108 後悔のない言葉
ー登場人物紹介ー
◆大道正火斗・3年生。大企業財閥御曹司。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
風晴は自分の部屋に戻って行った。
その背中を見送り、正火斗は先刻 自分が発した言葉を思い返した。
"僕が行くことはもうないだろうから。──風晴のところに"
それはこの年末の後は、もう会わないという意味の言葉だ。彼にも……伝わっただろう。
────言えた
言っていい言葉だ
言うべき言葉──
後悔はない
痛みを感じる── 必要 も ない
風晴は何も知らない
僕と彼の父親達の 秘密と罪を
彼らは
愛し合っていた
男同士で
それぞれに結婚していたにも関わらず
そして 2人で 死を選んだ
僕は全てを知っていて
全てを彼から隠した
彼の母親も知っていて────
墓まで持っていくと言っている秘密
風晴は両親の愛情を信じている
そうして育った
それは嘘ではなくて
桜田家にちゃんと育まれていた愛情を
僕の父が──神城総司が壊したのだ
執拗に激しく 嵐のような執着で
僕はそのメールでの恋文を読んで 吐き気がした
今も理解はできない
何故 風晴の父親である桜田晴臣が応えてしまったのか
だが永遠に理解できなくていい
したくもない
何もかもが 終わったこと────
桜田晴臣も……死ぬことで守った妻子の幸せだった
彼らも僕も
今 風晴と母親の風子が幸せにしているのなら
何もいらない
秘密を知っているだけでも
その息子同士と言うだけでも
傍にいるだけで危うい自分達だ
しかも 僕は──
全く愛されては育っていないせいなのか
愛というものの おぞましさばかり見てきたからか
愛情がよく…分からない
これまでの恋人達も
浅倉奏衣も
結局 愛せなかった
だが男なら愛せるのかと言われれば
それは違うと明確に否定できる
同性愛者ならば とっくに着物姿の可愛いらしい聖に
反応していただろう
桜田風晴だけが 自分の調子を狂わせる
心を許して暴かれてしまう
あの夏の日の縁側のように
また誰にも話したこともない話を……
彼には気づけば打ち明けてしまっていた
因縁の──まさしく呪いのような相手
近づきたくない
傍にいたくもない
隣に居続けてしまえば
何か恐ろしいことが起こる気がする
自分は神城総司に生写しで
彼の血が流れている
あの自分の欲望にだけ忠実な
母親の血も
近くにいても
桜田風晴の人生の害になることしか想像ができない
彼を傷つけて
彼が大切している人も傷つけて
彼らが積み重ねてきたものを崩しかねない
それどころか きっと 残酷なまでに潰してしまう
だから僕達は この先 会わないことが 互いへの幸せだ
それでいい
それが安全で
それこそが正しいはず
全ての罪を僕が背負うから──
運命よ
彼に 手を出すな




