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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第二章 放浪編
26/123

021_夕食会

これからも、よろしくお願いします。

 祭りの翌日。


 日が昇る前に起きだした八十雄は、エンヤ婆が送ってくれた野菜の仕分けを開始した。昨日は日没後、直ぐに布団に潜り込んだので、早起きしても苦にならなかった。


 ジャガイモやさつま芋、ニンジン、たまねぎなどの根菜類に、キャベツやほうれん草などの葉野菜、八十雄が好きなトマトやかぼちゃも入っていた。大本命の小麦も何種類か小分けされている。


 農業経験なんて辺境の村でお手伝い程度にしかなかったが、そんな八十雄にも分かるように、丁寧な指導書まで付いていた。


「ありがてぇ、ありがてぇ」


 自然と手をあわせ、感謝の言葉が出た。これほどの物を送ってもらって、それに見合うような贈り物を自分ができたとは思えなかったが、来年は必ず、今年の分も合わせて借りを返そう。


 贈り物を確認している間にもバルチが起きてくる気配はなかった。いつものように、寝具の中で毛玉となって熟睡している。


 八十雄はバルチの枕元にしゃがみ込み、ポンポンと体を叩いた。


「バルチ、バルチ。じーじ、これから畑に行ってくるからおとなしく寝ているんだよ」

「……うん。バルチ、まだねてりゅ」


 再び丸くなり寝息を立てるバルチを確認し、野菜の詰まった麻袋を担ぎ上げると、八十雄は静かにテントを出た。




 集落の外れに作った畑に、野菜と小麦を分けて植えていく。何を何処に植えたか忘れないように名札も一緒に作りながら作業を進めた。事前に作っておいた水路から畑に水を撒き、昨夜から湯が入ったままになっていた露天風呂もついでに洗っておいた。


 体にかいた汗を濡れた布でふき取りながら、作業を終えた八十雄はテントに戻るのであった。




「ただいま~」

「……っ!?」


 入り口の布をくりながらテントの中に入った瞬間、凄い勢いでバルチが飛びついてきた。何だか良く分からないが、とりあえず受け止める。


「おっと、どうしたんだい?」

「起きたら、じーじがいなかった……」


 顔を擦り付けながら必死に抱きつくバルチの背中をさすりながら、持っていた麻袋を床に置く。


「そうか、それは悪かったなぁ。バルチにも声をかけたんだけど、寝ぼけてたから覚えてないのかな」

「バルチ、じーじがいなくてビックリした」


「ごめん、ごめん。悪いじーじを許してくれる?」

「うん……。バルチをひとりにしなゃいでね」


「よし分かった。バルチとじーじの約束だ。その代わり、バルチもじーじと一緒に早起きできるかな?」

「うん。バルチも、がんばりゅ」


 この日より早起きが苦手なバルチも八十雄と一緒に起きるようになった。それ以降、どれだけ朝早くても、一度も泣き言を漏らすことはなかった。


 後にバルチが成人し、八十雄が別々の場所で寝るように言った時も、「一緒に起きるって約束した」と一歩も引かず、結局、同じ寝具で寝ることになり八十雄を悩ませるのだが、それはまた別の話である。


 必死にくっ付き、二度と離れないぞと、力を込めるバルチを担ぎ上げ肩車する。


「よーし、今日は新作メニューだ。期待してろよ~」

「うんっ」


 新作メニューが効いたのか、ちょっとは機嫌が直ったようで八十雄もホッとする。


 取り出したのは水に漬けてアク抜きしたナトの実。これをいつもの様に粉にして、団子を作っていく。普段であればそのまま茹でて完成なのだが、今日はここからひと手間かけるのだ。


 昨夜のうちに捕まえておいたザリとイノシシ肉、それにサケマスの切り身。それぞれをみじん切りにし、歯応えが残る程度まで細かく叩いて味付けした後、ナトの団子で包んでいく。コツは具がはみ出さないように、ある程度厚めの皮にすることだ。


 ……今、頭にバルチのよだれが落ちた気がするが、あえて気が付かないふりをする。


 鍋に水を張って火にかけ沸騰したら、鍋の上に手製の蒸し器を置いた。初めてみる道具に、好奇心の塊であるバルチが食いつく。肩車なのに落ちるか心配になるほど身を乗り出して、興味深そうに湯気の上がる蒸し器を見つめていた。


「もうちょっとで完成するからな~」

「うん」


 返事もそぞろに蒸し器から目を離さないバルチ。本来であれば、八十雄にとっても初めての料理なだけに蒸しあがるタイミングの見極めが難しいはずだが、【直感】のギフトは、いつも良い仕事をしてくれる。


「よーし、完成だ」

「お~」


 ベストのタイミングで蒸し上げたナトの団子に、八十雄とバルチは歓声を上げた。


 厚めの皮はモチモチで、透明な皮からうっすらと具が透けて見える。特にザリ入りの蒸しナトは、赤いザリの身がとても美味しそうで食欲をそそる。


「さあ朝ごはんにしよう」

「……」


 もはや返事もできないバルチは、八十雄の頭を掴む手にも力が入りちょっと痛い。八十雄の頭はとっくによだれでべちょべちょだ。


 テーブルに移動してバルチを降ろし、箸を握らせてあげた。


「とっても熱いから、ふーふーしてから食べるんだよ。それじゃ、頂きます」

「うんっ。いただきましゅ」


 素直なバルチは小さい口でふーふーした後、ぱくっと噛み付いた。最初に選んだのは赤く具が透けるザリ入りの奴だった。ちょっと熱かったが口には合ったようで、尻尾がご機嫌に揺れている。


 八十雄も1つ箸に取りかじり付いた。具はイノシシ肉で、あふれる肉汁がたまらない。本来であればたまねぎも一緒に混ぜ込みたいところだが、今のところは我慢我慢。来年以降、畑で沢山採れたら試してみよう。アリスたち猫人族はほとんど野菜を食べないので、このままでも良いだろうし。


「さて、次はザリでも……」

「ん~?」


 沢山用意していたはずのザリ入り蒸しナトは、すでに1つも残っていなかった。初めて食べたザリ入りナトが気に入ったようで、バルチがすべて食べつくしていたのだ。


 口をリスのように膨らませたバルチに、思わず笑みがこぼれる。




 食後に一休みした後は、日課であるナトの実拾いや魚釣りに出かけノルマを達成すると、早めにテントに戻った。ここで一度猫人姉妹と別れ、夕食の準備に入る。今朝から一度も離れないバルチを肩車に担ぎ上げ、よしっ、と一発気合を込めた。


「じーじ、ちゅるちゅるちゅくるの?」

「そうだぞー。夜のご飯はちゅるちゅるって約束したもんな~」


 嬉しさの余り大暴れするバルチを乗っけたまま、小麦粉を練り始める。練った麺を切り茹でている間に、蒸しナトの準備も開始する。


『八十雄、来たぞ』


 テントの入り口からアリスの声が聞こえてきた。お客さんの到着だ。


「バルチ、猫のお姉さんとお母さんが来たから、相手しててくれる? じーじは料理を頑張るから」

「はーい」


 肩から下ろされたバルチがお客さんの相手をしてくれる間に、本日の新作メニューに取り掛かるのであった。




 30分後。


『お待たせ~。料理の完成だよ』


 楽しく遊んでいる4人の元に八十雄がどんぶりを持って現れた。バルチもお客様に箸を配っている。アリスたちは箸を使ったことがないようで、不思議そうな顔をしていた。


 八十雄が配っているのは日本人なら誰もが知っている天ぷらうどんだ。ザリに衣を着けて油で揚げたお馴染みの料理。油は動物性の脂肪を原料に作ったラードに、猫人族の間で整髪料として使われていた、ツバキに似た木の実を絞って作った植物性の油を混ぜて使用している。ラードは大量にあるのだが、それだけだとしつこく感じるので貴重なツバキ風油を合わせてみたのだ。


 使い慣れない箸と見慣れぬ料理に躊躇ちゅうちょする大人を尻目に、愛用の箸を武器に果敢に挑んでいくバルチ。初見の天ぷらに大きくかぶりつくと、自慢の尻尾を大きく揺らし、はぐはぐと美味しそうに食べ始めた。それを見て、アリスたちも見よう見真似で箸を動かし始める。料理の感想を言うことはないが、ご機嫌に揺れる尻尾が彼女達の気持ちを雄弁に語っていた。


 そう、猫人たちにとって【尻尾は口ほどにものを言う】のだ。


 天ぷらうどんが受け入れられたのを確認し次に八十雄が用意したのは、三種の具入り蒸しナトと手作りシュウマイだ。使える野菜が少ないので、餃子よりシュウマイの方が良いと判断した。


 日本にいた時から値段もお手ごろな餃子とシュウマイは八十雄の好物でよく食べていた。時には自ら腕をふるい、手作りした餃子やシュウマイを孤児たちによくご馳走したものだ。


 ラントス時代、肉は高級品で買う気がしなかった。貧乏性で高い金を出して肉を食べるくらいなら、安くて新鮮な野菜を腹一杯食べた方が八十雄の性に合った。


 だが、ここではいくらでも肉が手に入る。八十雄が捕らえたサケマスやザリを受け取った猫人たちが、狩りで捕らえた獲物をお裾分けに来るのだ。毎日のように大量に届けられる肉を使って、今回使用したラードやシュウマイも作られている。


 次から次へと蒸し上がる追加の料理が面白いように消えていくのに安心し、八十雄も自分の天ぷらうどんに箸をつけた。


「じーじのちゅるちゅる、おいしーね」

「そうか、良かったなぁ。また作ってやるからな」


 八十雄の言葉を聞いて、バルチだけじゃなくアリスたち親子の尻尾も嬉しそうに揺れていた。




読んで頂き、ありがとうございました。


2015 1/23 下記の通り修正を実施。

  これから畑に行って来るから → これから畑に行ってくるから

  良く → よく(1箇所直してあります)

  様に → ように(2箇所直してあります)

  取る → 採る(1箇所直してあります)

  それはまた別の話しである → それはまた別の話である

  好奇心の塊であるバルチが食つく → 好奇心の塊であるバルチが食いつく

  いつも良い仕事をしてくれる。。 → いつも良い仕事をしてくれる。

  一緒に混ぜ込みたい所だが → 一緒に混ぜ込みたい所だが

  

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