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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第三章 飛躍編
54/123

049_先生

 申し訳ありませんが、隔日掲載で進めさせていただきます。

「絶対的に先生が必要だっ」


 郊外の長屋街にある集会場で行われていた定例会議の冒頭で、八十雄は力強く宣言した。


 出席していた混じり者たちの代表や大工ギルドのマテバやドリスも呆気にとられている。バルチだけは八十雄に同調し、『おー』とガッツポーズをとっていた。


「……俺は八十雄さんが職業訓練学校を作るとばかり思ってたんだけど、違うのかい?」


 マテバは腕を掻きながら、今だ立ったままの八十雄を眺めている。


「うんにゃ、俺が目指しているは【勉強したい奴が好きなだけ勉強できる場所】だ。大工だろうが冒険者だろうが、何を学んでも良いと思ってる。それに併せて精神教育もやるつもりだが」

「冒険者には養成学校がある。そっちに任せたら良いんじゃないか?」


 養成学校に一枚噛んでいるドリスの質問に、


「もちろん、そういう選択肢もあるな。たださ、俺がやりたいのとはちょっと違うんだよ」


 ようやく席に着いた八十雄は一同を見渡した。皆、八十雄の次の言葉を待っている。


「この世界には勉強したくてもできない人が多すぎる。例えばここにいる混じり者たちがそうだ。金がなく時もなく、毎日を生きるだけで精一杯の奴らだ。そんな奴は世界中にごまんといる。だからよ、俺の学校はそいつらの希望にしたいんだ」

「それでも、我々混じり者に学費を払うような余裕はありませんし……」


「俺の作る学校は学費なんてもらわねぇし飯もたらふく食わせてやる。住む所も服も必要なもんは支給するつもりだ。そんな事は心配すんな。また最初の話に戻っちまうけどよ、そうなると先生だって一流どころをそろえたいよな。精神教育は俺が担当するとして、戦闘訓練の担当教官は別の人を探さなきゃならねぇ。異種族に偏見がなくて、経験豊富で、腕も一流って条件で誰か心当たりない?」

「……そりゃ、無茶な相談だよ。棟梁」


 マテバの言葉に、バルチを除く全員が頷き同意した。




「なあドット。お前さんみたいに異種族に偏見のない一流の冒険者ってしらない?」

『無理を言うなよ。前に八十雄たちと会うまで100年以上も人と会ってないんだからさ』


 定例会議では、候補者の名前すら出なかった。藁にもすがる思いでドットに通信機で話しかけてみたが心当たりはないという。超一流の魔導師であるドットならもしやと思ったのだが、その前に彼が引きこもりなのを忘れていた。


『それならさ、俺じゃなくてなんてったっけ、公国の面白いって言う伯爵がいたじゃん。そいつにも俺が作った通信機渡してたんだよね? そいつに聞いてみたら?』

「おー、モルちゃんか。確かに、モルちゃんなら情報通だし誰か知ってるかも」


 旅の途中で知り合ったモルドロー10世にも、ドットお手製の通信機が送ってある。ドットは見知らぬモルドロー10世とは話した事はないが、八十雄との会話の中に度々出てくる彼の存在は知っていたのだ。


「ドット、いいアイデアをありがとう。今夜辺り連絡とってみるよ」

『ああ。それより、近くにバルチ先生いる? うちの猫が子供産んだんで、泣き声だけでも聞かせてあげたくて』


 庭でみかんの収穫を行っていたバルチを呼んで通信機を渡したら、受話器を耳に当てた瞬間、飛び跳ねて喜んでいた。




 モルドロー10世は、公国の伯爵にして食の聖都ポルロニアの統治者だ。ひょうきんな外見に騙されやすいが、情報の取り扱いに長けた一流の政治家で、一歩も二歩も先を見通す力がある。


 混じり者たちを迎えに行った交易商人たちもモルドロー10世の紹介で力を貸してもらった。世界中に影響力を持つ人物だ。


 昼間は統治者として忙しい日々を送っているので、もっぱら通信するのは夜半と決まっていた。


 最初、手紙と一緒に通信機をモルドロー10世に贈った時、これを作ったのがドットであると知った彼は、通信機越しでも分かるほど驚いていた。


 魔導王の名はこの世界において伝説にも等しかったのだ。


 モルドロー10世は、直ぐにこの通信機の有効性に気がついた。この機械で通信網を構築すれば、居ながらにして世界中の情報を握ることができる。それは商人や統治者にとって、万金にも匹敵する力だ。


「八十雄さん、私の持っている通信機は八十雄さんにしか声が届かないのですか?」

「そうだぜ? ドットが言うには色々調整があるから最初に設定した1対1でしか話ができないってことらしいぞ」


「では、量産してもらえ……」

「おっと、モルちゃん。この話はもう終わりだ。今のところ俺はドットにこれ以上通信機を作ってもらうつもりもないし、口利きもしない。この道具の危険性は熟知しているからな。どうしても欲しかったら直接ドットに頼んでくれ」


「この世界中で魔導王に会えるのは、八十雄さんだけですよ。

 ……分かりました。この件はこれで終わりにします」


 それ以降、モルドローから八十雄に連絡を入れることは一度もなく、もっぱら八十雄が呼び出してはおいしい食べ物の話や雑談に費やすのだった。




 ドットと通信した夜、改めて八十雄はモルドロー10世を通信機で呼び出した。呼び出す時は大体同じなので、ほとんど待つこともなく応答した。


「おう、モルちゃん。今日は大丈夫かい?」

「ええ、八十雄さん。今日の仕事はすべて終わりましたので大丈夫ですよ」


 今や2人は身分を越えた友となっていた。


「そうそう、紹介してもらった交易商人だけどさ、本当に助かったよ。仕事も完璧で言うことなしだ」

「それは重畳。彼らもいい仕事を回してもらったと感謝していましたよ」


「そうかい。それなら良かった。また必要な時は力を借りるかもしれないから、よろしく言っといてくれ。

 そいでな、今日は1つお願いというか、知ってたら教えて欲しいことがあるんだけど」

「私で答えられることであれば、いいんですけど」


「前にも話したけど、ラントスに学校作ったんだよね。それで先生を探しているんだけど条件が厳しくてさ、心当たりがあれば紹介して欲しいんだよ」

「どんな条件でしょうか? 内容次第ですが」


 流石の八十雄も、これまで何回も断られてきただけに言いにくそうだ。『あー』とか『うー』とか、無駄な時間稼ぎを行っていたが、腹をくくって話し出した。


「探しているのは戦い方を教えてくれる教官だ。ただ、生徒の中には混じり者もいるのでな、異種族に偏見がなくて、経験豊富で、腕も一流じゃなきゃダメなんだけど、そんな奴に心当たりってあるかい?」

「うーん、なかなか厳しい条件ですね」


 情報通のモルドローも即答はできない。それほど条件が厳しいのだ。特に、『異種族に偏見がない』と言う条件が。


 バルチは八十雄のおかげで人間社会でも普通に生活できているが、このような事は例外中の例外なのだ。僅かに異種族の血が混じった混じり者でさえ迫害されているのに、純粋な獣人族であればどんな目に会うのかは言うまでもない。


 元々、人間族が獣人たちの故郷を一方的に襲い、反撃で攻め込んだ人間族の軍隊がことごとくを殲滅された関係なのだ。骨の髄まで染み付いた恨みつらみは、そう簡単には抜ける事はない。


「あー、やっぱり難しいよな。もう少し考えてみるよ」

「いや、八十雄さん。諦めるには早いかもしれません」


 長く考え込んでいたモルドローであったが、思い当たる人物がいるようだ。


「1人だけ条件に合致する人物がいます。元S級の冒険者で今は引退していますが、人格、能力、経験のすべてが超一流です。ただ……」

「ただ?」


「彼は冒険者を引退する際の戦いで大怪我を負っています。ですから、教官が務まるとは……」

「そんな人物がいるのか。一度会って話をしてみたいな」




 王国南部の町カドロ。白竜山脈と接するこの地は、冒険者の町と呼ばれていた。


 山から下りてくる悪性の種族や野生動物と戦い続ける冒険者は精鋭揃いと言われている。そんなカドロにも、S級の冒険者は1人しかいない。いや、いなかった。


「ふぅ、ようやく一列終わったか。さて、もうひと踏ん張りしないとな」


 鍬を右手に持ち畑仕事に精を出す男には、左肘から先と左足がなかった。


 元S級の冒険者にして、英雄と呼ばれたその男の名前はノサモ。ゴブリンハンターと呼ばれた男だ。




 読んで頂き、ありがとうございました。

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