046 呼びかける心
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○華蔵透子・理人の妹。
○橘信蔵・華蔵家執事。
○斉藤豊子・華蔵家女中頭。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
○松下寿明・喫茶店・寿店長。
正火斗は嫌だった。
──こんな推理は……したくない……
「冴木さんの上着は無くなっていた。だが……風晴と聖のコートは部屋に残っている。聖は靴も残っていた。足を怪我していて……多分スリッパだったんだろう。
────低体温症は……」
正火斗は続けられず奥歯を噛み締めた。
「一般的には3時間くらいだってきくよな……。僕は大学の時 山岳サークルだったんだ。だから いくらかは教わった。
だが洞窟は普通は冬は外気より暖かくなるとも言われてる。
ガラポンで並んでいるとき散々聞いたけれど、天気予報では明日は快晴だろう? 警察に事態を説明して山中の出口側にヘリを回してもらえればなんとかなるんじゃないか? つまりは、この一晩、この一晩を乗り切ってくれてたらいいんだよ、3人で!!」
松下寿明だった。
正火斗は何も言えなくなっていた──彼のように期待を持ちたくて。
だが、理人は冷静にそれを否定した。
「松下さん……低体温症は10度程の室内で、真冬でなくても起こり得る症状です。
3人が身を寄せ合えて声でもかけれていればまだ可能性はあるかもしれない。……だが、連れて行った連中がそうできる状態にしていっているとは……考えにくい。
しかも明日の日中救助にヘリで行くのは……むしろ僕は勧めません。
明日は“雪崩に警戒”の日でもあって、あの山側出口の穴の上は山の斜面です。ヘリが近づいたら雪崩が起こる可能性が増します。そうしたら、彼らは出口の方も塞がれてしまう」
理人の話の途中からは、透子の嗚咽が加わった。
松下は悲壮な顔で理人を見て、それを口にしてしまった。
「それじゃあ、もう絶望的じゃないか…………!!!」
正火斗はその言葉に切り裂かれるような気がした。
その 事実の残酷さに
今
今も
今この瞬間も
もし眠ったままなら
彼らはもう──
「兄さん、桜田は諦めてないと思う」
その声が 耳に 部屋に 響いた。
「少なくともきっと──今だって指一本でも動かせるなら動かして、生き延びようとしてると思う。
あいつ馬鹿だし妙に図太いもの」
水樹だ。隣の秀一は、思わず苦笑してる。
「確かに。3人いたら、なんとかなるって……風晴なら思いそう」
笑いが起こる。渇いたような──泣くような音も混じっていても。
「オレのこと考えてるかもな、魂の伴侶だから」
と桂木だ。
「真淵くんもきっと、諦めていませんね」
これは神宮寺だ。
「私も諦めません──絶対に」
椎名は目元をハンカチで拭ってから 言った。
「今夜できることって一体 何?」
浅倉が正火斗に尋ねた。
ミステリー同好会メンバーは全員が──大道正火斗を見た。
正火斗は……彼は、誰もが助けられると信じているその瞳に────感謝した。
立ち上がる。
「椎名、ネットが繋がるなら天気の最新情報を集めてくれ。神宮寺や浅倉は図書室からこの土地の地図や資料があれば探してきてほしい」
3人がうなずく。
「橘さんと桂木は──やはり洞窟の入り口を見てきてほしい。桂木、実際の写真が見たい。撮ってきてくれ」
「了解」
「かしこまりました」
と返事がくる。
「秀一、明日の山側出口の斜面について松下さんや理人さんの話から雪崩の発生確率を出してほしい。それから、発生した時の被害規模予測を表層雪崩と全層雪崩のふた通りで。」
これには、秀一はやや目を丸くした。
「本気で言ってる? 多分全国模試地学1位より難しくない?」
「本気で言ってる。あと4、5時間で全国地学1位より上にいけ」
そして正火斗は水樹に振り返った。
「秀一のサポートをしてやってくれ。椎名からの天候データや山岳の地形地図があれば助かると思う」
と告げる。
それから彼自身は
「豊子さん、黒電話を借ります」
と歩き出した。
豊子が慌てて後ろを着いてくる。
暗い廊下を正火斗は一直線に進む。
やれることは全てやる
そして願う
起きていてくれ
聖!
風晴…………!




