047 その声を聴け
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
その声は確かに 自分を呼んでいた
"風晴" "風晴"
聞きおぼえのある声
顔を上げると
"やあ"
とその人は片手を上げた
サンタの服装で 髭もつけていた
でも 分かった
当然じゃないか
父さんなんだから
ああ 会いに来てくれたんだな
クリスマス・イヴだから…………
「生っ白い東京の子達では、すぐにも死んでしまうだろうな」
そう耳に男の声が届いて──桜田風晴はハッとした。
「朝は最低気温はマイナスだって。ここなら本当に冷凍庫になるから──仮に目が覚めて体を動かしたって……助からない。入り口には私達が鍵をかけるし、出口は山だから。あの格好じゃ、そっちでも無理だろうね……」
次は女の声だ。
「……こんな若い人達を……。私は 嫌になるよ……」
その次は別の女の声。
そうして元々ある程度離れたところから聞こえていた声達は、複数の足音と共に遠のいて行った。
何人いたかは──分からない。多分5人くらいの気がした。
人気が無くなって、目を開けて息を吐いた。すぐさま恐ろしいほどの寒さに気付く。
身を起こして、いくらかでも硬く冷たい石の上から逃れたいが、両手と両足はロープで縛られていた。
クソッ……! なんだってこんなことに……
と、ようやく頭が働きだした。
衣装室にいて、部屋に戻ろうとしたら白い狐の面の連中が入ってきて聖を……
そうだ! 聖は!?
風晴は再びハッとして、あたりを見回す。
首を巡らすと、自分の頭の上の方に包帯を巻いた足がある。
聖の足だとすぐに分かった。
「聖! 聖! 起きろ!!」
何度か繰り返し呼びかけたが────だめだ。聖は起きない。
風晴はだんだんと状況が分かりだした。
さっきの声の連中に自分と聖は衣装室から連れ去られ、ここに置き去りにされたんだ。──凍死させるために。
ここは朝方には天然の冷凍庫並みになるらしい。
今のままの状態では、凍えて死ぬのを待つだけだ…………
ゾクリ、と違う寒気も自分を襲った。
死への恐怖がせり上がって吐き気さえ覚える。
だが暗闇に目が慣れてくると、もう1人……若い男性も自分の足の下の方で横たわっているのが見えた。
3人いる……!
なんとなくだが、風晴はなんとかなる気がしてきた。
下の方の人にも
「すみません! 起きて下さい!! 起きた方がいいです!!」
と繰り返すが、やはり全く動かない。
そうか……
風晴は思い当たった。
自分は頭を殴られて気絶した形で運ばれた。だからすぐ意識を取り戻した。聖は捕まる時に薬を嗅がされていた。そのせいで簡単には起きないのかもしれない。──そして、もう1人の人も。
自分がなんとかしなくては、3人共死ぬ…………!
そう思い──手は背後に回されて縛られていたが、芋虫のように動いてなんとか身体を起こした。するとカラン と音がした。
見るとポケットからペンライトが落ちたのだ。ガラポンの景品の。
それで 風晴は思い出した。
聖のポケットだ!! 聖のポケットには水樹からの折りたたみナイフが入ってる!! コイツどっちに入れてたっけ?
記憶を探りながら,重なるスプーンのように聖に寄り添ってそのポケットを探った。────確かにあった!! 良かった!!
気持ちだけなら水樹に次に会った時に抱きつきたい想いだった!前回に引き続きなので、もう"ナイフの女神"とか呼びたくなった。ただ、どっちも秀一に怒られそうだからやめよう。
見えずに、後ろに縛られた両手でナイフの刃を出して刃部分をロープに当てるのは難しかった。気持ちが焦っているせいもあってか、何度か失敗した。だが繰り返しているうちに切り込みは入り、ロープは ほどけた。
ホゥッと息を漏らして、次は足のロープを切った。
身体が自由になってだいぶ元気も出てくる。聖の方の手と足のロープも切ってやった。
そうして、風晴はペンライトをつけてナイフを持って立ち上がった。周囲は、思っていたよりも様々な物があった。
棚や、樽や木箱──探せば何か使える物がありそうだ。
だがとりあえず3人目の人のロープも切ろうと、そちらにペンライトを当てた。──そこで気がついた。
ライトの当たったその人の手足は、縛られていなかった。
少し不思議な気持ちはしながらも風晴はその人に近づき、彼が冴木拓眞だと分かった。
「冴木さん……」
声をかけてみるが、やはり返事はない。
違和感を感じながら、風晴は彼の身体の前に回り込んだ。
手をかけた時、その筋肉の硬さに驚く──そして、ペンライトが彼の腹部を照らした時、風晴は思わず身を引いていた。
彼の腹部は赤く染まっていた。
闇の中では分からなかったが、ベージュのハイネックセーターとグレイのジャケット……そしてズボンにまで血が垂れた跡があった。
風晴は尻餅をついた。
立ち上がれない。
膝の震えは、寒さだけのものでは無かった。




