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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第三章 飛躍編
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048_学校

 これからも、八十雄とバルチをよろしくお願いします。

 八十雄の予想を遥かに上回る混じり者たちがラントスに集まってきた。


 八十雄が旅をしていた時に直接声をかけた者は100名程度で、ラントスに戻ってからは余裕を持って200名分の住居を確保していたが、集まってきた人数は400名を超えていた。


 彼らは各地に散っていた仲間たちと連絡を取り合い、一日千秋の思いで八十雄からの連絡を待っていたのだ。


 続々と集まってくる混じり者たちに長屋はパンク寸前。とりあえず、倉庫でも何でも屋根と壁がある場所に布団を持ち込んで、家ができるまで我慢してもらった。


 大工ギルドはフル回転で長屋を建てていったが、忙しい時だからこそ八十雄は決して手を抜かないし、抜かせない。ギルド員たちも必死に喰らいついてきた。


 手持ち無沙汰(ぶさた)だった混じり者たちが大工ギルドに協力を申し出た時、彼らは喜んで迎え入れる。


【来る者は拒まず、技術は惜しまず】


 八十雄の精神は大工ギルド設立時と何ら変わらず、脈々と引き継がれていたのだ。




「しかし、あれだな。何時までも【混じり者】って呼ぶのもあれだよな」


 急ピッチで進む建設作業を眺めながら、八十雄は唐突に話し出した。今の八十雄の仕事は、作業が遅れたり手直しが必要な場所をフォローしていくことだ。


 八十雄と一緒に現場を見て回っていたマテバは、何のことだか掴みかねて、


「八十雄さん、あれってどういう意味で?」

「つまりさ、混じり者って差別用語なんだろ? だからよ、新しい呼び名を考えた方がいいんじゃないかと思ったわけよ」


「……それより、世間の認識を変えさせる方が早いんじゃないかと思いますがね。じゃないと、ここにいない混じり者たちと新たな差別が生まれるかと」

「それもそうか」


 八十雄の視線の先では、猫耳を生やした若い女性が男たちに混ざって高所作業に励んでいる。彼女だけではなく他の者たちも、どんなにきつい仕事であろうと率先しておこなっていた。混じり者たちは度胸があって身体能力も高い。士気も高く、自分の息子ほど年下の者にでも、頭を下げる素直さもあった。


 彼らは初めて自分たちにも故郷ができる喜びに満ち溢れていた。


「まあ、それは別にしてお前も大変だな。こんなに優秀なやつらが大挙してやってきたんだ。うかうかしていると足元すくわれるぞ」



 八十雄は優れた技術を持つ混じり者たちのために、彼らが必要とする道具や材料、それに参考になるのではないかと考えた物は何でも用意した。


 例えば、裁縫技術を持つ一族のためには、生糸や布に染料といった道具一式の他に、機織機まで用意した。細工品に長けた一族のために工房を作り、併せて炭焼き小屋や八十雄が彼らのために日本でよく見たデザインをまとめておいた自作のデザイン画まで用意していた。


 八十雄は自分のためには金を使わなかったが、彼らのためには金に糸目はつけなかった。それだけの価値が彼らの知識や技術にはあると認めていたからだ。


 世界中を旅していた彼らの知識は幅広く、驚くべき量だった。特に八十雄が喜んだのは、


「おぉ、じいさん、米作ってたの?」

「うむ、宜子皇国の山奥で作ってたぞ。狭い農地でも作れるし、毎年同じ場所で作っても収穫量が減らないからわしらには向いていたな。

 豊富な水が必要だが近くに山や沢もあるし、いい米を作れる条件は揃ってる」


「うぉ、本当かっ。 だったら宜子皇国で貰っておいた種籾があるんだけど、これでいけるかな?」

「どれ、ちょっくら見せてみい」


 八十雄が持ってきた種籾に手を突っ込みながら匂いをかいだり、目を凝らして確認していた老人は、


「これならええ米ができる。だが」


 老人が『おいっ』と声をかけ、若い衆に別の種籾を持ってこさせた。


「こっちの米も捨てたもんじゃないぞ? わしらの一族が代々大切に守ってきた米だ。粘りや味はこっちの方が上だ」


 結局、水田の他に畑や牧場まで作ることになった八十雄ガーデンの規模は拡大に拡大を重ねていき、今や小さい村ほどの規模になっていた。




 女神の休日を迎える頃、すべての建物が完成した。長屋は800名が暮らせるまで増やしたが、居住者の数は600名を越える今も増え続けている。


 その理由は、何かしらの理由ですぐにこれなかった混じり者たちが遅れてやってきたり、同じ人間族でも何か理由があって住むところを追われた者たちを受け入れ続けているからだ。


 基本的に人間族はラントスの中にある一時居住区で受け入れるが、忌み地生まれで同族からも拒否されたり、どうしても人間社会に馴染めない者は八十雄ガーデンで受け入れた。誰よりも住処を追われる辛さを理解している混じり者たちも、快く仲間に迎え入れた。


 だが、この話が広まると、中には身分を偽ってラントスを訪れる者まで現れたが、真実を見抜く【心眼】持ちの八十雄やバルチは誤魔化せなかった。八十雄と違いギフトを持っていないバルチがどうして嘘を見抜けるのか夕食時に聞いてみると、『んー、バルチのね、尻尾にね、ビビッとくるの』と、自分の尻尾を振りふりしながら説明していた。


 良く分からない説明だったが本人は自信満々なので、とりあえず褒めておく。バルチも自慢げな様子だった。


 入浴施設は大好評だった。混じり者たちにも受け入れられ、いつでも大盛況だ。


 まだ建物を造っていた時は、作業に従事していた作業員たちも仕事上がりにひとっ風呂浴びるのが日課になっていた。すべての作業が完了した日、『これでこの風呂ともお別れだと思うと、少し寂しいぜ』と湯船に浸かりながら呟いていた作業員の言葉が印象的だった。


 学校や孤児院も最初の予定より立派な建物になっていた。骨格は八十雄が設計したが、細かい肉付けは実際に作業を行う職人たちに一任したのだ。


 孤児院は住む人のことを考えて収納庫がたくさん造られ、極力段差がなくなるように設計されていた。学校は細かい細工や飾りが作られて、手が込んだ造りになっている。また、寄宿舎や食堂なども併設されていた。




「いいか、分からないことがあればその場で聞けよ?」


 八十雄は12~4歳の混じり者たちの子供を30人ばかり集め、完成した学校の一室で授業を行っていた。内容はこの世界の常識と呼ばれる一般知識と、人間としての生き方、つまり道徳だ。


 混じり者の知識は幅広く専門分野については誰にも負けないほどの深い知識を持っているわりにその内容に偏りがあるため、このまま【外】の世界で暮らすには問題があったのだ。


 八十雄がまだ無名の時は、バルチと一緒に旅をしているだけで色々な嫌がらせや差別を受けてきた。この世界に住む誰よりも彼らの気持ちや境遇を理解できる八十雄は、教師役にピッタリかもしれない。


「この世界は偏見と差別に溢れている。これは、バルチと一緒に旅をした俺が言うんだから間違いねぇ。お前たちも嫌なことの1つや2つ、経験しているはずだ」

「……」


 この部屋にいる少年少女の中には、目を伏せ悲しい顔をしている少女がいた。拳を血の気が失せるくらい握り締めている少年もいる。


「だが、それを覆す方法がある」

「先生、それはどうやったら?」


 おとなしそうな少年がおずおずと口を開いた。


「誰にも負けないっていう力を示せばいいんだ。ここで言う力ってのは腕力って意味じゃないぞ? 技術でも知識でも、何か1つだけでいいから『これなら誰にも負けないっ!』って奴を身につけろ」

「でも、僕にはそんな知識は……」


 八十雄の言葉でしょぼくれてしまった少年は最後まで話すことができなかった。


「だったらここで探せばいい。狭い世界で生きていたお前らが知らないのは無理もないが、お前たちの親はたいした技術を持っている。それに慢心しないで高めていけば、面白いことになるぜ?」

「先生、俺は同じ年の奴らと喧嘩しても負けた事はないし、今は俺たちの仲間も大勢いる。何かあってもやり返せばいいだろ」


 そう言ったのは、狼人族の血が混じった14歳の少年だ。体が大きく力もありそうだ。狼人族の特徴は強靭な肉体と瞬発力、それに燃え盛るような闘争心。少年の言葉に同意を示す者もいた。


「まあな、殴られそうになったら殴り返すくらいはいいが、それ以上は駄目だ。相手が3人以上いたら戦う前に逃げること。いいな?」

「……俺は誰にも負けないのに」


 このままではいつか大きな間違いを起こす。


「そこまで言うなら模擬戦でもやってみるか? そこでも勝てたら考えてもいいぞ?」


 八十雄は荒行事に出ることにした。




 校舎の前に広がる草原に場所を移した八十雄と少年たち。そこには、別の部屋でもっと小さい子たちに人間族の言葉と獣人族の言葉を教えていたバルチの姿があった。


 バルチクラスのちびっ子たちも、近くに座ってバルチおねえちゃんを応援している。


 バルチと正対した狼人族の少年ロルフは両手剣サイズの木剣を構え、バルチから5メートルほど離れて立っていた。対するバルチは、いつもの皮鎧に小型の棍棒を両手に持っている。


 ちびっ子たちは、声を揃えてバルチを応援している。この小一時間でがっちり心を掴んだようだ。やるな、バルチ。


 八十雄が担当していたクラスの少年少女たちは、応援するというよりバルチの心配をしている者が多かった。ロルフの胸程度しかないバルトが勝つとは思えないのであろう。


「いいか、勝負はお互いが納得するまで何度でもやってかまわない。ただし、相手に怪我をさせないように気をつけること。まあ、それでも怪我をした時は俺が何とかしてやる。それじゃ、双方いいな?」

「おうっ」


「はーい」

「では、始めっ!」


 八十雄の宣言と同時に踏み込み上段から剣を振り下ろすロルフであったが、その剣はバルチを捕らえる事はできなかった。


「んー、バルチ、攻撃していいのかな? じーじ、弱いものいじめは駄目だって言ってたけど」

「おー、いいぞ。試合といじめは違うから、ガツンといってやれ」


 いつの間にかロルフの側面に回りこんでいたバルチは八十雄の言葉を聞いても攻撃することに躊躇(ちゅうちょ)している。


「ふざけるなっ! お前の攻撃なんて俺には効かないっ!」


 ロルフはその体格と武器のリーチを生かして両手剣を振り回すが、バルチの体にはかすりもしない。


「それじゃ、バルチ、ちょっとだけ攻撃する」


 その瞬間、避けてばかりのバルチが始めて前に出た。突き出される剣を僅かに避けると、ロルフの懐に飛び込む。剣を手放して掴みかかってきた手を交わし、そのまま背後に回った。


 慌てて振り向いたロルフの顔に突き出されたバルチの棍棒は、額に触れるギリギリの位置で止まっていた。


「よしっ、バルチの勝ちだ」


 審判なのに完全にバルチサイドについていた八十雄の声が響く。今まで固唾を呑んで見守っていたちびっ子クラスからも歓声も上がった。




 その後、ロルフも根性を見せて何度もバルチに挑んでいったが、結局、勝つどころか一度も触れることすらできなかった。最後は立ち上がることすらできなくなってしまい、そこで八十雄は見守っていた生徒たちを先に帰らすことにした。


 まだまだ元気なバルチはちびっ子たちを連れ、一軒一軒長屋まで送り届けている。元々同じ長屋街に住んでいるので、そんなに手間もかからないのだ。


「なあロルフ。バルチは強いだろ? まだあんなにちっこいけど、バルチは滅茶苦茶強い。でもな、そんなバルチは自分が石を投げられたり嫌がらせを受けても、一度も武器を抜いたことがないんだ」

「……」


 荒い息をついているロルフは仰向けになり、無言で青空を見つめていた。


「そのバルチがな、一度だけ武器を抜いたことがある。相手が誰か分かるか? そいつはラグナス公国のラギオス・アリシールドだ。

公国の城の中で何十人もの近衛兵に囲まれ、それでも一歩も引かなかった。それも、自分のためじゃない。俺のために立ち向かったんだ」

「そんな……」


「バルチはな、知ってんだよ。どれだけ自分が強くなって相手を倒しても、そのせいで俺が傷つけられるんじゃないかってな。

 だから自分がどれだけ嫌がらせを受けても我慢するんだ。そんなバルチも大切な人のためには全力で戦う。一歩も引かずにな。勇気の奮いどころを知ってんだよ。誰にも教わってないのに、俺の娘は凄いだろう?」

「……」


「だからお前も仲間のために強くなれ。家族や同胞を何者からも守れるくらいにな。お前にならそれができる」

「……わかった。俺も仲間のために頑張ってみる」


 駆け足で戻ってきたバルチを抱き上げ、まだ寝ているロルフをその場に残して立ち去った。


 バルチはロルフを気にして何か声をかけようとしていたが、八十雄が足早にそこから離れたため声をかける事はできなかった。男にはそっとしておいて欲しい時があり、ロルフにとっては、今がその時なのを知っていたからだ。




 読んで頂き、ありがとうございました。

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