052 確かにあるもの
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○橘信蔵・華蔵家執事。
○斉藤豊子・華蔵家女中頭。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
○松下寿明・喫茶店・寿店長。
まだ暗い冬の早朝──
秀一はついに机から立ち上がった。
正火斗に一冊のB5ノートを差し出す。
「斜面積雪の力学バランスから、積雪への重力の斜面方向分力と 断面に平行に働くせん断力の強度を計算して比べた。
被害規模は全層雪崩と表層雪崩だとだいぶ予測値が違う。だが明日の天候ではどちらも起こりうる。理人さんが言うには……」
そこで理人本人が立ち上がった。
「あの洞窟上の斜面は、明日はほぼ確実に雪崩は起こると思う。僕の予感なんてものだけじゃないんだ。
あの洞窟そのものが──夏は観光用風穴で 冬は洞窟を通路にして、抜けた山側ではスキーができるように開発される計画だったんだ」
彼は少しゆっくりと歩きながら話を続ける。
「御破算になった理由が 洞窟内の冬場の想定以上の寒さと、スキー場を予定していたあの斜面の、雪崩の発生確率の高さからなんだ。
雪崩は大きな音以外にも、山の尾根から雪がせりだした"雪庇"が崩れる衝撃で起こることがある。
尾根にぶつかる風の関係で、その"雪庇"があの斜面上にとても できやすいことが分かったんだ」
そして理人は
「"雪庇"は吹雪や積雪が繰り返して作られる。十中八九 今年はもうできてると思う」
と言い切った。
だが 正火斗はもう驚かなかった。
「雪崩は想定に入れています。だから雪崩が起こる前に なんとかしたいと思っています」
そこで食い入るように、正火斗は秀一からのノートを見た。
────やがて上げた視線で神宮寺と桂木に
「ヘリコプターは?」
と尋ねたが、2人は左右に首を振った。
やりとりを眼前で見ていた秀一の表情も曇る。
桂木は 洞窟への扉の写真を橘と撮りに行って、すでに戻って来ていた。
今は神宮寺と白吹村周辺のヘリコプター運行会社を当たってくれているが、午前4時前のような時間ではどこもまず対応してくれないのだ。メールをしても、反応もない。
「民間のヘリコプター会社は、午前9時くらいにならないと電話も繋がらなそうだぞ、これ」
天気が良くなり電波が戻って来ているので、スマートフォンを操作していた桂木は言った。
正火斗は館内全てを豊子や浅倉と見て回ったが、館内に明確な乱闘の跡や血痕を発見できなかった。
桂木の撮って来た洞窟の写真にも、肉眼では吹雪の雪と風のせいで足跡も開けた手の跡等も消えていて発見できていない。
警察は洋館に来てから正火斗がしたように全館見て、それからみんなの話を聞き、そこで正火斗が洞窟の可能性を説いても、だからと言ってすぐに錠前の切断作業をしてまで扉を開けようとは──してくれないだろう。
洞窟の扉の錠前や取っ手の鑑識をして所有者の許可が下りてからになる。あるいは、いなくなった3人がどこからも発見されずに探すところが無いとなった時にやっと────だ。
それでは遅すぎる
あまりにも遅すぎる
過ぎていく時間を正火斗は無情に感じた。
どう考えても、起こる雪崩を避けるのにはヘリコプターが必要だった。雪山で 車は入れない。人の足では 雪崩が起こる前に現地に到着することがすでに厳しい。
それでも正火斗は松下寿明に懇願して、行けるところまで車で行き、徒歩で救助に行けないものかとすら思った。
なんとしても助けてやりたい。
助けたいんだ
「……ヘリコプターか……」
その時、理人が思い出したように言った。
「白吹村でなら融通がきくものが……1機……あるかもしれない。父が寄贈した形になっているが、オーナーとしての登録は残ってる──病院の搬送用ヘリだ……!」
正火斗は自分に向けられた、華蔵家当主の瞳を見つめた。
今夜入った当主の部屋の写真が思い出される──
あった
確かにあった……!
白衣の人達とスーツの男性と ヘリコプターの写真が!!!




