021 過去に消えた人々
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部の頃から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○華蔵透子・理人の妹。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
その後も正火斗のもとには久しぶりの"華蔵理人"への挨拶としてさまざまな人が訪れた。それを見ていたのか
「ご当主、お困りごとはありませんか?」
と冴木拓眞が正火斗に声をかけてきた。
冴木は今日は作業着ではなく、ハイネックのセーターにジャケットというスタイルだ。
「ありがとう。実は──」
正火斗が声を ひそめたので、冴木は近くに跪いた。
「年配の方々はともかく、同級生には話しかけられても困っている。何か小学生の頃話題になったエピソードのようなものがあるなら教えて欲しい」
正火斗の質問に冴木は深くうなずいた。
「────なるほど。2年の時の担任の仲山先生が、3年の担任の川上先生と結婚したんだ。みんなでひやかして、仲山先生をお楽しみ会でお祝いした。
あとは……」
冴木は少し考えてから言った。
「4年生の夏に、涼しいと評判の洞窟に行って山で男の子達が5人行方不明になったんだ。それで捜索隊が出て、大騒ぎになったりしたなぁ……」
彼の声には こもっているものがあった。正火斗は確認したくなった。
「まさかあなたも……?」
「バレたか。……そうなんだよ。夏で暑かったからさ、みんなで"あの洞窟に行こう!"と話が出て。
なんでも前に観光名所にしようとして、途中で取りやめになったという──風穴のようなところなんだ。
ここから少し行った林道の脇にすぐ入り口があって、ひたすら真っ直ぐ進むと森の方に通じるデカい出口がある。
ちょっと怖くて面白いうえに奥に行くごとに涼しくなるから子供達の夏の遊び場だったのさ。
僕らはその出口から森に行って遊んでいたら、暗くなって洞窟の場所が……帰り道が分からなくなったんだ」
冴木は当時を思いだしてか、情けない表情を見せた。
「水筒とかグミや梅昆布は持ってるヤツがいて、みんなで分けて食べたんだ。夏だから夜も寒くもないんだけど、地面は硬いし虫が凄くて地獄だったよ。
──ちなみに君は迷子メンバーじゃない。虫刺されで真っ赤になって会ったら『ばーか』って君は言ったんだ」
正火斗は微笑んで返した。
「覚えておきますよ。あなたに僕は『ばーか』と言ったと」
そして尋ねる。
「洞窟は今も行けるんですか?」
冴木は首を振った。
「そもそも、ここから近い入り口の方も、実は錠付きの鉄の扉があって封鎖はされていたんだ。でも扉の横に自然に出来た穴があって、子供達だけは通れていた。
僕らがヘマをやったんで、その穴は当然塞がれたよ。それで、みんなの夏の隠れ家は失われ、僕らは罵詈雑言を浴びたってことさ。なんとも ほろ苦い思い出だよ」
冴木と正火斗は笑い合った。はたからは同級生同士が親しく会話しているように見えるだろう。
だが来ている客層に目を走らせて、冴木は正火斗の耳に近づいて告げた。
「それより君は……多分こっちを知っておいた方がいいかもしれない。──6年生の時に"姿を消した女の子"が今日ここに来てる」
正火斗は視線を動かさず、冴木に特徴と服装だけを聞いた。あとは──
「名前は?」
冴木は答えた。
「林有里子」
水樹の元には透子がアップルジュースを届けに来た。
「美味しいジュースですね。どうもありがとう」
水樹は正直言って言葉使いがギクシャクしていた。透子には敬語になってしまいそうになる。
「私達のために、変なことに巻き込んでしまってごめんなさい。…………お友達と、きっともっと素敵なクリスマスのはずだったのに」
透子は小声で言い、そして尋ねた。
「水樹様は……恋人はいるのですか?」
水樹はちょっと赤くなりながら
「──はい。います。あの黒い眼鏡の紺色の着物の……」
と答えて秀一をこっそり教えた。
「優しそうですね。…………いいなぁ」
最後の一言は敬語ではなくなっていて、思わず漏れたような切ない声だった。
水樹は透子が気の毒になった。好意を抱くのを禁じて生きるのは大変なことだろう。
透子自身のことをこんな場所で聞くのは憚られたが、せめてもと思って水樹は聞いてみた。
「華蔵家への"白吹の呪い"は いつ頃からなんですか? 何かきっかけはあったんでしょうか?」
透子は真剣に考えているようだ。
「私と兄の知る限り、曽祖父と曽祖母はそれぞれに県外の人を好きになったことがあったそうですが、両親に紹介しようと白吹村に連れてくると、吹雪の夜の翌朝 姿が失くなっていたそうです。
ですから100年近く前からは、きっと……」
さらに続ける。
「祖父と祖母は子供の頃から婚約していて、祖母は手足が不自由な人でした。そういう事情もあったので、祖父との結婚の運命も受け入れて特に問題は無かったみたいなんですが……」
「私達の母は私を産んで……死んでしまっています。
母は高校生の時に恋人がいたみたいなんです。その人は白吹村の人だったようですが、冬の夜にやはりいなくなって、いまだに発見されていないそうです」
好きになった人が消えてしまう呪い──
解決の糸口どころか、その強さに水樹はなす術が無かった。




