036 トークタイム椎名美鈴
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部の頃から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○華蔵透子・理人の妹。
○斉藤豊子・華蔵家女中頭。
椎名美鈴は、眼鏡の青年──松下寿明と9時になるとすぐに音楽サロンルームで会った。
今日は振袖になったので外したが、椎名も普段は眼鏡をかけている話から始まり、10歳の年齢差はあったが2人の会話は途切れなかった。やはり松下の喫茶店の話にもなり、祖父が老後に始めた"寿"という喫茶店を継いで2年前から店長だと教えてくれた。
松下は椎名の連絡先等はきかなかったが、喫茶店の営業時間は教えてくれて"いつでもどうぞ"と言ってくれた。
椎名はクリスマス・イヴに見知らぬ土地で良い時間を過ごせたと思った。
────この後は桜田風晴と食堂で会う予定だった。
応接室のさらに奥が食堂になっている。
椎名が食堂に入るとき、1組の男女が丁度出て来て入れ違いになった。
あとは風晴だけのようで、彼は食卓テーブルの1番奥にいたが立ち上がって手を振ってくれた。
椎名は嬉しくなって、駆け出していた。
桜田くんは言ってくれたんだ──包装紙を届けに行った私に
"紅白饅頭は椎名が欲しいかなと思っていたから良かった"って
人もいなくて助かったと彼女は思った……。
「桜田くん、ありがとう。私、紅白饅頭が本当に欲しかったんです。
桜田くんがくじを引いてくれて良かったです。私、もう……いろいろ、いっぱいいっぱいで……」
最後はもう椎名が泣きそうだったので、風晴は慌てた。
「大丈夫!! 聞くくらいしかできないけど、オレで良かったらいつでも聞くから!! やっぱり、ミステリー同好会メンバーには……言いづらい?」
「みんな優しいから……言ったら変に気を回したり……応援してくれると思うんです。
でも、そんなのって向こうに迷惑です。ああいう人だから……女の子にはみんな優しいもの。それが、変な空気になっちゃう気がします」
2人は座る間もなく、テーブルで向き合って立ったまま話だしていた。
「桜田くんは……どこで気付いたんですか? 夏休みからですか?」
風晴は答えた。
「──いや。夏休みは全然。
昨日来てから、なんだかその……椎名がアイツが言ったあと、よく相槌うっていたり話しかけてたりして。それからその……なんとなくアイツを見てるのかなぁって思ったりしてたんだ」
風晴が言い終わるが早いか
「わぁああ!!」
と椎名は両手で頭を抱えてしゃがみ込んだ。風晴はびっくりしたが、彼女に近づいた。椎名が取り乱すのは初めて見た。
しゃがんでうつむいたまま、椎名は話し出した。
「最近駄目なんです。ついついつい隣に行っていたりするんです。どうしても……目で追っていたり。
前はこうじゃなかったんです。ただ……ただ憧れていました。水樹先輩と浅倉先輩がいるんです。私なんか無理だって分かってました。思わせぶりな優しい言葉は、嬉しくてもちゃんと冗談だって分かってました。──だけど……」
風晴も隣にしゃがんだ。
「夏休みに水樹先輩と安西先輩が上手くいって、秋には正火斗先輩と浅倉先輩が付き合い出しました。
──彼の女子全員への賛辞は変わらないです。でも私……」
椎名の瞳から涙が溢れる。
「私……桂木先輩にドキドキするようになっていました……。……どうしよう……桜田くん……」
──どうにもしてやれなかった──自分には
答えを与えてあげれなくて
救うこともできない
だけど苦しんでいる 大切な友達
風晴は椎名の頭をなでた。軽く優しく。
椎名はしゃがんだ姿勢のまま、自分の膝に顔を伏せて声を殺して泣いた。
椎名はしばらくの間 泣いていたし、風晴はそれに付き添っていた。
その時──その声が廊下から聞こえてきた。
「慎くん、ここの"告白ゲーム"は男性から女性にするだけなの。だから、突然だけど今言わせて下さい!」
"慎くん"?
風晴と椎名は顔を上げて 話し声のしてくる扉を見る。まさか──
「東京に帰るまででいいの! お願いします! 私と付き合って下さい!!」
"東京"? これって──
風晴は立ち上がった。だが足音はひそめた。
「なんで? 会ったばっかりなのに。しかも東京に帰るまでって…………」
桂木の声だ!! この扉の向こうの廊下で告白されてる!!
椎名も涙を拭いて扉に近寄って来た。やがて
「会えますよ! 私は斉藤豊子の孫だもの。手伝いに ここにはよく来ていますから!」
と言う声も聞こえてきた。風晴と椎名は顔を見合わせた。
桂木の返事は?
あのバカ"東京に帰るまでなら付き合うよ"なんて もし言ったら、後で水樹にもバラしてやる
不安そうな瞳で扉を見つめている椎名の前で風晴は思った。
桂木の返事は──……




