041 そして失われる者達
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部の頃から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○華蔵透子・理人の妹。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
和装から着替えた正火斗は3階の当主の部屋に入っていた。
当主の部屋は当然、群を抜いて素晴らしかった。広々としていて────調度品はアンティークの高級なものばかり。絵画も名のある画家のものばかりだ。
母が屋敷ごと欲しがるわけだ
正火斗は1人納得した。
壁には写真も何点か飾られている。かつての当主達の縁のものだろう。
モノクロの軍服の男性達と包帯を巻いた人々との写真もあれば、様々な世代の大人数で── 一族で撮ったらしい──写真、眼帯をした着物姿の女性の写真、男性や子供達と車椅子の女性のいる写真、ヘリコプターと白衣の人達とスーツの男性が写っているもの等がある。
シャワーを使い、では寝ようかと思った時に何か違和感を感じた。────隣の部屋に。
風晴や聖はもう休んだんだろうか?
自分が隣に来て通じる扉もあるのに、彼らが一度も来ないことの方が……不自然な気がした。なんとなく。
────それに静かだ。静か過ぎるほどに。
寝室の奥の“開かずの扉”を開いた。
寝室も、その先のもう一つの部屋にも灯りが全く無い。
2人はまだここに戻ってきていないのだ──と理解する。
同時に背中を這い上るような悪寒が走る。だが瞬時に打ち消した。
落ち着け!────大丈夫だ
そんなことが起こるわけがないのだから
だが、シャワーで濡れた髪のまま靴下も履かずに足早に部屋を出た。
聖は足を負傷していた
下でトラブっているのかもしれない
階段を2階まで降りて、正火斗は衣装部屋に向かおうとした。──その時、1階からその絶望の声はした。
「いない!! ……いなくなってしまった……!! ああ、やっぱり……やっぱり"白吹の呪い"が……!!」
それは華蔵透子の声だった。彼女はもう眼鏡をはずし、女中服を脱いでいた。こんな深夜なのに、服の上にコートを来て手袋をしていて──近くには投げ出されたキャリーケースが見えた。
「……透子さん……どうしたんですか? 何が……」
座り込んで涙目の透子は正火斗を見上げた。
「…………いなくなってしまったんです。──冴木さんが」
そう言って透子は顔を覆った。
階段の途中の正火斗に、背後から声がかかった。
「少し前に車が2台出て行くのは窓から見た」
華蔵理人だった。彼は続けた。
「変だと思ったんだ。招待客も手伝い人も帰ったはずの時間なのに。しかも2台って言うのが……」
嫌な予感に襲われて、正火斗は上下スウェットに裸足だったが構わずに
「借ります」
と靴棚の上に並べてある黒い長靴を取った。履いて玄関扉を開けるとそこには吹雪の光景があった。
「正火斗くん!! その格好じゃ寒いよ!」
言いながらも理人もパジャマ姿だが、懐中電灯を取り、長靴に慌てて足を入れ着いて来た。
極寒の強風にさらされながらも正火斗は、かすかに残るタイヤ痕のところまで出て行った。 だが風と降り続く雪に、それはもうかなり薄れている。
玄関脇にはセンサーつきの外灯があり、正火斗と理人に反応して灯りがついた。
後ろからは理人の懐中電灯の灯りも正火斗の見つめる積雪のあたりを照らしてくれた。
正火斗は雪に埋もれながらも、キラリと光を放ち、そして強い色味を出していた──それらを拾い上げた。
そして 彼は動かなくなった。
正火斗の異常に気付いて理人は彼の左手を掴み、力づくで引っ張って館の中に戻した。玄関を閉める。
凍えるような寒さで、理人は屋内で尚 身震いした。正火斗の髪はいくらか凍てついてさえいたが、彼はただ手のひらの中の拾ったものを凝視している。
「一体何を拾ったって言うんだ?」
理人も正火斗の手のひらにあるものを覗き込む。
そして一言
「クソッ……!」
と漏らした。
彼らの後ろからは透子の嘆く声が響く。
「私が告白したから……私が好きになってしまったから……。“白吹の呪い”が……あの人を連れ去ってしまった……」
正火斗は何もかもを受け入れたくなかった。
その手のひらの上には……
玄関前のタイヤ痕近くで拾った
ガラポン抽選機の金と青の玉が──確かにあった。




