057 その訪れのとき
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
正火斗は一度 無線でどこかに連絡を入れると、聖をおんぶして風晴へ
「こっちへ」
と言い 歩きだした。
「ええっと……木がある方とかに行ったら、雪崩が起きても木が防いでくれるとかは……ない?」
風晴は正火斗について行ったが、足に装着したスノーシューが不慣れでぶつかり合った。──落ち着けと言い聞かせる。
「大規模な雪崩だと木々は押し倒される。その巻き込まれの方が怖いし、上空から見つけづらいからこのルートにした。──風晴、そのまま聞いてくれ」
歩いたまま、ということだろう。話が聞こえるように、風晴は歩幅を大きくして正火斗との距離を詰めた。
「雪崩は2種類ある。全層雪崩と表層雪崩──全層雪崩は自動車ほどの速度で斜面全体の雪が降りてくる。単純に重さや雪量が脅威になりうる。
表層雪崩の方は、いわゆる斜面の上部の雪が滑ってくるものだが、速度が時速200キロにも到達することがあって……新幹線並みだ。到達距離も遠くまで……2キロ先まで被害があることがある。
今日の気候はどちらの雪崩でも起こる可能性があるそうだ」
正火斗が陽差し照りつける空を見上げる。
風晴の方は、──つい雪山に目をやってしまう。今にも崩れてこないか確かめて──かすかにだがパラパラと何かが こぼれるような、転がるような音は……している。
「秀一が雪崩の自然発生率を計算してくれたが……気象条件がそれより厳しいと思う。つまり、人為的に僕らが何かしなくても雪崩が起こる時は来る」
正火斗は風晴を見つめた。
「間もなく僕は無線でヘリコプターを呼ぶ。ヘリコプターが近づけば、そのせいで雪崩が発生する確率は高い。……だが"発生してから連絡"では完全に間に合わない。
ヘリコプターを呼ぶのをやめてほしければ今 言ってくれ──2人共」
風晴は間を置かず
「呼べよ。正火斗がここだと思ったタイミングで」
と言った。
おんぶをされている聖も
「……それでいい……」
と言った。
正火斗はうなずくと
「ヘリコプターを呼んだことで……雪崩が起こっても、それは想定内だから──風晴、落ちついてしゃがんでスノーシューを脱ぐんだ。
ヘリコプターは着陸はないが縄梯子が降ろされる。縄梯子には風晴が1番につかまってとにかく上に上がれ。風晴が上がれば聖、僕が続ける。
聖はとにかく手で縄梯子をしっかりつかめ。身体は僕が支えるし、つかんでいれば必ず上昇する」
「了解」
「……分かった」
風晴と聖が返事をする。
正火斗はリュクサックのサイドポケットから無線機を取り出した。そのまま手に持って歩いていたが────ほどなくしてその決断は訪れた。
カチッと彼が無線機のスイッチを入れる音がした。
歩いたまま、彼は無線機を顔に近づけて 言った。
「正火斗です。予定地点の20メートル弱手前だと思います。救助をお願いします」
──助かるための要請だが、それは脅威の引き金でもあった。緊張が張り詰める中、正火斗と風晴はしゃがみこんでそれぞれのスノーシューを取り外す。
指が上手く動かず もどかしくていると、正火斗が
「手袋を外せ、風晴。──できる」
と風晴に声をかけた。ただその言葉の通りにする。
できると信じて────
すぐさまバラバラと言う間違えようの無いヘリコプターの音がした。青い空に現れたそれはぐんぐん近づいてくる。
正火斗はスノーシューを放った。
風晴も片方は終わり、もう片方もまもなくほどける。
近づいてくるヘリコプター音の中──
ズズン…………
と低く、しかし確かに その音と衝撃は3人の身体に伝わった。
雪崩が始まる




