすった。
「……だがどうしても、僕の中でトラウマのようになっていて安心出来ないんだ。これから先誰かを好きになってまた消えたらどうする? ──と。だから……」
彼は歯切れが悪くなったが 続けた。
「だから正火斗くんと水樹さんには僕と透子の身代わりをしてもらって…………試してみたいんだ。2人が好きになった相手が消えるものかどうか」
あまりの驚愕の申し出に、みんな言葉を失う。
──代わりにか後ろから
「……え!?」
────真淵聖の声がした。
(まさか……!?)
と正火斗は振り返る。
声の方にいたものに 思わず息をのむ。
衝撃に血の気すら引く気がした。
桜田風晴だ
ニ度と会わないと誓った相手だった。




