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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第三章 飛躍編
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032_八十雄の決意 -2-

 これからも、八十雄とバルチをよろしくお願いします。

 城内へ通された八十雄とバルチは、副隊長の先導で長い廊下を歩いていた。


 警護の兵士やメイドたちは、普段見慣れない薄汚れた中年男と、白い猫人の子供に驚いた目を向けている。


「もう、喧嘩しちゃダメでしょ」

「そう言ってもさ~、さっきの奴、すげぇ生意気だったぜ。小僧の癖によぅ」


 理由は分からないが、獣人の子供に中年男性が叱られている。男は叱られながらも、喧嘩相手の文句をブチブチ言っていた。


「じーじっ! それでも喧嘩はダメなんだよ」

「……そうだな。ごめんなバルチ。じーじ、間違ってたよ」


 よろしい、とばかりに猫人の子供は大きく頷いた。


「出崎様、ラギオス様の準備が整うまでこちらの部屋でお待ち下さい。準備が整い次第、係りの者がお呼びに参りますので」


 通された部屋の中には高級そうなテーブルセットが置かれ、近くにはメイドさんも控えていた。ここまで案内してくれた副隊長は一礼し、そのまま下がっていく。部屋の中はフカフカの絨毯が敷かれていて、バルチは旅を続けて泥だらけになっているブーツで入っていいものか、躊躇ちゅうちょしているようだ。


「バルチ、荷物を降ろして休もうぜ」

「じーじ、汚れちゃうけどいいのかな?」


 八十雄は背負っていたザックを降ろし椅子に腰掛けると、まだ入り口付近に立っていたバルチに声をかけた。恐る恐る近づいてきたバルチも自分が背負っていたザックを降し、八十雄の隣りにチョコンと座る。緊張して、借りてきた猫のようにおとなしい。


 2人が席に着いたのを確認し、控えていたメイドさんがティーセットにお茶を用意し始めた。こうした経験が一度もないバルチは、可哀想なぐらい固まっている。目の前で注がれるお茶も目に入っていないようだ。


 一礼しメイドさんが部屋の隅に下がっても、八十雄がわき腹を突つくまでバルチは固まったままだった。


 メイドさんが入れてくれたお茶は、薄い赤色をしていた。ほのかに甘い桃のような香りがする。一口飲んでみたら、若干すっぱ目のフルーツティーっぽい味がした。八十雄的には好みの味だ。


 バルチの口にも合ったようで、フーフー息を吹きかけながら美味しそうに飲んでいる。だが、八十雄は知っていた。バルチの視線がテーブルの上の皿に盛られたクッキーに釘付けになっていることを。


 お茶を飲みながらチラリ、八十雄の顔を見てからチラリと、クッキーに興味津々の様子。ただ、食べていいのか分からないようで、自分からは手も出さないし、食べていいのか聞いてもこない。


(バルチ、バルチ)


 バルチに顔を寄せて、小さい声で聞いてみた。


(なに、じーじ)

(じーじ、お皿の上のクッキー食べてみたいんだけど、バルチはどうする?)


(あれ、クッキーって言うのね。バルチも食べてみたい。凄くいい匂いがするもん)

(それじゃ、じーじと一緒に食べてみようか)


 八十雄がそ知らぬ顔をして、皿から2枚のクッキーをかすめ取り、その内の1枚をバルチに手渡した。八十雄の手元に残っているのは白と黒のマーブルクッキーで、バルチに手渡したのはドライフルーツが練りこまれたクッキーだった。本来、こんなことをしないで堂々と食べればいいものを、八十雄は緊張しているバルチが可愛くて、つい遊んでしまったのだ。


 八十雄が選んだクッキーはコーヒーの香りがして非常に美味しかった。思えば、こちらの世界に来てから甘いお菓子は初めてかもしれない。当然、バルチも初めてのはずだ。


(じーじ、こんな甘いの、バルチ初めてかも)


 顔を寄せて、ヒソヒソ声で話しかけてくるバルチの息がくすぐったい。


(よし、それじゃ次は何にする? じーじは、四角い奴にしようかと思ってるんだけど)

(バルチも、同じのがいいかも)


 クスクス笑いながらも、気が付かないふりを続けてくれるメイドさんに隠れるようにして、八十雄とバルチは仲良くクッキーを食べ続けた。


 クッキーに満足し、お代わりのお茶を貰ってのんびりしている八十雄の前で、バルチはお皿から自分でクッキーを取っては口に運んでいる。その度に、八十雄の耳元でどんな風に美味しいか報告するのが愛らしい。


(じーじ、このクッキーも美味しいよ。バルチ、気に入っちゃった)

(そーか、そーか、良かったなあ。じーじはお腹一杯だから、全部食べちゃってもいいぞ)


 うんっと返事してから、お皿にそ~っと、手を伸ばすバルチ。その時、部屋の扉が控えめにノックされた。ビクッと体を大きく震わせたバルチは、目にも留まらぬすばやさで、クッキーに伸ばしていた手をテーブルの下に隠し、お澄まし顔になる。


 メイドさんが扉を開くと、パリッとしたシャツを着た若い男の人が立っていた。


「お待たせしました、出崎様。陛下がお待ちです」

「ほいよ」


 八十雄がザックを肩に担ごうとしたら、荷物はこの部屋のメイドさんが預かってくれると申し出た。その言葉に甘え、会釈しながら部屋を出ようとしたら、絨毯に膝をついたメイドさんがバルチの口の周りについていたクッキーの欠片をハンカチで取ってくれた。


「ありがと……」

「はい」


 バルチも恥ずかしかったのか、消えるような声でお礼を言うとメイドさんは優しそうに笑いながら、待機している部屋の扉が閉まるまで手を振ってくれた。




(じーじ、じーじ。バルチがクッキー食べてたの、お姉ちゃんに見つかってたかな?)


 案内人の後に続いて歩いていると、バルチがヒソヒソと話しかけてくきた。


(どうかなー、ばれていたかも知れないぞー)

(どうしよう。バルチ、たくさん食べちゃったかも。だって、美味しかったんだもん)


 うーんと、難しい顔をして考えているバルチの頭を撫でてあげた。相変わらず艶々として素晴らしい手触りだ。


(最後にお姉さんも笑って手を振ってくれただろう? 大丈夫だよ)

(それじゃバルチ、後で荷物取りに行く時に、クッキーのお礼言わないとね)


 八十雄とバルチが小声で相談している間にラギオスが待つ部屋に着いたようだ。扉の高さは約4メートルほど。完全武装の上、槍を持った衛兵が周囲を固めている。


「こちらが謁見の間でございます。少々、お待ち下さい」


 案内人がノックの後にわずかに扉を開け、中の者と話しをしている。八十雄的には、このまどろっこしい手続きにいい加減うんざりしてきた。


 再び姿を現した案内人は八十雄に一礼し、歩いて来た通路を戻っていった。


 残された八十雄たちの前で両開きの扉がゆっくりと開いていく。部屋の中は真っ赤な絨毯が部屋の奥に見える玉座まで続いていた。


「出崎八十雄様。どうぞ、お進みください」


 衛兵にうながされ、八十雄はバルチと手をつないだまま部屋の中に足を踏み入れようとしたが、


「お待ち下さい。謁見の間に獣人は入れません。ここから先は出崎様1人でお進み下さい」


 この一言で、八十雄は切れた。




 読んで頂き、ありがとうございました。

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