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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第三章 飛躍編
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047_混じり者

 これからも、八十雄とバルチをよろしくお願いします。

 職人たちの奮闘のせいもあり、長屋も順調に出来上がり、入浴施設も完成間近。八十雄ガーデンには大工ギルドだけではなく、さまざまなギルドから人がやってきては作業に勤(いそ)しんでいる。


 今では働く人たちや、八十雄を目標に各国から訪れる女神信者をターゲットにした露天商や弁当売り、それに土産物屋まで現れる始末。ラントス郊外はちょっとしたお祭り騒ぎになっていた。


 ギルド会館も作業に従事している職人の安全確保のために周辺警護のクエストを発行しようとしたが、八十雄は丁重にお断りした。

 元々危険な生物が少ない場所だし、職人たちの中には元冒険者も多い。何より、普段から肉体労働で汗を流している男たちばかりである。大抵の火の粉は自ら払いのける奴らばかりだ。


 更に昼からは、我らがバルチさんが狩りという名のパトロールで付近を走り回っている。ここで捕らえた獲物は、八十雄家の夕飯のおかずとなる運命である。


 進捗状態は良好。畳み掛けるように八十雄は次の手を打った。




「悪いね、忙しいのに」


 大工ギルドの応接室には、八十雄とバルチ以外に8人ほどの男女の姿があった。年齢は30代~60代で、みな日に焼けてたくましい顔つきをしている。


「モルドローさんのお願いですから、我々でできることであれば料金次第で何でもやらせて頂きますよ」


 返事をしたのは頬に傷がある40がらみの男だ。腰に武器は挿していないが、荒事に慣れ親しんでいる雰囲気があった。


「まあまあ、そんな物騒な仕事じゃねぇよ。まあこれを見てくれ」


 八十雄が差し出した8枚の紙には、人の名とその人物の特徴に率いるグループの人数、それに村や町名が書かれていた。


「あんたらは交易商人だから、地図とかは自分で持ってるだろう? その辺りは省いて説明すっぞ。

 やってもらいたい仕事は、この紙に書いてある人物の所まで迎えに行くことだ。先方に話は通してあるから、俺の手紙を渡して迎えに来たって言ってもらえりゃ大丈夫だ。

 ちょうど8枚あるから、どれに行くかはそっちで決めてくれ」


 誰がどこに行くかは直ぐに決まった。それぞれが得意とする方面があるのだろう。


「報酬は前金で300、仕事が終わったら護衛してくれた距離と人数に応じて報酬も払う。もちろん、途中でかかった経費は別で請求してくれ。渡したメモより先方の人数が増えたり減ったりしているかもしれねえが、その時は希望者全員連れてきてくれ。何らかの理由で相手がこれなくなった時やいなかった場合は、まあ、報酬は要相談で」

「条件については了解した。それでお客さんは大工ギルドまで連れてこればいいのか?」


「いや、郊外に俺たちが作っている長屋がある。そこまで連れてきてくれ。もし、誰もいなかったら俺の家まで来てくれたらいいから」

「分かった」


 話が済んだとばかりに商人たちは立ち上がり部屋を出て行く。頬に傷がある男以外誰一人口を開かないのは、緊張しているためか、ポリシーなのか、最後まで分からなかった。


「さーて、俺たちも買い物に行こうか」

「はーい」


 おー、と腕を突き上げながらバルチも椅子から飛び降りる。頭にはお気に入りの帽子を被っており、手にはウサギの毛皮でできた帽子とお揃いの手袋をつけていた。


「何を買いに行くの?」

「今度、じーじを訪ねてお客さんが一杯来るからな。その人たちが困らないように色々注文しとかないと」


「ふむー、それじゃお茶碗とか、お布団とか買わないとねー」

「おう。バルチも欲しい物があったら遠慮しないでじーじに言うんだぞ」


 その後2人はラントスの下町で日用雑貨を大量に注文していく。配達先はラントス郊外の通称八十雄ガーデン。食料の手配も併せておこない、受け入れ態勢は着々と進んでいった。




 商品の注文を終えた八十雄たちは、八十雄ガーデンを目指していた。


 現在の進捗状況は、大工ギルドの仕事は建築予定の長屋は6割がたが完成し、残りの4割もあと僅かで終わりそうだ。現在は孤児院と学校の土台作成にも着手している。入浴施設は脱衣所や垣根は完成しているので、後は沢から用水路を引いて、保温と加熱用の魔道具を備え付ければ終了だ。


 ここ最近は天候も良く至って順調だった。


「おーい、みんなお疲れ。ここらで一息入れようか」


 買い物を終え長屋街に戻ってきた八十雄が工事関係者に呼びかけた。時間は午後の3時ころ。そろそろ小腹が空いてくる時間だ。八十雄の号令でこの後の展開が読めている露天商たちも色めき立つ。


「みんな、好きな物を食ってくれ。代金は俺が払うからよ」

「待ってましたっ」


「いよ、大将」

「やっぱり、八十雄さんは太っ腹だぜ」


 現代日本の記憶を持っている八十雄にとって、仕事依頼主が差し入れをするのは当たり前の感覚だったが、この世界では違うようだ。まあ、作業現場の近くに露天が立ち並んでいる状態というのも珍しいかもしれないが。


 大工ギルド以外のすべての職人も、露天から料理や飲み物を注文しては飲み食いしていた。こんなところで差別をするほど八十雄はみみっちくないのだ。


 このような毎日の差し入れは八十雄の個人的財産から支払われていた。仕事を頑張ってくれる感謝の気持ちを寄付金で賄うのは、ちょっと違うと思っていたからだ。


 当然、バルチも露天から食べ物をもらってモシャモシャ食べている。バルチの任務は周囲をパトロールし作業員の安全を確保することで、誰にも負けないくらい全力で付近を走り回っている(遊んでいるとも言う)。建築作業を行っているメンバーからも仲間として受け入れられていた。


「バルチ、今、何個目?」

「今食べているので、2個目~」


 さすがにこの時間にお腹一杯まで食べてしまうと夕飯が食べれないので、露天で頼める料理は3個までと決めていた。もちろん、飲み物やお菓子は別である。やはりバルチには劇甘の八十雄であった。


 相変わらずバルチはどれだけ食べても太らないし、それほど大きくなるわけでもない。不思議なことである。


 他の職人たちも軽食を取りながらギルドの垣根を越えて色々話をしていた。お互いに気になる技術や作法について確認しあっているのだ。様々な職場で技を磨いてきた八十雄は、技術交流の大切さを身をもって経験していた。彼らにもこの現場で経験と腕を磨いて欲しいと思っている。


「じーじは食べないの?」


 焼き芋を頬張りながらバルチは八十雄の腕を引いた。どうやら、このメニューが3品目のようだ。


「じーじはそんなにお腹空いていないからいいや」

「そうなの? それじゃバルチは、パトロールに行って来るね」


 おやつが終わり食器を露天に返したバルチは手袋を再び身につけると、周囲に広がる手付かずの草原に向け走り出すのだった。




 更に1ヶ月が過ぎた頃、すべての長屋が完成した。内装も木工ギルドが腕を振るい、コタツや収納、食器棚など住む人のことを考えて作られている。


 他の建築物については孤児院と学校も土台部分が完成し、本格的な建築作業に入っている。こちらは建物自体がかなり大きいので、土台の部分からしっかり作りこむように八十雄が指示していた。大きい建物ほど足元を疎かにすると後が怖いのだ。


 入浴施設はあらかた完成していたが、今は八十雄の思いつきでシャワーや手洗い場などの追加施設を増設している最中だった。


 保存の利く食料品や衣類や日用雑貨などはそれぞれの長屋に運び込んである。それ以外に必要と思われる物資も、併設してある倉庫の中に大量に保管されていた。


 そうしている間に『八十雄のお客さん』第一陣が到着する。総勢23名。彼らは八十雄が用意した長屋に入っていく。


「やあ、八十雄さん。ご招待を受けてやって来ましたよ」

「おお、良く来てくれたな。とりあえず必要と思う物は揃えてあるけど足りない物があったら何でも言ってくれ」


「なんかすまないねぇ、お世話になるよ」


 そう言いながら頭を下げるこのグループの代表には狼系の耳がついていた。彼らの仲間には人間にしか見えない者もいたが、中には獣人の耳が着いていたり、尻尾が生えている者もいた。そう、彼らは先祖に獣人族が含まれている、通称【混じり者】たちだった。


 獣人族や妖精族はそのほとんどが神護の森や奥深い山間部に住んでおり、人間族と交わる機会は少ない。だが、まったくないというわけではないのだ。


 戦士として武者修行の旅に出る猫人族もいるし、人間界でも勇名をはせる狼人族の傭兵集団もいる。宜子皇国(ことここうこく)の雫香祁(たかき)一族に妖精族の血が混じっていることは有名だ。


 そんな獣人族や妖精族との間に生まれたのが【混じり者】たちだ。


 異種族の血を引いた彼らには獣耳や尻尾が生えたりと、体の一部に混ざった血の特徴が現れることがあった。そのため彼らは一般人から忌み嫌われ、混じり者という蔑称(べっしょう)で蔑(さげす)まされていた。


 彼らは普通の人間族より恵まれた身体能力を発揮することが多かったが、その外見から色々な場面で嫌がらせを受けていた。定住すれば不審火で家が焼け落ちたり、言われない罪を吹っ掛けられたりもした。無実を訴えても、誰も耳を貸してくれなかった。


 そのため彼らは腕に職を持つ技術屋集団として、世界中の村々をめぐる放浪生活を送るようになっていく。


 八十雄は世界を回っている時、積極的に彼らと交流を図りながら、いつかラントスに来ないかと誘っていたのだ。混じり者たちにとっても同じ場所で腰を据え、落ち着いた環境で子育てするのは、彼らにとっては夢ですら見ることができなかったことなのだ。


 八十雄が商人たちに手渡したメモには、混じり者たちの巡回経路といつどの辺りに集団がいるのかが書かれていた。八十雄の手紙を託された交易商人たちは混じり者を迎えに行くと、そのままラントスまで護衛して戻ってきたのだ。




 その後も続々と集まる混じり者たちは250名を越えてしまった。慌てた八十雄は長屋増設の指示を出す。しばらくは窮屈な生活を強いてしまったが、誰一人文句は言わなかった。


 食事も八十雄が約束していたように、腹一杯になるまで食べることができた。あっという間に露天商の数が倍増され、辺りは一気に賑やかになる。


 八十雄はバルチに彼らの面倒を見るようにお願いし、バルチもそれに答えた。完全な獣人であるバルチとラントスの住人たちが普通に会話している姿は、今まで不遇の目を見続けてきた彼らの目には奇跡にしか思えない光景だった。


 バルチの存在で獣人族を見慣れていたラントスの住人も、八十雄の客人である彼らを徐々にではあるが受け入れていく。


 抑制された状態でも優れた技術者と呼ばれていた彼らは、八十雄の元で本来の実力を発揮し、後に世界最強の技術者集団としての名を欲しいままにするのであった。




 読んで頂き、ありがとうございました。

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