121 ねだる人
ー登場人物紹介ー
◆大道正火斗・3年生。大企業財閥御曹司。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
○山原海・華蔵家料理人。生。
○赤沢幸太郎・新しい華蔵家運転手。
●左河曜子・正火斗の会社の部下。
●高井戸勝己・正火斗の秘書。
午後13時30分からイベント開始で、16時からはレセプションパーティーの予定だった。全体は18時で終了の見通しだ。
風晴達の昼は11時半と早めだった。
カルボナーラスパゲッティを食べて、風晴は山原さんが厨房に来ているんだなと分かった。
それから──当然のように正火斗の姿は無い。
飲み物くらいは飲んでるんだろうか、あいつ……
思って 自分が心配することではないと気付く。周りに秘書やら部下やらが沢山いるのだから。
食事を進めていると左河さんがまた食堂に現れて、そして風晴に声をかけた。
「桜田……風晴くん? あなたの食事が終わってからでいいんだけれど……」
正火斗はその頃 自室にいた。社員達との最終チェックは大方が済んでいた。
今日、彼は館内の3人の人物を呼び出していた。
仕込みや下準備やらで特に忙しい1人は朝のうちに来て、すでに去った。
もう1人は、こちらの聞きたい話をしてもらっている最中だった。────最後の1人は……
彼の駆けてくる足音がして、正火斗は視線をドアに移した。
コンコン
と音がして
「どうぞ」
と こちらが言い終わる前に扉が少し開いた。
「正火斗? オレに用事って何!?」
風晴は自分は場違いだとでも言うように、顔だけ覗かせて尋ねてきた。
「何か作ってほしくて」
「は?」
風晴は聞き返す。
「大一番前だから、口にするものを選びたい。山原さんは忙しいだろうから 風晴に何か作ってほしい」
カチンとくるものはあるが 耐える
「リクエストは?」
「できれば、甘味があって塩味があって酸味もあって、匂いが少なくて 食べやすくて旨いと良い」
注文 多いな!
「あと、なるべく早く」
この野郎!
「風晴」
「まだ何かあるのか?」
人使いが荒い!
「飲み物も一緒に」
…………スレスレ許せなくも無い
「りょーかい!」
扉を閉めて厨房に向かう。
階段を降りながら もう頭の中を巡らせていた。
"甘味があって塩味があって酸味もあって、匂いが少なくて 食べやすくて旨い"ものって何だ!!??
「へー、何だかこれまでとは違ったタイプのご友人ですね。純朴な感じの。……白吹村の学生ですか? お名前は?」
正火斗は秘書である高井戸に首を振った。
「覚える必要は無い、高井戸。彼は友人でも……何でもない」
「……そうですか…………」
高井戸は不思議そうな表情で言ったが、それ以上は何も言わなかった。
正火斗は話に来ていた人物に視線を戻した。
厨房にいる山原に風晴は断って入り──1人分の食材を使うことを許してもらった。
急いで借りたエプロンを着け、手を洗う。
最早正しい調理法にこだわる時ではなく、時短が求められていた。
ボールに卵2つと牛乳、多めの砂糖を入れて手早く混ぜる。出来上がった液を天板に移して、食パンを2枚敷く。
それからブロッコリーを一口大にカットして洗い、水を切って耐熱ボールに入れてラップし、電子レンジで熱する。取り出しておき更に予熱を通す。
その間にミニトマト3つを四つ切りにする。
ここで天板の食パンをひっくり返す──全体にくまなく染み込むように。
フライパンにサラダ油を敷いて強火にする。
ベーコンの固まりから薄めに4枚切り取り、熱したフライパンに入れて両面がカリッとなるまで焼く。
酢、胡椒、塩、砂糖少々、レモンピール、オリーブオイルを混ぜてドレッシングにし、トマトとブロッコリーを和えた。完全にオリジナルの味付けだった。でもトマトの酸味が合わさって……うん、悪くない。
ベーコンを焼いたフライパンの油をキッチンペーパーで拭き取り、次はバターを溶かす。そこに天板から出した卵の染み込んだ食パンを一枚ずつ焼く。────どんどんと12時が過ぎていく。
じっくり焼いて焦げ目を少しつけたいが 時間が無いので中火にする。
ようやく2枚食パンが焼けると食べやすいように簡単な切り込みは入れた。あとはベーコン、サラダを盛り付ける。────急げ!
焼きあがったばかりの温かいフレンチトーストには追いバターも つけた。
トレイに乗せてナプキン、ナイフとフォークをつけて料理にはドームカバー(蓋)をつける。冷蔵庫を開けると──ペットボトルのミルクティーが入っていた──これだ!とグラスに注いだ。
「洗い物、戻って来たらやります!」
山原さんに声をかけて厨房を出た。階段を上がりながら"20分はかかって無いはず"と思い返す。
正火斗の部屋の扉をノックしたら、すぐに中から開けてもらえた。
「持って来たけれど」
と言うと彼は
「ありがとう」
とトレイを受け取った。
風晴はうなずいて今度は彼に代わって扉を閉めた。 そのまま廊下を戻って行った。
正火斗はトレイを備え付けのテーブルに置いた。
彼は1人だった。
呼び出していた人間も仕事に戻り、社員達には広間でのスタンバイをお願いし、先に行ってもらった。
テーブル前のイスに座りドームカバーを外すと──確かに"甘味があって塩味があって酸味もあって、匂いが少なくて 食べやすくて旨い"ものがそこに並んでいた。
微笑み、彼は残さず全てを味わった。
ゆっくりとですが、確実に事件は終盤に進んでいます……




