015 1つの答え
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。実家は大企業の財閥グループ。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。父親は大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部の頃から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○華蔵理人・華蔵家現当主。
○華蔵透子・理人の妹。
○橘信蔵・華蔵家執事。
○斉藤豊子・華蔵家女中頭。
○山原海・華蔵家料理人。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
空腹が満たされてか糖分が補充されてか──
頭が動きだす。
「華蔵理人の真意が別にあるって、何?」
食べながら正火斗は風晴に尋ねた。
「夕食のあと理人さんと話したんだ。──で、本当の狙いを教えるから正火斗にも伝えてほしいって言われた」
「あのあと、彼は風晴達の部屋に行ったのか……」
質問ではなく、独り言のようなものだった。だが風晴は
「あ──……て言うか、部屋が……続いているんだよ」
と言葉を返した。
「はい?」
正火斗のフォークが止まる。
「オレと聖の泊まっている部屋の隣が……当主用の部屋なんだよ。で──寝室が隣り合ってるつくりで、扉一つで隔たれてるんだ。いわゆるその……オレ達の方の部屋は、昔"当主の奥様"用の部屋だったみたいで……」
正火斗も知識だけはある。欧州の貴族や王族の"夫婦の寝室"の作りだ。寝室の扉を行き来できるのは夫だけ。
「何だってそんな部屋に入れられている?」
食べていた姿勢から上半身を起こして 正火斗はあからさまに不満な顔をした。
「正火斗、理人さんは鍵を持っていて それを使って扉を開けて来た。だけど、執事の橘さんは鍵は失くなってしまって今は"開かずの扉"だと言ったんだ」
瞬時に正火斗は理人の真意に気付いた。この後の風晴の言葉は裏付けにすぎない。
「理人さんが1番疑っているのは、橘さん達の方なんだ。前々から華蔵家に使えているあの──橘さん、豊子さん、山原さん、冴木さん。
理人さんや透子さんのことは子供の頃から知っていても、彼らには長年の信仰の刷り込みが行われてもいるし、曽祖父や祖父達の教えも叩き込まれている。
表向きは現当主に従って見せていても、本当のところでは、恋を許さない風潮を支持しているのではないか……と」
正火斗は同意した。可能性はむしろ高い。
「現当主がこの屋敷を手放せば雇用も無くなる。華蔵家への信仰から、地域の衰退のようなものも恐れているのかもしれないな。
あの4人の中の誰かかはともかく──華蔵家が神通力を取り戻すのを 本気で夢見ている輩はいるんだろう」
「理人さんは……」
風晴は持っていたコーラのグラスを置いた。
「冴木拓眞さんをより注意して見てほしいって」
それは正火斗も予期していなかった名前だった。
「冴木を? 何故?」
風晴は
「正火斗、多分お前は"拓眞"って呼び慣れておいた方が良い」
と指摘する。 正火斗は眉間に皺を寄せたが、そこは従った。
「──分かった。何故"拓眞"は要注意人物?」
「犯人の可能性が高いとかじゃないんだって。もしも犯人だった時──透子さんが最も傷つく相手だから……って」
沁み渡るような静寂が広がる────
サイドボードの灯りだけだった部屋には、窓辺に月光が差し込んで来ていた。
──やがて正火斗はまたフォークを動かし、カップラーメンを食べ出した。
風晴は窓の方を向いていたが、呟くように言った。
「似てるよな。……理人さんと正火斗って」
「どこが!? 似たくもない!!」
正火斗が騒ぎ出したので、風晴はそれ以上言わないようにした。
だけど そっくりだと思った──
家や親を背負わされているところ
それを打ち崩そうとしているところ
妹のことを考えて戦うところ
「似てない! どこも!」
1個上の天才が駄々っ子のようになっているので、風晴は言った。
「分かった分かった。似ているのは名前だけ。──2人共"ヒト"がついてる。そこだけそこだけ」
この点については正火斗も認めざるおえなかったんだろう。彼は反論できず、カップラーメンをかき込んだ。
気がつけば深夜に近づいていて、話終えると風晴は部屋に戻ることにした。
そういえば──と今更ながら気づいて正火斗は聞いた。
「聖は? 同じ部屋なら理人の話を彼も聞いたんじゃないのか?」
風晴は
「丁度 風呂上がりで一緒に話は聞いた。でも"正火斗のところに一緒に行くか?"って聞いたら"眠いから……任せる"って」
と言って
「アイツ、カッコイイよな」
と しみじみてしていた。
正火斗は複雑な気持ちになったが、それを分析も解明もしたくはなかった。
それでも廊下に出た風晴を見送るとき
「ありがとう」
とカップラーメンの礼をした。
歩き出していた風晴は振り返ると
「友達だろ」
と言って月光に照らされている廊下を駆けていった。
部屋の扉を閉めて、正火斗は
────脱力した。
扉にもたれて体を預け、そのまま座り込む。
自分でも、何故へたれ込んでいるのか……分からない。
それでも何かに……安堵できた気がした。
友達だ これは友情だ
彼と同じように、それを信じればいいんだと── 一つの答えが出た。
馬鹿みたいだった
恐れてばかりいた
有りもしないことを
一日の疲れがドッと襲ってくる。
体を引きずってベッドに倒れるように入り、眠りについた。
その夜、予想以上に グッスリと 眠れていた。




