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新世界での学校経営  作者: MuiMui
第二章 放浪編
21/123

016_獣人の里

 メッセージを送ってくださった方、評価くださった方、また、つたない文章ですが目を通してくださる皆様に感謝です。

 これからもよろしくお願いします。

 獣人たちと合流してから歩くこと2日。ようやく獣人族の里にたどり着いた。


 緑深い神護の森にあって、その辺りだけ生えている木の数が少なく、光が差し込んでいる。所々残っている木の根元には、毛皮で作られた三角形のテントが点在していた。上部から煙が出ているから、中で煮炊きもできるようだ。


 この2日で大分落ち着いたバルチがしきりに耳と鼻を動かし、キョロキョロと様子を窺っている。


 同行した獣人たちは、ほとんど会話らしい会話をしなかった。八十雄は【言語能力】のギフトを持ってはいたが、無条件で自由に話せるわけではない。まずは相手がどのような言語を使用しているのか理解しないと使えないのだ。


 バルチも保護した当初は『う~』とか、『な~』とか、唸り声のような言葉しか話せなかった。八十雄も意思の疎通は【できそうだ】と感じていなかったら、言葉を教えるのは諦めていたかもしれない。


 八十雄たちは獣人のリーダーに付いて来るように指示され、テントの中でも一際大きい1つに案内された。テントの中は明り取り窓から光が差し込み、思ったよりも明るかった。床にフワフワモコモコの毛皮が敷かれ、手触りが気持ちが良い。部屋の中心では火も炊かれ、思ったよりも快適だった。


 1人きりであればゴロゴロと転げまわりたい所だがそうも行かない。テントの中には年老いた獣人が座っていたのだ。


 長く伸びた眉毛がひさしのように目まで伸びていて、皺だらけの顔は男だか女だか分からないほどだ。


 八十雄は胡坐をかいて座り、バルチを股の間に座らせた。目に入る物が珍しいのか、バルチは落ち着きなくキョロキョロしている。


 老獣人の脇までリーダー進み、ボソボソと何か報告していた。声が小さく何を話しているのかよく分からないが、いきなり命までは取られないだろう。ここまで来て心配しても仕方がない。


 報告が終わり、長老がボソボソ話し始めたが、あまりに声が小さすぎて聞き取れない。もう少し近づいてみようか考えていたら、リーダーがはっきりと聞き取れる声で話し始めた。


『理解できるか分からないが、一応言っておく。

 一族を代表して、同族の幼子を保護してくれた礼を言おう。感謝する。』


 リーダーは握り締めた左手を右胸に当て、頭を下げた。初めてはっきりと獣人が話すのを聞いたが、八十雄の【言語能力】は自分の仕事を十分果たしていた。


『だが、我らの掟として、戦士でない者を精霊の森から出すわけには行かない。お前は1人で森から去れ』


 それだけ言うと、リーダーはバルチに手を伸ばしたが、八十雄はやんわりと、しかし、断固とした決意を込めて拒否した。


『やはり、言葉が通じないか。危害を与えるつもりはないのだがな』

『いやぁ、はっきりばっちり通じてるぜ。その上ではっきりと言わせて貰うが、家族は誰にも渡さない。本人がそう望まない限りな』


『なに?』

『あんたらの言う掟は分かった。譲れないモンがあるってこともな。

 でもそれはあんたらだけじゃねぇ、俺にも譲れねぇもんがある。

 バルチが戦士になるまで森から出さないって言うんなら、俺もそれまでここに残るし、この子の面倒は俺が見る。それが親の責任ってもんだろ』


『……』

『お前の負けじゃ。ゴトス』

『しかし、長老』


 置物になっていた老獣人が口を開いた。声からして男性のようだ。これだけちゃんと話せるなら、さっきのモゴモゴしていたのは何だったのか、もしかしてボケかけているのかもしれないと、八十雄は失礼なことを考えていた。


『その幼子は、ナシュ種の血筋じゃ。目と毛の色に特徴がよう出てる。我らはダリオ種。目も毛も濃い茶色か黒なのが特徴じゃ』

『ナシュ種とダリオ種ってのは、どう違うんだい?』


『ふむ。昔、ワシらの祖先は草原で暮らしていたが、人間種が平原に進出して来た事により、森にのがれ暮らし始めたのがダリオ種の祖先で、北の雪原にのがれ暮らし始めたのがナシュ種の祖先と言われとる。

 ナシュ族の体毛が白や青色なのは、雪原で暮らすのに適応するためじゃ。

 だが、今から12年ほど前にナシュ族は絶滅したものと言われていた』

『それはどうして……』


『世界規模の飢饉が起こったのじゃ。人間種ですら、飢え死にした者が出たほどのな。

 元々、食べ物が少なかった雪原暮らしのナシュ族はひとたまりもなかったはずじゃ。

 そのナシュ族の幼子が生き残こっとったのも驚いとるが、それよりも不思議なのは、何故、人間種のお主と一緒にいるのか。なぜ、お前は家族と呼ぶのかということじゃ』

『それは……』


 八十雄は今までのことを説明した。


 バルチはラントス郊外の森で保護したこと。

 母親らしき猫人族は亡くなっており、自分が親代わりになって育ててきたこと。

 旅の途中、獣人族に対する偏見を肌で感じたこと。

 だが、辺境の村では可愛がってもらったこと。


『俺は血のつながりより、心のつながりの方が大事だと思ってる。種族や外見が違うとか、俺はこれっぽっちも気にしない』

『なるほどのう』


 八十雄はバルチの母親が身につけていた指輪を長老に見せた。バルチが大きくなった時に渡そうと大事に取っておいた物だ。


『表面のこの模様は、伝統的な猫人族特有のもの。これは、まず間違いなくナシュ種の物じゃ』


 丁寧に指輪を返した長老は、小さく1つ頷いた。


『ナシュ種の幼子が親と認めるならば、もはや貴様はわが同族。好きなだけ村にいるがよい。

 テントを1つ用意するからそこで暮らせ』


 それだけ話すと、長老はモゴモゴと口を動かし、それっきり動かなくなった。どうやら話しは終ったと言うことのようだ。


『……テントに案内する』


 ゴトスと呼ばれた猫人に促されテントを出ると、大勢の猫人族が様子を窺っていた。中には4、5歳程度の子供も含まれている。長老が言っていたように、そこにいた全員の毛は、黒や茶色ばかりだった。


 バルチの白系の体と青い色の瞳はとても目立っていた。何となく、八十雄は勝ったような気がして、バルチを抱えたまま、その場でくるくると回ってみると、猫人族の視線と尻尾が同じ方向に一斉に動いていく。バルチも大勢の猫人族に驚いたのか、目を丸くして驚いている。


『みな、よく聞け。この2人は我らが同胞として迎え入れた。いいな』


 ゴトスの宣言に反対意見は出なかった。長老の話を盗み聞いていたのか、族長の権限が強いのか。統率の取れた部族のようだ。


 その後は特にトラブルもなく、八十雄たちのテントに案内された。テントはサイズが少し小さいだけで、長老の所と同じ造りだった。八十雄は担いでいた荷物を降ろすと、鎧を外し楽になった。バルチも旅装束から普段着に着替えさせてやる。


「いいかい、バルチよく聞くんだよ」

「ん~?」


 バルチは幼いが、とても賢い。まあ、親の欲目の可能性もあるが。


「しばらくここで暮らすことになったけど、わかるかな?」

「じーじと一緒?」


「一緒だぞ~。じーじがバルチと離れるわけないだろ~」

「じーじと一緒ならいいよ~」

「そっかー、じーじと一緒が良いのかー」


 あまりの可愛らしさに耐えられなくなった八十雄は、バルチを抱えたままゴロゴロと転がった。バルチも嬉しそうに、キャッキャッと笑っている。


『……飯を持ってきたが、一体、何をしている?』


 入って来た獣人は里まで案内してくれた女性の猫人たちだった。床から見上げる八十雄は、ハハッとかすれた笑いを上げることしかできなかったのである。




 猫人たちはそれぞれトリスとメトスと名乗った。2人は姉妹でトリスが1つ上の16歳とのこと。確かに顔はとても似ていたし、毛の模様もそっくりだ。


 彼女達は短い旅の間にバルチとすっかり打ち解けあい、今では一緒にご飯も食べられるくらい仲良くになっていた。ゴトスも気を使ってくれたのだろう。八十雄たちが村にいる間の世話役を彼女達に命じてくれたそうだ。


『口に合うか分からんが、私達が普段食べている物を持ってきた』


 そう言ってトリスが渡してきたのは、茶色い団子と何かの干し肉、それに甘い匂いのする液体の入ったコップだ。


『お、ありがとう』

『なに、気にするな。これから一緒に暮らすんだ。その代わり、明日からはお前には仕事をしてもらうぞ?』

『ああ、色々教えてくれ』


 茶色い団子はモチモチとした感触で香ばしい匂いがした。バルチもクンクンと匂いをかいでいる。可愛い。


 なにが素材なのかさっぱり分からなかったが、男は度胸。ガブリと噛み付いた。


 手触り同様、モチモチとしていて食感が良い。味は少しの苦味があるもの、香ばしく食が進む。


「ほ~、これは美味いな。バルチも食べてごらん」

「うん」


 恐る恐る齧りついていたバルチだが、とても気に入ったようで口一杯に詰め込んで食べ始めた。


『凄く美味しいよ。これ、どうやって作ってんだ?』

『森で採れる【ナトの実】を割り、取り出した中身を細かく砕きながら練る。それを団子状にまとめて茹でた物だ。

 こちらも、お前に聞きたいことがある』


『俺は八十雄だ。何が聞きたい?』

『ヤツオか。お前たちがちゅるちゅると呼んでいた物はどうやって作るのだ?』


『あれはな、人間が栽培している【小麦】を細かく砕いて水と塩を入れて練った物をお湯で茹でて作る料理だ。

 ナトの団子と作り方は似ているけど、味が余りしないから味のある汁と一緒に食べるんだ。

 ただ、小麦は自然にはなかなか生えていないから、ここで作るのは難しいな』

『……なるほどな』


 トリスとメトスの尻尾が、ポテッと垂れ落ちた。顔は平然を装っているが、これはネタじゃないのかと心配になるほど分かりやすい。


『……まあ、森の外の村で分けてもらった小麦がまだあるから、2回くらいならできると思うけど』

『そうか。しばらく私たちがこの村について教えてやることになったから、明日の朝、迎えに来てやろう』


 垂れていた尻尾がピンと天井を指した。ナトの団子を食べ終わり、干し肉に齧りついていたバルチが尻尾に飛び掛りそうになったので、あわてて抱え込む。


『そろそろ我々は行くぞ。何か困ったことがあれば、誰にでも良いから言え』

『あっと、俺も聞きたかったことがあるんだが、良いか?』


『何だ、ヤツオ』

『俺たちは、この子が【戦士】にならないと森を出れないらしいんだけど』


『そうだな。それが一族の掟だ。精霊の森に来たからには我らに従ってもらう。まあ、嫌だと言ったら死んでもらうしかないのだが』

『郷に入りては郷に従え、だな。了解した。聞きたいことは、【どうすれば戦士になれるのか】ってことだけど』


『……メトス、私が狩ったギギの毛皮が合っただろう。あれを持って来てくれ』

『ああ、少し待ってろ』


 獣人さんの妹がテントから出て行く。


『ギギ?』

『ああ。【戦士の儀式】はギギを1人で狩ることだ。私とメトスは、14歳の時に達成した』


 バルチはまだ2歳にもなっていない。仮に儀式を14歳で達成したとして、12年はここで足止めされる計算だ。


『ヤツオ、私はそこまで時間はかからないと思っている』

『なぜだ? 何か根拠があるのか?』


『この子がナシュ種だからだ。我々ダリオ種と違い、厳しい環境を選んだナシュ種の俊敏性や五感の鋭さはダリオ種を凌駕する。

 その子もきっとそうだ』

『この子がねぇ』


 トリスの尻尾に夢中で飛び掛っているバルチにそんな気配は微塵もないが、そう言うものだろうか。


『姉上、毛皮を持ってきたぞ』


 そう言いながら部屋に戻ってきたメトスが抱えていたのは、体長5メートルを超える熊に似た動物の毛皮だった。地球の熊との違いを挙げれば、頭に鹿に似た角が生えていることと、


『おい、腕が4本あるんだが……』

『何を言っている。ギギは最初から4本腕だぞ』


 八十雄の胴体よりも太い腕が、左右2本ずつ生えていることだった。




 読んで頂き、ありがとうございました。


2015 1/22 下記の通り修正を実施

  獣人S → 獣人たち


2015 1/23 下記の通り修正を実施

  キョロキョロと様子を伺っている → キョロキョロと様子を窺っている

  良く → よく(4箇所直してあります)

  眉毛がひさしの様に目まで → 眉毛がひさしのように目まで

  話しを盗み聞いていたのか → 話を盗み聞いていたのか

  今では一緒にご飯も食べれる → 今では一緒にご飯も食べられる

  仲良良くになっていた   → 仲良くになっていた

  森で取れる【ナトの実】を → 森で採れる【ナトの実】を

  ギギの毛皮が合っただろう → ギギの毛皮が有っただろう

  熊との違いを上げれば   → 熊との違いを挙げれば

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