プロローグ
2025年秋──
「別れてからも私はずっとあなたが好きでした! どうかチャンスをちょうだい 正火斗。……私ともう一度付き合って下さい!!!!」
勢いよく下げた頭のポニーテールが揺れる。
その日 大道正火斗は、1学年下の凰翔院学園2年浅倉奏衣に3度目の告白をされた。
2人はかつて中等部の頃、短期間だが恋人同士だった。
中等部の頃から正火斗は成績もトップクラスで生徒会長もしていたせいか目立っていたのだろう。よく告白はされていた。
中等部時代は、女子の好意は有り難く受け取っていた。基本 断らなかった。
だがすでに大道財閥の跡取りで数社の株主にもなっていた自分は──登下校は車での送迎、放課後は仕事をし、個人情報流出を避けるためにLINEもしない。そんな男子との"交際"は、実質ほぼ"名前だけの恋人"に……どうしてもなっていく。そのため多くの女子生徒は夢に破れて別れていった。浅倉奏衣もまた、その中の1人だった。
彼女が他の女子とは少し違ったのは、妹の水樹と仲が良かったこと。それでなのか、浅倉はミステリー同好会にも水樹と共に入部した。
その頃2回目の告白を受けた。
けれどもそれは断った。その頃自分は仕事やら何やらで……他のことに気を取られていたから。
推薦入試でT大に決まったあと、水樹に言われてはいた。浅倉奏衣が3度目の告白を狙っている──と。
可愛いしあの水樹ともうまくやってくれる性格の良い……明るい女子だ。
想ってもらえていることは素直に嬉しい。3年以上好きでいてくれるなんて男冥利に尽きる。
何の問題もない。自分は今 誰とも付き合ってはいなくて好きな人も……いない。
だから 正しいはずだ。
「────いいよ。よろしく」
その言葉に彼女のポニーテールがパッと上がり、浅倉の驚きに満ちた瞳がこちらを見る──それが涙に潤んだ時、自分の胸は痛んだ──何故か。
「ありがとう! ありがとう! 正火斗!! やっった────!!」
そう繰り返して、浅倉はぴょんぴょんと飛び跳ねた。その勢いと大声に少し驚いたが、正火斗は微笑んだ。
これが正しい道だ。
間違えてなどいない。
これは正しい道
誰にとっても きっと
念じるように 祈るように そう繰り返した。
繰り返し祈る理由は考えてはいけない
大丈夫だ
もう会うことはない
それを信じて 秋晴れの空を見上げる。
眼鏡越しに 高く どこまでも澄み渡る水色が続いていく。
それは裏切りなど微塵も予感させない美しさだった。




