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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第二章 放浪編
22/123

017_里での生活

ここからしばらく猫人族の集落での生活が始まります。

何故か、1/13 からアクセス数が3倍くらいに一気に増えました。

何があったのでしょうか……。

 獣人族の生活は非常に規則正しいものだった。


 朝日が昇ると同時に起床し、それぞれの仕事に取り掛かる。


 男は獣を狙い森の奥に、女はナトの実や山菜を拾い集める。その間、子供は自由に遊びまわっていた。


 午後は獲物の処理やマキの確保、掃除などの身の回りの細々した作業を行い、日の入りと同時にテントに戻りそれぞれ休む。


 寝ぼすけだったバルチは朝が相当きついようで、起きぬけはいつもフラフラしていた。朝ごはんを食べている途中で寝落ちしそうになって、あわてて支えたことも一度や二度ではない。


 集落には見張りや柵などの防衛システムは存在しなかったが、害獣が近づくとたちどころに退治され食卓に上ってしまう。危険はまったく感じなかった。


 八十雄は自分とバルチの食い扶持さえ稼げば、後は何をしても良いらしい。ナトの実は幾らでも森に転がっていたし、生きていくだけであればラントスの頃より簡単だ。それほど森の恵みは豊かだった。


 バルチはまだ2歳にもなっていないので【戦士の儀式】とやらはとりあえず考えないことにした。ただでさえ薄くなってきた髪の毛が心配しすぎて抜けないか、そちらの方が八十雄的には重要だった。


 朝食を終え、未だにぼうっとしているバルチの体にブラッシングをかけていく。一通り終わりテントの入り口を開くと、今日も6人の獣人さん(みんな女性)が立っていた。彼女達(トリス、メリスの姉妹含む)はブラッシングの予約者と思われるが、自分からは絶対に口にしない。


 八十雄も獣人たちの中での生活で、次第に彼らの性格が掴めてきた。


 バルチにも言える事だが、猫人族は非常に好奇心が強い。見慣れぬ食べ物や目新しい物に興味津々で簡単に釣られる。大人になると関心がないふりを装うこともできるが、子供はひょいひょいついてくる。幾らでも誘拐し放題である。


 また彼らはとても仲間思いだ。他人の子供であっても普通に面倒を見るし、危険なことや悪さをした子供には、容赦なく拳骨を落とした。そこに、実子と他人の子供の垣根はない。また病気や怪我で動けない者は、里のみんなで世話をした。仲間は決して見捨てないのだ。


 性格は真面目で凛々しくプライドが高い。そして、とても恥ずかしがり屋だ。また、他人にお願いすることを、何より苦手としていた。


 今、テントの前にいる獣人さんも本当はブラッシングをして欲しいのだが、自分からは絶対に口に出さないのだ。


 里に来たばかりの頃に、八十雄は一度失敗している。彼女らに対し『ブラッシング、してやろっか?』と言ってしまったのだ。当然、彼女たちは『ブラッシングをして貰いたくてここにいるのではない』と言い残し、全員が立ち去ってしまった。


 それからは『ブラッシングの練習をしたいから付き合ってくれ』と言うようにしている。そう言われれば彼女たちも『しょうがない。付き合ってやるか』と、尻尾を振りふりテントの中に入ってくるのだ。分かりやすい。


 予約者の数は、トリスとメトスの2人から徐々に増えていき、今は6人で固定している。中でも、姉妹2人は八十雄たちの世話役でもあり、毎日ブラッシングを受けていた。それ以外の4名は女性の獣人さんの中でローテーションで回しているようだった。


 八十雄にとっても、ブラッシングの時間は貴重な情報収集の時間だ。神護の森に住んでいる他の種族や別の場所に住んでいる猫人族の集落(森の中に数十と点在しているらしい)のこと、独自の風習や危険な生物についても、色々と教えて貰っていたのだ。


 バルチのことも彼女たちは可愛がってくれた。言葉は通じないが、バルチにとっても獣人さんたちにとっても、あんまり関係ないようだ。中には自分の子供を連れてきて一緒に遊ばせている人もいた。今はブラッシングが終わったメリスに抱っこされているが、半分夢の中で頭が揺れている。


『なあ、ヤツオ。バルチは何故こんなに小さいのだ。ちゃんと飯は喰わせているのだろうな』


 トリスがブラッシングを受けながら話しかけてきた。


『もちろん。こんなにちっさいのに驚くほど食うぞ。お前もここに来る間に見ただろう? もうすぐ2歳になるが、小さすぎるか?』

『……2歳になっていないだと? いい加減なことを言うなよ?』


『本当だ。初めて会った時はまだ目も開いていなかった。間違いなく、2歳にはなっていないはずだ』

『良いかヤツオ、良く聞け。集落の子供が歩き出すのは2歳を過ぎた頃だ。その頃はまだ真っ直ぐ歩くこともできず直ぐ転ぶ。

 バルチのようにしっかり歩けるようになるのは、3歳を過ぎた子供たちだけだ』


 当のバルチは寝ぼけてメトスの首筋に顔を押し付けている。甘えたい時や、眠い時の癖だ。メトスも悪い気がしないのだろう。するがままに任せている。


『そう言われると困るが、うちの子は6ヶ月目には伝え歩きを覚えて家の中を歩き始めていたし、言葉も話せるようになっていた。まあ、人間の言葉だけどな。

 普通に立って歩き始めたのは1歳になったばかりの頃だ。最近では力も強くなってくっついたらなかなか離れないんだ』

『……そうか。厳しい環境で育つナシュ種だからなのかもしれないな。2歳と考えれば、体もそう小さいわけではない』


 ブラッシングを終えて、トリスが他の獣人さんと交代するのを横目にバルチを見れば、寝ぼけて涎をたらす我が家の姫を、必死に引き剥がそうと苦戦するメトスの姿があった。




 ブラッシングが終われば、次に始めるのは食材集め。森にナトの実を集めに行くのだ。


「ではバルチ隊員、これから探検に行きますが準備は良いかな?」

「は~い」


 森に行くのが大好きなバルチは、楽しみで仕方がない様子だ。最近では自分で服や靴もテキパキ着替えるようになり、我が子の成長に目頭が熱くなる。


 履いているブーツはトリスたち姉妹がプレゼントしてくれた。八十雄が礼を言うと『子供の世話をするのは当たり前のことだ』と、大したことがないように言っていたが、彼女たちの尻尾はご機嫌に揺れていた。今では猫人族の足にピッタリ合うこのブーツが、何よりお気の入りになっているバルチは、何処に行くにも愛用していた。


 ナトの実が取れるのは猫人族の集落から歩いて15分程度の場所にある。道中は、世話役の2人が露払いをしてくれるので非常に楽な行程だ。ただ、ナトの木が生える一帯はイノシシに似た獣が良く出るので、気をつけないといけない。


 過去にも何度か出現したが、すべてトリスたち姉妹が仕留めて翌日の献立になった。彼女たちは一流の戦士であり、狩人なのである。


 現場に着くと誰が一番ナトの実をたくさん集められるか競争するのだ。トリスたち姉妹も周囲の警戒を行いながら、勝負に参加する。彼女たちが言うには、これも戦士になるための訓練だと言うのだ。


 小一時間、必死になって拾い集めたナトの実を誰が一番集めたか見せ合い一喜一憂した後に、一度集落に戻る。競争で誰よりも負けた時のバルチはプリプリと怒りながら、誰かに勝った時はニコニコと笑いながら帰るのだ。


 そこでナトの実を一度置き、次に出かけるのは湖だ。


 歩いて5分もかからない場所に、東京ドーム○○個分という馬鹿でかい湖があった。この場所は、ブラッシングをかけている間に獣人さんたちから教えて貰った。


 バルチはお風呂が大好きで濡れることを嫌がらないが、神護の森の猫人族は体の一部ですら水に濡れるのを極端に嫌がる。そのため、底が深く、岸の近くに魚もいない湖に、大した意味を見出みいだしていなかった。


 近くには跨いで渡れる程度の沢しかなく、掌より大きい魚は獲れない。それなりの魚を取ろうと思ったら、八十雄たちが野営を行った沢まで片道一日かけて行かなくてはならない。


 そこで八十雄は、魚獲りを自分の仕事にしようと考えた。


 旅に出る前、八十雄はラントスの町で釣り針をたくさん作っておいた。魚が好きなバルチにいつでも新鮮な魚を食べさせてあげたいと考えていたからだ。糸も予備を含めて多く用意していたのが幸いした。


 まあ、魚が獲れなかったとしてもカニや貝位は取れるはずだし、バルチに水遊びをさせてあげるのも悪くない。


 自作した竹竿に、近くの石をひっくり返して見つけた虫をつけ、適当に湖に放り込んだ。猫族姉妹も水棲の危険な生物がいないか用心しているようだが、決して近くには寄ってこない。


「ちゅれるかな~、ちゅれるかな~」


 バルチも一緒に竹竿を握り、自作の歌をご機嫌に歌っている。頭を振りふり、尻尾も振りふり、絶好調。


 竿を投げて5分もしないうちに当たりがきた。ぐいっぐいっと力強く竿を引かれ、バルチも尻尾をピンと立てる。


 いきなりの大物の予感に手に汗を握る。本当は、自分1人でじっくりと勝負したいところだが、興奮した我が家の姫は自分で釣り上げる気が満々だ。ここで逃がしたとしても1つの勉強。竿を掴んで離さないバルチを股座に抱え、慎重に魚を引き寄せる。


 ここで意外な才能をバルチは見せた。2歳未満とは思えない力強さで竿を立てたり倒したりと微妙な竿捌きを見せた。耳と鼻をしきりに動かし、何かを感じ取っているようだ。


 5分にも及ぶ戦いは、八十雄・バルチ連合軍の勝利に終わった。その報酬は50センチメートルを超える大きな魚。鮭のような鮎のような外見で、その身は丸々と太り旨そうだ。いつの間にか猫人姉妹も背後に張り付くようにして、涎をこぼさんばかり。


 バルチが何か期待する目でじっと見つめてくる。その視線にあがらう術を持たない八十雄は、さっさと白旗を挙げた。


『あ~、もう直ぐ飯の時間だし、この魚を焼いてくれる人がいれば助かるんだけどなぁ』

『……しょうがない。私たちが焼いてやろう』


 そう言いながら、嬉しそうに魚を受け取る猫人姉妹。


「バルチ、お姉ちゃんたちが魚を焼いてくれるから行っておいで。じーじはもう少し釣ってるから」

「はーい」


 勢い良くトリスたちを追いかけていくバルチに一抹の寂しさを感じながらも八十雄は釣りを続け、更に7匹の釣果を上げた。食べ切れなかった魚は内臓を取り除き、八十雄お得意の燻製風に仕上げた。一匹分を自分達用に確保したら、残りは食べきれないからとトリスに押し付ける。後は彼女たちが、みんなに上手く分けるだろう。




 テントに帰ってからは、午前中に採取したナトの実の処理を行った。皮を剥き、粉にしてから練るのがこの集落での作法だが、八十雄は皮を剥いた時点で、一晩、水にさらしてアク抜きするようにしている。そうすると茹で上がった時に感じるわずかな苦味がなくなって、バルチが喜ぶのだ。


 八十雄はアク抜きしておいたナトの実を使って団子を作ると、今日獲ったばかりの【サケマス】と命名した魚が抱えていた卵を、たっぷりと載せてみた。見た目や食感、味もイクラそっくりで大満足。バルチもお代わりが止まらない。


 食事の後かたずけや着替えも終わり後は寝るだけと言うその瞬間、唐突に八十雄にこの旅最大の危機が訪れた。


「ねぇ、じーじ。バルチ、ちゅるちゅるがたべたいの」

「え、ちゅるちゅる!?」

「うんっ! ちゅるちゅる~♪」


 ちゅるちゅる、ちゅるちゅる~と、オリジナルソングを歌いながら踊り続けるバルチとは対照的に、八十雄の顔は蒼白だった。


 何故なら、うどんの材料である小麦はとっくに底をついており、なすすべが無かったからである。




読んで頂き、ありがとうございました。


2015 1/23 下記の通り修正を実施

  生きて行くだけであれば → 生きていくだけであれば

  横目にバルチ見れば → 横目にバルチを見れば

  取る → 獲る(4箇所直してあります)

  勝負したい所だが → 勝負したいところだが

  50センチを越える → 50センチメートルを超える

  さっさと白旗を上げた → さっさと白旗を挙げた

  

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