054 背水の陣
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
○松下寿明・喫茶店・寿店長。
「白吹で唯一の総合病院の富美田医院だ。
夜間・休日の救急にも対応してくれているから、地域の医療搬送に役立つだろうと生前 父がヘリコプターを寄贈している。
ドクター・ヘリとしてではなくて、患者搬送用として父がオーナーで貸与しているのが正確な登録のはずだ。求められる医療従事者を揃えてその都度 飛ぶのは、むしろ人手が足りないからだった」
華蔵理人は続けた。
「今回、真淵聖くんは足を怪我している。正確な救助位置が確認できれば、搬送患者として迎えにいくことに使っていいはずだ。
雪崩の説はどこまで信じてもらえるかは分からないが……」
正火斗は一つだけ確認した。
「村には通常の救急車も機能しているんですよね?」
理人はうなずく。
「勿論。父と富美田医院の理事長が元々同級生で、理事長が趣味で操縦士免許を持っているのを知ってたからって言うのもある。──つまり完全に個人的な繋がりからのアシストだった」
「そういうのは かえって融通が効くかもしれないわよね」
と水樹が期待を込めて言った。
神宮寺が不思議そうに
「華蔵家って本当にお金持ちなんですね。一体何をやっているんですか?」
とある意味もっともな疑問を理人に尋ねた。
「主に不動産。市内と駅前に物件を数十件。あとは白吹の土地も所有してる」
彼はそう答えてから
「昔は白吹と呼ばれるところは、全部うちの土地だったこともあったんだよ。合併やら国の規定やらでいろいろ変わって今は4分の1くらいだ」
と付け足した。
「……それでも4分の1……」
「本当に……領主様だったんですね」
「この館も欧州の領主館っぽいわけだ」
浅倉、椎名、桂木は妙に納得したようだ。
「理人さん、お父さんの名前を教えて下さい。それから、あなたは富美田医院の理事長に会ったことは?」
正火斗は臨戦態勢に入った────彼の口調から感じ取った水樹と秀一は見合わせ、微かに微笑みを交わす。それは、勝つ見込みが出てきたと言うことだ。
「華蔵一豊だ。富美田理事長がここに来て最後に会ったのが……14年くらい前かもしれない。後は父から話を聞いていただけだから」
正火斗はうなずいて
「それなら僕に"華蔵理人"として電話させて下さい──椎名、富美田医院の番号を出してくれ。救急を受け入れているならこの時間でも通じるはずです」
と彼はもう──理人の返事を待たなかった。椎名からの番号を聞いてスマートフォンにそれを打ち込む。
理人は少し目を見開いたが、ヤレヤレと言うふうで、何も口を挟まなかった。
正火斗は"華蔵一豊の息子の理人"と名乗り、出た受け付けから富美田理事長に繋いでもらった。
「クリスマスの早朝に申し訳ありません。出て頂いて感謝します。……実は緊急の用件がありまして、お力をお借りしたいのです。
宿泊しに来ていた高校生2名とうちの従業員が トラブルがあって洋館から近い山中に取り残されました。
いる場所の確認は取れていますが、今日はそこが雪崩になると──私は分かります。しかし警察に信じてもらうどころか、説明する時間の頃には彼らは雪に埋まってしまうでしょう。
1人は足を負傷していることも分かっています。──助け出したい。
父のヘリコプターと操縦士を出して欲しいんです。どうかお願い致します」
正火斗は全く よどみなく言った。
何かが全て思い違いで 責任を取ることになるなら それで良いと思った。
どこからか彼らが戻ってくるなら──社会的信用や地位なんか いくらでも捨てる。
何かの覚悟が伝わったかはともかく、理事長は了承してくれた。
「ありがとうございます」
これは心から告げた。
「すぐに目的地と飛行計画を送ります。…………はい、そうです。僕ともう1名が乗ります」
通話を聞いていた全員が驚いた。
「今日の日の出は6時40分頃です。我々も病院の方にその頃には到着するように行きます。燃料を満タンにして7時には飛べるように手配と準備を──何卒お願い致します」
彼はそうして通話を切った。
間髪置かずに松下は正火斗に声をかけた。
「正火斗くん、近くに降ろしてもらえれば僕が洞窟まで行くから君はいいよ。その……いろいろ問題があると思う。 君は本当は華蔵理人じゃないし、未成年だし、雪山経験もないだろうし……」
正火斗も待っていたかのようにその問いに答えた。
「松下さんに同行はお願いしようと思っていました。
それに登山装備一式を僕に貸して無線で進路指示をしてほしいんです。ヘリから」
松下は聞き返した。
「何だって?」
「7時に飛んだとしても、ヘリでは洞窟の近くまでは行けません。ヘリコプターの大きな音で雪崩は引き起こされる可能性がある」
その可能性に松下は言われて思い出したようだ。
「救助方法はこうです。安全地帯に1人が降りて洞窟に捜索に歩いて行く。この間、ヘリは上空待機になる。
見つかった人間達と洞窟から離れたところまで また歩き、ヘリを待つ。
これらをヘリの燃料と雪崩発生確率から1時間半をめどに行わなければならない。9時では、ヘリの燃料も雪崩もアウトになる恐れがある」
真剣に正火斗は続ける。
「全ては──特に雪崩は、予測でしかない。もっと早く起きることも有り得ます。
何かあっても彼らと埋まる覚悟がないのなら、こんな話に付き合ってはいけないんです」
そして 彼は言い切った。
「だから僕が行きます」




