001 再会を信じて
雲一つ無い秋晴れ──
桜田風晴はその日、新しい住まいにひたすら荷物を搬入していた。
以前の住まいから車で15分程のところだった。だが、住所は夜烙市深森町に変わった。市の外れで少し森を背負った────コテージに桜田母子は移り住むことにしたのだ。
数ヶ月前に6年間行方不明だった父親の遺体が見つかり、自分はなんと──数億円の生命保険の受け取り人となった。
だが半額以上は、叔父と母が農業支援に関する事業を起こすことに使われる予定だ。大型農業機械や農薬用ドローン、高齢者のための除雪機等を低額でレンタルし、さらに建物内のエリアを貸し出して、屋内栽培を試みるつもりだった。
これは──宝くじみたいに手に入った高額のお金が地域に役立つようにしたくて始めたことで、利益や採算は出せないかもしれない。
母はそれを見越して 自宅として中古のコテージを購入した。
正確には貸し出し用に小さい別棟バンガローが2つと、自宅兼宿泊施設となっているコテージが1棟が合わさったものだった。このコテージだけがリフォームされていて、バンガロー2つは手入れをしなければいけない状態だったが、その分割安だった。
何年も女手一つで民宿をやってきた桜田風子は、いざとなればここでコテージ運営をするつもりだった。
生活に必要となり車も買った。これも考えて、大人数を乗せられるハイエースワゴンを選んだ。今は親子2人だが、やがてお客の送迎をすることもあるかもしれない。
風晴はつい数ヶ月前まで──自分の未来は灰畑町の祖父の土地で農業をすることくらいしかないと思っていた。そうだったから、今も農業高校に通っている。
祖父や母親と話をして、高校だけで学業を終わらせるのではなくて料理専門学校に進む進路を具体的に検討しだした。
祖父は農業を継いでくれる気持ちは有り難いが、米を売るだけでは生活は立ち行かない現実を教えてくれた。
母も学んだり資格を取るなら、今しっかり考えて欲しいと言ってくれた────お金のことは心配いらないと。
実際のところ専門学校は恐ろしい程お金が必要だった。経費や通う交通費も含めたら、以前はとても望める世界では無かった。
今は父の遺してくれた生命保険がある。
死んだ父親と──それをもたらしてくれた2025年の夏を共に過ごした仲間に、風晴はいつも感謝している。
また会えることを信じて────
以前住んでいた民宿の建物は借りていたものだった。備え付けのものを大体使っての暮らしだったから、そこからの自分達の荷物はとても少なくてもう終わった。
だが、コテージ内部の家具・家電は購入しなければならなかった。宿泊客用部屋にも最低限の物はこの機会に一緒に購入した。冷蔵庫やテレビ、エアコン等が業者達によって運び込まれていく。ベッドや寝具、サイドボードやテーブル椅子達もだ。
風晴は心底、晴天で良かったと思った。
風晴自身も電子レンジを運んでいた。その途中でポケットに入れていたスマートフォンが鳴る。レンジの箱を一度片手で抱えようと試みたが、新品を落とすことを危惧して足元に降ろした。
画面を見ると"聖"と表示された。
友達だが電話がかかってくるのは珍しかった。真淵聖は話すのが苦手なのだ。
──風晴は 通話を押した。
「どうした?」
いつも通り少し間を置いて 聖は話出した。
「いいことが……あったから……」
すると聖の周りの声だろう、歓声がスマートフォン越しに聞こえてきた。
「聖の父さん母さん? 凄い盛り上がってるな──何があった?」
「弟が自転車に乗れた……補助輪無しで……」
彼の説明に 風晴も笑みが こぼれる。
「やったな! アレ嬉しいもんな。良かったな、弟さん」
だが聖の言葉は意外なものが返ってきた。
「うん。……でもいいこと……それじゃなくて……」
風晴は耳を澄ませた。
「水樹さんがクリスマスに……みんなで会わないかって……。……ミステリー同好会メンバーと……N県のペンションで」
「は?」
聞こえてはいたが、風晴は思わず聞き返していた。
凰翔院学園ミステリー同好会メンバー……日本有数の金持ちで頭脳も持つ彼らと、自分達が再び関われるのは──あったとしても……もっとずっと先のことだと風晴は考えていた。
まさか2025年12月23日に会う約束ができるとは夢にも思っていなかったのだ。




