037 トークタイム桜田風晴
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部の頃から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○華蔵透子・理人の妹。
○斉藤豊子・華蔵家女中頭。
椎名美鈴と桜田風晴のいる食堂の前の廊下で、桂木慎は告白をされていた。桂木の返事は──
「無理。そういうのは やらない」
と言う断りだった。
そして廊下を歩き出す足音もして、斉藤豊子の孫という女子の声も遠ざかりながらも聞こえた。
「分かった。分かりました。今日はそれでいいです。でもまだこれから知り合って、最後の日に付き合っても…………」
そうして2人の声は遠ざかった。
風晴と椎名は大きく息を吐いた。
「あの調子なら大丈夫だと思う。付き合いたくないんだよ、きっと」
それにしても押しの強い女子だった。
「でも彼女……全然 諦めてはいないです……」
椎名もまだ気にしている。無理もない。
風晴は聞いた。
「告白は……考えたりはしない?」
椎名は激しく首を左右に振った。
「とってもできません。私はおかっぱのメガネ女子でオタクで……運動音痴で、私服も可愛いくないです。
告白は恐れ多いし身の程知らずです。した後話せなくなる地獄を思うと今のままでいいです。今のままなら、からかいでも話しかけてもらえます」
冗談の褒め言葉や賛辞も──だ。だけど……
風晴は椎名が気の毒になった。この後この館では椎名は辛い想いが待っているかもしれない。せめて……
「告白は無理でも、もっと仲の良い先輩と後輩になったらいい。とにかくあの"紅白饅頭"──アイツにやって。そのために獲ったんだろう?
桂木が"食べたことないからもらったら嬉しい"って言っていたから」
椎名美鈴は 風晴を見つめて 大きく うなずいた。
椎名美鈴との話は延びた──桜田風晴は走っていた。
もう1人の女性との約束に遅れそうだ……! いや、もう遅れてるかも……!
とにかく走って音楽サロンルームに入った。
部屋の時計がすぐ目に入った。9時53分だった。
トークタイムが終わった人達がほとんどで、その人達は告白ゲームのために大広間に向かっている。
それでも音楽サロンルームには、1人の女性がいた。
コートを着ていて、自分がプレゼントにしたマフラーをまさに巻いているところだった。
風晴はその人が今、そのまま身支度をして帰ろうとしていたのだと直感した。──間に合って良かった。
「桜田風晴です。遅れて申し訳ありません。プレゼント受け取ってもらってありがとうございます」
彼が息を切らしながら言うと、その50歳の女性──金森香世はニッコリと微笑んでくれた。
「まあまあ、私のような おばさんのために走ってきてくれるなんて嬉しくなるわ。ありがとう」
それから見るからに気の良さそうな彼女は、申し訳なさそうに言った。
「申し訳ないわね。もっと若い子に渡したかったでしょうに。ごめんなさいね」
風晴と金森は握手をした。
「息子がね、東京にいて今年は帰って来ないの。あっちで彼女が出来たみたいで。クリスマスはそりゃあ彼女と過ごしたいわよね。こっちに来るより」
なんとも言えず、風晴は苦笑いをした。
「そうしたら"母さん今年はプレゼント探しに参加しなよ"って言われちゃったのよ。私がシングルマザーで長いことやってきたからだと思うわ。もう大昔に、趣味の雪山登山で夫が遭難してしまってね」
風晴は小さくうなずいた。
「オレの祖父が若い頃 山に登っていたらしくて、やっぱり冬に帰り道を見失ったことがあると言ってました。祖父は無事に戻れたんですが……」
そして続ける。
「息子さんの気持ち……分かります。オレの母親もシングルマザーなんです。だから、今回ここに来るとき、1人にするのが凄く気になったんです」
金森は"おや!"というふうに目を丸くした。
「母親のところには 他の用事もあって親戚が泊まりに来てくれています。
……だけどオレは良かったです。金森さんにマフラーが渡って」
金森は目を細めてウフフと笑った。彼女は本当に嬉しそうだった。
「私わかるわ。あなたのお母さんは幸せよ。あなたという血の繋がりのある息子がいて」
風晴と母に血の繋がりは無い──だが、彼は迷わず うなずいた。あの人が母で、自分は息子だ。
「マフラー本当にありがとう。外が寒そうだからいい物をもらったと思っていたところよ。──そうだ、良かったらあなたには これをどうぞ。この時期 私はどこにでも持ち歩くの」
金森はコートのポケットの中の手袋と一緒に出てきた『貼るホッカイロミニ』を風晴に差し出した。
風晴は普段は使ったことのないものだが、黙って受け取った。
「吹雪いてきそうだからもう私は帰るわ。────ハッピークリスマス!」
ニコニコした金森香世はそう言って手を振って出て行った。
風晴も手を振った。
そして大広間に行こうとサロンルームを出ると、すぐに
「桜田くん」
と椎名に呼びかけられた。
泣き顔を洗ってから行くと言っていた彼女は、今 丁度来たようだ。と思っていると──
「いいクリスマスですね」
と椎名に言われた。音楽サロンルームの扉は開いていた。会話は聞こえていたらしい。
風晴は少し恥ずかしくなり
「オレは満足してる! 行こう!」
と駆け出した。
椎名も にっこり笑って走り出した。




