035 トークタイム桂木慎
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部の頃から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○華蔵透子・理人の妹。
○斉藤豊子・華蔵家女中頭。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
気楽に参加するつもりだったこのゲームに、突然 重要な役割を与えられて桂木慎は動揺していた。
とにかく行方不明になっていた時の話だけでも聞けたら……。だが、10分という時間の中そこまで出来るか?
クソッ……! こうなったら、イチかバチか……
指定した応接室で、彼は窓辺に立って待った。小さな白い粒の雪が落ちてきていて、風も強くなってきている気がした。
「お待たせしました。────桂木慎くん?」
黒髪ストレートのロングヘア──ジーンズと黒のセーターの女性が目の前にいた。色気よりは清楚な感じで、だが凛としているような女性だ。
雄の本能としても、戯れに数分で口説ける相手ではないと思った。桂木は腹を決めた。
「腕時計をありがとうございました」
まずプレゼントの礼を述べる。すると林は
「気にしないで下さい。実はアレ中古品で──でも全く身につけてないから持っていけと父が出してきてくれたんです。日本ブランドだし、若い子はもう時計なんてしないでしょう。戻してくれてもいいんですよ?」
と言った。桂木は
「とんでもないです。カッコ良いなって思ってました」
と慌てて答える。そして
「あのう……クリスマス・イヴのトークタイムにこんなことを聞くのは非常識だとは分かっているんですが……。
林有里子さん、あなたが小学6年生のときに行方不明になっていたことがあるってオレは聞きました。
────あなたに一体何があって、どこにいたんですか?」
桂木は小声でだが、しっかりと言った。林有里子はひどく驚いて彼を見ている──無理もない。彼女は
「桂木……くんて、東京の高校生よね? その話は誰から……?」
と もっともな疑問を聞いた。
「オレは透子さんの後輩でミステリー同好会の一員です。理人さんや冴木さんから昔、あなたが行方不明になっていた期間があったと聞いたんです。
理人さんも今も不思議がっているみたいでしたから、ちょっと……調べてみたくなってしまったんです」
やや強引だが、桂木は何とか説明した。
「非常識なお願いだとは思います。…………ですがもう、機会も無いと思いますから…何とか──お願いします」
桂木の懇願に有里子は少し戸惑っていたが
「…………じゃあ、10分だけね」
と言ってくれた。
応接室の中はカップルで混んできていた。
林は桂木を、人気の少ない廊下の方に誘った。
林有里子は、本当に10分程桂木の相手をしてくれて、質問にも答えてくれた。────だがそんな尋問のような会話で連絡先が聞けるわけはない。
時間となって立ち去るその人を、桂木は礼を述べて見送ることしかできなかった。
──内容は正火斗達は勿論、理人にも報せるべきだろう。ただ価値がある情報かは……分からなかった。ハッキリ言って多分、大したことのない……情報だ。
桂木は大きくため息をついた。
風の音が強まってきている気がした。そのまましばらく廊下の窓から外を ぼんやりと眺めていた。
「あ! 慎くん!? わざわざ廊下に出ていてくれるなんてありがとうございます!!!!!」
元気な声が廊下中に響き渡り、聖歌隊でそろえていた──白いワンピースの女子高生が現れた。
え? えぇ? いきなり"慎くん"呼び?
「えぇっとごめん……名前その……なんだったっけ?」
いろいろと思いがけず、悪いと思いながらも名前を尋ねる。
「斉藤美郷です。"美郷"とか"みさちゃん"とか慎くんは是非呼んでください!!」
桂木はふと──他人が見たら美郷の姿は、普段の自分と神宮寺を足して2で割ったような感じなのだろうなと思った。
ゆるいウェブがかかった美郷の髪は形の良いボブで、瞳や口がパッチリしていて大きい。元気で可愛い感じの高校1年生だ。
「慎くん、ここの"告白ゲーム"は男性から女性にするだけなの。だから、突然だけど今言わせて下さい!」
廊下がザワザワしている。美郷の声が大きいのだ。桂木は恥ずかしいし、焦った。
「東京に帰るまででいいの! お願いします! 私と付き合って下さい!!」
予感はあったが言われるとやはり驚く。桂木は
「なんで? 会ったばっかりなのに。しかも東京に帰るまでって…………」
と聞く。美郷は
「現実的かなぁって。慎くんビジュ有りだし、初カレが東京の人ってカッコイイでしょう、絶対!」
と大きな瞳を輝かせて断言した。
桂木は何か……田舎の女子の方が自分達よりも進んだ感覚のような気さえして複雑だった。妄想が最新を超えるのかもしれない。
しかし、流石にここは軽いノリでは応えられなかった。
「そんな恋人同士は無理。今夜以外はもうそんなに会えないだろうし」
桂木のそのブロックを美郷は打ち砕いた。
「会えますよ! 私は斉藤豊子の孫だもの。手伝いにここにはよく来ていますから!」




