050 サバイバルゲーム2
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○華蔵透子・理人の妹。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
○松下寿明・喫茶店・寿店長。
「"ビバーク"?」
松下寿明に、正火斗は聞き返した。
「そう。山側には出られるんだろう? もしも彼らが"横穴式ビバーク"を知っていたら、なんとかなるかもしれない。雪山で一夜を過ごす代表的な方法だ。
あそこにはスコップや軍手はあったはずなんだよ。古いけど毛布も……あった気はする」
それも彼らが起きていて自由に動けていたら……だ。
それでも、正火斗は希望を持って松下にさらに尋ねた。
「簡単にできるんですか?」
「条件が整っていて、慣れていたら1人でも1時間かからないでできる。3人いたら上手くやったら30分かからないかも。要は雪の斜面に穴を掘るんだ」
それはいい情報だが
「1人は足を怪我していますから。多分、作るのは2人になりますね」
「それでも30分強だよ。冴木くんは毎日 雪かきしていただろうし」
松木の言葉に、正火斗は心から願って言った。
「なんとか冴木さんが本当に"横穴式ビバーク"を知っていたらいいんですけどね……」
すると
「桜田くんが知っている可能性はありますよ」
と言う声がした──椎名だった。
「え?」
正火斗が椎名に向くと、彼女は丁寧に説明してくれた。
「トークタイムの時に、桜田くんがプレゼントを受け取った人と話しているのをたまたま聞いたんです。
桜田くんのお爺さんが若い頃に登山をしていたみたいで、冬に帰り道を見失ったことがあったと。でも、帰って来たって言っていました」
「当然よね。夏休みに病院で会ったもの。私達」
水樹は思い出して言った。
もしも風晴の祖父がビバークを作って雪山で過ごしたことがあり、それを彼に教えたり、話していたら……
ほんのわずかでも────希望はある
正火斗は短い間だが、瞳を閉じた。
再び理人が発言したが
「だけど、斜面に掘ると言うのは……」
今度はそこまでで言葉を止めた。
みんながもう分かってはいる。
山の斜面で雪崩は起きる。天候や聖の怪我から考えても風晴達がわざわざ洞窟から離れたところに雪穴を掘るとは思えない。そして、掘らなくても──
正火斗はその事実を、厳しくても すでに受け止めていた。彼は口にした。
「雪穴が掘られなくても、雪崩が起こってしまえば出口は塞がれる。救助も大幅に遅れる」
雪崩の二次災害の恐れがあるうちは誰も近づけなくなる。
そうなれば、希望は本当に絶たれる。
「どうするの? 正火斗」
持ってきた資料に付箋をしていた浅倉が聞いた。
「救助にいく────雪崩が起きる前に」
彼は言い切った。
「ヘリコプターは東京からもう手配してる。だが……」
その時、正火斗のスマートフォンが鳴った。外を見ると吹雪がすっかりおさまっている。
電波が良くなり、快晴に今日はなるだろう。
そして──雪崩が起こりやすくなる。
正火斗はしばらく通話していた。やりとりは長く続いた。最後に
「……分かった。悪かった…………無理をさせて……」
と言って切った。
水樹は正火斗が片手で顔を覆うのを見た。
いつも自信にあふれ、力強い兄が崩れ落ちるのではないかと言う気がして、席を立ちそうになる。
椎名は再び浮かぶ涙を必死にこらえた。
松下は状況を察した。
「捜索ヘリも夜はほとんど飛ばない。飛行計画も出てなかったのでは都心からはどうやっても……ここまでヘリコプターを飛ばせることはできない…………仕方ないさ」
正火斗はソファに倒れ込むように座った。
実際、目眩を覚えた
どうやっても助けてやれない──
助けて……やれないのか
室内は静まり返り……
その中で秀一の鉛筆の音だけがした。
正火斗は、机で必死に雪崩発生率の計算と被害予測に挑む幼馴染みの姿をとらえた。
室内に響くそれは まだ 諦めていない音 だった。




