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炎と白銀と〜聖夜の洋館の悲劇〜僕達の推理2  作者: シロクマシロウ子
第8章 調査開始

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064 自分のための謝罪

ー登場人物紹介ー


※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー

大道正火斗だいどうまさひと・3年生。実家は大企業の財閥グループ。

大道水樹だいどうみずき・正火斗の妹。2年生。

安西秀一あんざいしゅういち・部長2年生。父は大道グループ傘下企業役員。

浅倉奏衣あさくらかなえ・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。

桂木慎かつらぎしん・2年生。明るくフレンドリー。

神宮寺清雅じんぐうじきよまさ・1年生。ややお調子者?

椎名美鈴しいなみすず・1年生。真面目でしっかり者。


桜田風晴さくらだかぜはる・田舎の農業高校2年生。

真淵聖まぶちひじり・風晴の同級生。話すのが苦手。


華蔵理人かぐらりひと・華蔵家現当主。

華蔵透子かぐらとうこ・理人の妹。


橘信蔵たちばなしんぞう・華蔵家執事。

冴木拓眞(さえきたくま)・華蔵家運転手。理人の同級生。

 




 華蔵透子(かぐらとうこ)は その日の昼食も(ことわ)っていた。

 悲しみに胸は(ふさ)がり、何かを食べたいとは とても思えない。

 ベッドに()せっていると──

 コンコンと扉がノックされて、(たちばな)の声がした。


「失礼します、透子様。……桜田風晴様がお伝えしたいことがあると」


 "桜田風晴"──洞窟(どうくつ)から助かった少年の1人だ


「どうぞ。お入り下さい」


 透子は身を起こして言った。


 扉が開いて橘が小さなトレイを持って入ってきた。上に(ふた)のある小丼(こどんぶり)湯呑(ゆの)みがのっている。(かす)かに料理の匂いがして──何か食べ物なのかとは(さっ)しはついた。

 しかし


「失礼します。透子さん、お休みのところ申し訳ありません」


 入って来た風晴はトレイの方には目もやらず透子に会釈(えしゃく)した。

 橘は室内の壁際(かべぎわ)の小さなテーブルにそれを置いていくと、いつも通り静かに素早(すばや)く退室していく。


 風晴は透子を()()ぐ見つめて言った。


「オレと聖だけ戻ってきて、冴木さんを……置いてきてしまって申し訳ありません」


 その言葉に瞬時に透子の瞳は(うる)んだ。あんなに泣いたのに、涙はどうして()れないのか。


「オレが冴木さんだと分かった時には、もう彼の胸の下は血に()まっていました。彼は動かなくて──不自然なくらいに(かた)くなってきていました。

 ……見たものはそれが事実(じじつ)で……オレはあなたに期待(きたい)を持たせるようなことは何も言えません。……すみません」


 話の間、風晴は(ひとみ)()さなかった。残酷(ざんこく)な言葉──だが透子には彼の(つら)さも伝わっていた。


「オレは…………弱くて、情けなくて、()えきれなくて……

 自分のためにだけ、あなたに聞いてほしくて来ました。誰かに……(あやま)りたくて」


 風晴は両脇(りょうわき)(こぶし)(にぎ)った。


「助かるために……亡くなっている冴木さんからジャケットや靴や靴下を借りました。……彼から(うば)った」


 透子の瞳の瞳孔(どうこう)が広がる。


「寒かった。それが無かったら……オレ達のどちらかは助かっていなかったかもしれません。

 オレ………………」


 風晴は言葉を切って、息をつく。

 そして、彼は続けた。


「冴木さんに謝りました……。この人にも大切に思う人やこの人を大切に思っている人が……いるはずなのにって」


 透子の瞳から涙は落ちた。それは()きることなく。


「オレにも、聖にも……いたんです。だからオレは手を止めなかった。…………すみません。本当に……すみませんでした」


 風晴は頭を下げた。

 彼の瞳からは(こぼ)れ落ちはしなかった──でも、透子は彼も泣いているのだと分かった。泣きたいほどの悲しみと苦しみが彼の中にもある。


 部屋はしばらく静かに悲しみが満ちていた。

 透子はティシュで涙を()いて鼻をかむと


「ありがとうございます風晴様。……もしかしたら私より……あなたの方がお辛いのかもしれません」


 と、(せつ)ないながらも(やわ)らかな表情を浮かべた。


「私と冴木さんはずっと一緒にいたわけでも、付き合っていたわけでもありません。兄の親しい地元の友人として、長く知っていただけなんです……」


 その言葉に風晴は首を振った。


「オレの……父が突然行方不明になったことがあって、死亡が有力だったんです。母はそのとき、やっぱり食が細くなってよく泣いていました」


「…………まぁ……」


 思いがけ無い話に、透子は目を丸くした。


「まだ小学生だったんですけど、なんとかしたくて……見よう見真似(みまね)で母がよく作る料理を作ったんです。

 "凄く美味(うま)いのを作ったら絶対(ぜったい)母さんも食べてくれる!"って。でも卵も上手(うま)く割れなくて、切ったタマネギは(つな)がっていて、味付けは醤油(しょうゆ)だけでした。

 絶対 美味くない──親子丼ができてました」


 透子は風晴を見つめた。


「見た目もぐちゃぐちゃでオレは()てようとしたけれど、母に見つけられて"勿体(もったい)ないからお母さんが食べる"って取り上げられました。

 母のために作ったとか、美味しくなるように頑張ったなんて一言も言わなかったのに……多分みんなバレていました。

 母は"美味しい"って言って完食(かんしょく)してくれました」


 彼は微笑(ほほえ)んで


「だけどそれから、正しい親子丼の作り方を(たた)きこまれました──きっちり」


 と言い、透子も数日振りの笑顔を浮かべた。


 それを見て風晴は最後に、トレイを指差(ゆびさ)して()げた。


「正しい親子丼、もし良かったら……食べてみてください」


 そうして 部屋を出た。

 ────出てすぐ顔を(けわ)しくする。


 出た先に華蔵理人と正火斗が立っていたからだ。


 理人は


「透子のために……いろいろとありがとうございます」


 と丁寧(ていねい)に頭を下げて一礼した。

 風晴は恐縮(きょうしゅく)したし、顔を赤らめた。


 正火斗が、その整った顔で真面目(まじめ)


「カップ麺と差がありすぎないか?」 


 と言ったので、これには()き出した。


 笑わせてくれることが()(がた)かった。









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