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炎と白銀と〜聖夜の洋館の悲劇〜僕達の推理2  作者: シロクマシロウ子
第13章 迷路の奥へ

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107 口にした禁句

ー登場人物紹介ー

※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー

大道正火斗だいどうまさひと・3年生。大企業財閥御曹司。

大道水樹だいどうみずき・正火斗の妹。2年生。


桜田風晴さくらだかぜはる・田舎の農業高校2年生。

 




 正火斗が紙袋を開けると中はマフラーだった。グレイの生地(きじ)に青いチェックの(がら)だった。


「それ、プレゼントゲームに出したマフラーと一緒に買ったんだ。正直言って 何を選んだら良いか 全っ然 分からなくて……」


 2人はソファに向かい合って座っていた。

 風晴は素直に吐露(とろ)した。


「何を買っても、必要な物はもう持ってるだろうから」


「……なるほどね」


 と正火斗はうなずく。風晴は


 コイツ、否定しないんだな……


 と思って うらめしく見た。だが正火斗は


「こういうのは気持ちだろう。それは買ったりはできない。ありがたいと思うよ」


 と礼を()べ、それから──


「気持ちは何もなく……ものだけの人間もいる。いくら与えてもらっても 本当に欲しいものはもらえていない」


 と呟くように言った。

 日中も陽射(ひざ)しの無い、風の強い日の午後だった。窓が(きし)む音が時折(ときおり)小さくした。


「…………お母さん……?」


 風晴も小声で尋ねる。テレビの音に消されているかもしれない(ほど)だったが 正火斗は聞き取ったようだ。


「物心ついた時から僕には水樹がいたけれど──あの人が子供の水樹を"抱っこ"するのを見たことがない。あの人はシッターに"抱いてやって"と言うことや、必要があって幼子を"運ぶ"ことはあっても それだけだった」


 彼は少し目を()せた。


「水樹が(しゃべ)り始めて"抱っこして"と言ってもあの人は──当然のように"ドレスが汚れてしまうでしょう?"と微笑(ほほえ)んで拒否(きょひ)をした。だからそんな時は……僕が水樹を抱っこした」


 風晴には衝撃(しょうげき)だった。水樹と正火斗には年齢差は ほとんどない──


「お前だって小さかっただろう?」


 聞くと正火斗は


「立ってずっと抱っこしていることは無理だったけれど。持ち上げてやったり ソファで(ひざ)の上に水樹を乗せたりは──よくしていた。(おぼ)えてる……」


 と言った。

 一見すれば 年の近い兄妹は仲良く(たわむ)れ合っているだけに見えていたんだろう。

 だがほんの小さな頃から正火斗は、水樹のために"自分がしてあげなければ"と思って生きている。なんてことだろう……


「お前は"抱っこして"とは思わなかった……?」


 風晴の()いに 正火斗は思いがけないものをぶつけられたような顔をした。しばしの沈黙(ちんもく)のあと一言


「覚えがない……」


 と言う。



 何故(なぜ)そんな人間なんだろうな



 風晴は腹が立つ気さえした。



 気づいてさえもいない


 自分の中で()もれている


 思慕(しぼ)孤独(こどく)渇望(かつぼう)



 そういう(すべ)てを押し殺して


 どれだけ絶望(ぜつぼう)(あきら)めを


 お前は()り返してきたんだろう




 (かな)わなかったんだな……ずっと



 自分は欲しいとは言わないから妹にだけは と



 心底(しんそこ) 願って



 うったえ続けて



 それでも……



 叶うことは無かったんだ






「水樹に救われたのは僕の方だと思う」


 正火斗は相変わらず変なことを言った。それは一理(いちり)あるかもしれないけれど 一部分でしかない。

 でも彼は多分──死んでも妹を悪く言うことは無いだろう。だから風晴は黙ってうなずいた。


「あの人に自分だけ育てられていたら──あの人そっくりになっていたかもしれない。それは……ゾッとする」


 それはあり得ないと風晴は知っている。

 正火斗はその言葉を少し冗談(じょうだん)めかして言った。風晴も彼に合わせて少し笑って言った。


「母親にだけそんなに似たりしないだろ。正火斗のお父さんが愛情深いのかもしれない。……大道じゃなくて、本物の……神城(かみしろ)……総司(そうじ)さん?」


 瞬時に何かの────空気の変化のようなものを風晴は感じて──奇妙(きみょう)に思った。

 正火斗の表情は変わらなかったが 瞳に緊張(きんちょう)と……警戒(けいかい)宿(やど)った。


 風晴は何かを自分が


 やらかした


 とは分かった。

 きっと父親にも何がしかの地雷(じらい)があったんだ。


 彼はテーブルの上に置いていた黄色いカバーの"心理尺度構成法 実践編 "を手に取った。


「こっちも持って来てもらえて良かったよ。ありがとう」


 その わけの分からなそうな本を風晴に向けて言う。

 そして彼は笑顔で言った。



「僕が行くことはもうないだろうから。──風晴のところに」








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