051_ゴブリンハンター -2-
カドロの町シリーズは、全3話になりました。
最終話がちょっと短めなので、2/22に記載しますね。
この日の山は特におかしかった。順路の半分も行かないうちに、普段の3倍もの獲物が現れたのだ。
(何か原因があるはずだ)
そう感じたノサモは巡回コースを外れ、付近で一番高い山の山頂を目指した。そこから見渡せば何か分かるかもしれないと考えたからだ。
足に力を込め険しい傾斜を一気に駆け上がる。次第に見晴らしが良くなり気温も下がってきた。気がついたら、周囲から背丈の高い木がなくなっていた。
流れる汗を拭いようやくたどり着いた山頂から周囲を見渡すと……。
(何だ、あれは……)
異変は直ぐに分かった。まだ先だが、樹木が揺れている場所があったのだ。目を凝らしてみると、何か巨大な生物が木々をなぎ倒しながら歩いているのが分かった。
(ランドドラゴンか、まずいな)
ゆっくりと近づいてくるその生物は、巨大なドラゴンだった。
竜種の寿命は長く、1000年以上生きる種族もいるという。彼らは死ぬ瞬間まで成長を続けるため、巨大になりすぎたドラゴンは自分の体重が重すぎて飛ぶことができなくなる。そこまで育ったドラゴンのことを世間ではランドドラゴンと呼んでいた。
ランドドラゴンは巨大な肉体に見合った旺盛な食欲を有し、飛ぶことができなくなり獲物を上手く狩る事ができなくなると人里まで降りてきて人間種を捕食することで知られていた。
嗅覚に優れており、視線の先のランドドラゴンもカドロにまっすぐ向かっていた。まだ距離はあるが、2、3日中には町に到着するだろう。
ここ最近の異変は、ランドドラゴンに追われて逃げてきた生物が原因だったのだ。
確かにランドドラゴンは危険な生物だが、倒せない相手ではない。腕の内側や腹には硬い鱗がないので普通の武器でも十分通じる。一般的に、A級冒険者が10名もいればランドドラゴンは倒せると言われている。そして、カドロの冒険者は精鋭揃いで知られており、十分対処は可能であろう。
本日の狩りを中断し、ノサモはカドロを目指し走り出す。いち早くギルドに報告すべきと判断したからだ。
ランドドラゴン来襲の知らせはカドロに住むすべての住人に告知され、山は立ち入り禁止となる。
直ぐにA級冒険者7名からなる討伐隊が編成され、ランドドラゴン討伐に出発した。町の近くには畑が広がっていたことと、山間の予定進路は推測できたので、事前に罠を用意し一気に仕留める計画だった。
B級以下の冒険者には待機命令が発動し、町はピリピリした空気に包まれている。唯一のS級冒険者ノサモは山脈に面した南門で他の冒険者や連絡要員のギルド職員たちと一緒に備えていた。
本来、ノサモには何も命令は出ていないので自由に行動する権利があるのだが、突発事案に備えていたのだ。持っている武器もいつもの片手剣に丸盾ではなく、長めの両手剣だった。
「S級なんだからよ、1人で討伐に向かえばいいのに、こんな所で隠れてんなよ」
同じく南門に配置されていたガノッサたちのパーティーは、好き放題に悪口を言っていた。当然、ノサモの耳にも入っているはずだが、彼は一切反応しなかった。
「あーあ、これで何か問題が起こったら直ぐに逃げんだろうぜ。S級様だから逃げてもペナルティーはないしな」
「……」
何も言わないのを良いことに、ガノッサたちの悪口はエスカレートしていく。他の冒険者の中には、その態度に眉をひそめている者も多い。しかし、反論すべきノサモとギルド職員が何も言わないので口を出す者はいなかった。
「だから俺は言ったんだ。あれは……」
「っ!? ちょっと静かにしろっ!」
今まで黙っていたノサモが初めて口を開いた。その勢いに思わず口をふさぐガノッサ。
「何だてめぇ。俺様に向かって」
「いいから黙れと言っている。お前には聞こえないのか?」
「……なんだと?」
その頃になってようやく他の冒険者も気がついた。かすかに聞こえるその音は木が倒されるのに違いない。徐々に大きくなる音に併せて、次第に大地も揺れだした。
すべての視線が集まる中、木々をなぎ倒しながら姿を現したランドドラゴンはカドロに向かって歩き出した。そう、白竜山脈から降りてきたランドドラゴンは1匹だけではなかったのだ。
『あいつには勝てねえ』。ランドドラゴンを初めて目にした時、ガノッサの頭に浮かんだのはそれだけだった。
A級冒険者昇格のものさしとしてよく言われるのが、『複数の冒険者でのランドドラゴン討伐』である。
ガノッサも冒険者として経験を積み、カドロの町ではそれなりの実績も上げてきた自負がある。ランドドラゴンとは戦ったことはなかったが、それは遭遇したことがないだけで、機会があれば必ず討伐できる自信があった。
そう、この瞬間まで。
何百メートルも離れた場所にいるのに、今すぐ逃げ出したい思いに駆られた。ちらりと横目でパーティーメンバーを確認すれば、皆腰が引け、青い顔をしている。
「討伐に向かったA級のパーティーを呼びに行くべきだっ」
何とか声が震えないように言うことができた。とてもじゃないが、あんな化物と戦うことなどできない。
「いや、それは無理だ。向こうも今頃は別のドラゴンと戦っている最中だろう。そもそも、今から呼びに行っている時間もない」
ゆっくりではあるが、新たに出現したランドドラゴンが近づいてくる。30分もしないうちにここまで来るはずだ。
「だが、こんなところじゃ戦えないぞっ」
「ああ、ガノッサの言うとおりだ。ここで戦えば城壁や周囲の畑にも大きな被害が出る。打って出るしかない」
ガノッサの言いたいこととは別の意味でノサモに受け取られてしまった。
「バカ野郎っ! 俺が言いたい事はそんなことじゃ……」
「だから、僕が1人で出る。出た後は扉を閉じて何があっても開けないこと。僕が倒れて敵がまだ残っていたら、その時はよろしく頼むよ」
何事もないように言いながらノサモは立ち上がり南門から飛び出していく。その先から小山のようなランドドラゴンが迫っていた。
「……おいガノッサ。お前がなぜBランク止まりなのか、その理由を教えてやろうか?」
唐突に話し出したのは、古参のギルド職員だった。彼は補給や救護の担当としてこの場につめている。
「お前が冒険者として活動を始めて13年位か。その間、どれだけ依頼を受けたか分かるか?」
「……大体、2000件くらいか」
「1663件だ。その内、成功した依頼は1380件。成功率は83%って所だな」
ギルド職員は本人さえうら覚えな情報をスラスラと答えた。
「分かりやすく言えば、5回に1回は依頼を失敗するってことだ。そんな信用がない奴にA級のランクをやるわけがない。
カドロにいるA級の冒険者で、依頼達成率が95%より下の奴は1人もいない。
ちょっと考えれば分かるだろう? A級の依頼は重要で危険な仕事も含まれる。実力がなければ話にならないが、信用がない奴にも任せるわけには行かない。だから、お前はどこまで行ってもB級止まりなんだよ」
「じゃあ、あいつはどうなんだよ。S級に上がるだけの実績があるってのかっ!?」
ガノッサたちの視線の先でノサモとランドドラゴンの戦闘が始まった。ドラゴンの攻撃を一度でもまともに喰らえば命はない。見ているだけで胃が痛くなる。
「ノサモが約25年の冒険者生活でこなした依頼は一万件を超える。しかし、失敗した回数は0件。達成率は100%だ。これは3年以上の経歴を持つ冒険者として初めての快挙だ」
「だが、奴の依頼は【ゴブリン退治】だろっ!? そんなの新人だってできる仕事だっ」
まだ納得できないガノッサに対し、ギルド職員も大きなため息をついた。
「ノサモは何もゴブリンだけを退治していただけじゃない。重篤な病気で貴重な薬草を求める依頼も、ノサモならば必ず採取してくる。危険な灰色狼の群れが町の近くで発見されたら、依頼を受けた当日に討伐してくれる。お前が知らないだけで、ノサモは何度も重要な仕事を請け負ってくれた。中にはA級冒険者が自信がなくて断った仕事でさえな。
ゴブリンばかり討伐しているように見えたかもしれないが、お前たちがパーティーで狩っている飛竜種だって1人で何度も討伐している」
「そんな事は、奴は一度も……」
「お前が失敗した依頼にも、少なくない金を積んで藁にもすがる思いの依頼人がいたのかもしれない。そうした思いに気もつかず、雑な仕事しかできないお前には重要な仕事は任せられない。これはギルド会館だけじゃない。この町全体の総意だ」
ランドドラゴンとノサモの戦いも、ノサモの勝利で決着がついたようだ。地に倒れ動かなくなったドラゴンを見て、南門から歓声が上がった。
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