106 忘れていた夏と
ー登場人物紹介ー
※◆は鳳翔院学園高等部ミステリー同好会メンバー
◆大道正火斗・3年生。大企業財閥御曹司。
◆大道水樹・正火斗の妹。2年生。
◆安西秀一・部長2年生。親が大道グループ傘下企業役員。
◆浅倉奏衣・副部長2年生。中等部から正火斗に片想い。
◆桂木慎・2年生。明るくフレンドリー。
◆神宮寺清雅・1年生。ややお調子者?
◆椎名美鈴・1年生。真面目でしっかり者。
◇桜田風晴・田舎の農業高校2年生。
◇真淵聖・風晴の同級生。話すのが苦手。
○冴木拓眞・華蔵家運転手。理人の同級生。
○林有里子・白吹村役場職員。
○葉崎達哉・25年前からの行方不明者。
○金森香世・葉崎達哉の実姉。洞窟所有者。
洋館に帰って来た風晴は、部屋で鮭おにぎりとシーチキンマヨネーズおにぎりを食べた。
部屋にいた聖は 風晴達が林有里子の両親の死体を見つけたなんて全く知らなかった。
風晴はおにぎりを食べながら教えた。
金森香世に容疑がかかったことも聖にも話した。伏せていても、この先ネットで目にしたりニュースで耳にしたりするかもしれない。
そして金森については 正火斗が"ひっくり返す"と言ってくれていたこともちゃんと教えた。
黙って聞いていた聖は最後に
「大丈夫……?」
と声をかけてくれた。
風晴は
「オレは大丈夫。だけど……」
と隣りの部屋に続く扉を見つめた。
正火斗はコンビニエンスストアでエナジーゼリーのような物しか買っていなかった。
彼に似合った姿でもあるし無理もない……とも思った。
自分はあの洞窟の中で冴木拓眞の死体と対峙したけれど暗かった。それはそれでまた不気味さはあったけれど。
正火斗が発見した刺殺体は複数箇所 刺されていたみたいだ。正火斗は多分それでも見ただろう────でも彼だってまだ何者でもない高校生だ。ショックを受けて当然だった。
どうしても隣の部屋への扉に視線が向かう。
部屋を訪ね……たいとは思った。
けれど1人でいたいかもしれない。
水樹からLINEがあったのだ。
報告会は夕食後になる──と。
だからそれまでは自由時間だった。
でも水樹にこの指示をしたのが正火斗のような気がした。
やっぱり……1人で休みたいのかもしれない。
おにぎりを食べ終わってゴミ箱にゴミを入れた。備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲む。そして 大きく息をついた。
その様子をじっと見つめていた聖は
「風晴……行った方がいいんじゃない……?」
と隣の部屋への扉を指差した。
「……用事、何も無いし……」
風晴は頭をかいた。聖は
「渡したいもの……あったんじゃない?」
と言って風晴の瞳を真っ直ぐに見つめる。
そういう聖は貴重なので 風晴も頭の中の記憶を手繰る。
そして────
「あっ……」
と小さく息を飲む。
確かにあった。持って来ていたのに。忘れていた。
聖がコクコクとうなずいている。
今度は風晴の方が隣の部屋への扉を指差した。
それから──自分自身を指差した──聖に問うように。
聖はひとつ大きくうなずいた。
小さくノックをしたら返事は返ってきた。
眠ったりはしていないようだ──いや、返って眠れないのかもしれない。
「正火斗、いい? 渡したいものがあって来た」
扉を少し開けてそう言うと
「どうぞ」
と告げられた。
入っていくと彼は寝室を抜けた先の居間の方にいた。テレビがついていて、ニュースが流れている。
わざわざソファから立ち上がってくれている正火斗に、風晴は黄色い表紙カバーの文庫サイズの本を差し出した。
"心理尺度構成法 実践編 "
それを見ると正火斗の端正な顔に笑みが浮かんだ。
それはあの夏休みの"忘れ物"だった。
「ありがとう」
礼を言って彼は受け取った。
すると風晴はもう一つ紙袋を差し出した。袋にはリボンがついている。
「これは?」
正火斗は本当に見当もつかなくて風晴に尋ねた。
風晴は
「誕生日プレゼント」
と言って
「"よく忘れられる"って言ってたから持ってきてたんだ。で────昨日渡すの忘れてた」
と物凄くバツが悪そうに説明した。
正火斗は笑った。
笑いながら困った。
彼のような人間を
一体どうしたらいいのか──




