015_獣人
これからも、よろしくお願いします。
年が明けて仕事も始まり、なかなか時間が取れなくなってきましたが、20話まで投稿完了しました。
頂いた、暖かいメッセージを励みに頑張りたいと思います。
緑薫る森の中を、八十雄とバルチはハイキング気分で歩いていた。
トンボが飛び、蝶が舞い、小動物が駆け抜ける森の風景が気になってしかたがないバルチ。獣人の本能か、目の前を小動物がウロチョロするたびに飛びかかろうとして、抱えている八十雄から苦笑いが漏れる。
「とうとー」
「綺麗なちょうちょだね」
「とんとー」
「おっきいトンボだなー」
森の中が関係するのか、いつになくバルチは元気だった。今は動く物を片っ端から指差し、大きな声で名前を呼んでいる。
途中で見つけた果物を2人で食べながら、ひたすら森の奥を目指し、八十雄とバルチは進んでいった。
最初に異変に気がついたのは、2日目の朝だった。
いつもは寝ぼすけなバルチが、夜が明ける前には目を覚ましていたのだ。何かを感じているのか、ピンと立った耳をピクピク動かし、ぎゅっと力強く抱きついてくる。
八十雄も周囲の自然に紛れてこちらを伺う視線を薄々ながら感じていた。警戒と言うより観察しているような視線であったが、わざと気が付かないふりをした。【何となく】だが、危険は感じなかったからだ。
朝食を作り、身の回りを片付け、火の後始末を行うと、バルチを抱えたまま森の奥を目指した。昨日と違い、今日のバルチは静かだった。
昼食後、休憩している時だ。
村で分けてもらった苦めのお茶を飲みながら、八十雄はバルチの背中を撫でていた。バルチはいっときも八十雄から離れようとせず、緊張している様子だった。
一瞬バルチに目を離した隙に【その男】は現れた。
焚き火を挟んで5メートルの距離に獣人の男が立っている。筋肉が波打つしなやかな体躯は、戦士そのものだ。
八十雄も冒険者養成学校で戦闘訓練を受けてはいたが、まったく格の違う相手であることだけは肌で感じた。武器を構える間もなく、手に持っている1メートルほどの短槍で刺し貫かれる自分が想像できた。
不思議なことに獣人の男は無言で眺めているだけだった。八十雄も特に気にしなかった。ただ、飛び起きたバルチだけが慌てたように八十雄の上着の中に潜り込んで隠れようとしていた。
「ちょっ、バルチ。くっ、くすぐったい」
「ん~~」
必死に潜り込もうとするバルチと、それを止めようとする八十雄の攻防はバルチの勝利に終わった。諦めた八十雄が上着の前を開くと、動きやすくなったバルチは背中に張り付き大人しくなった。
そうしている間に周囲からの視線も強くなる。目の前の男が現れたことと関係するのか、八十雄には判断がつかなかったが。
獣人の男は八十雄に付いて来るように合図すると背中を向け歩き出した。八十雄もゆっくりとその後を追っていく。抵抗しても無駄であったし、危害は加えられないことが【分かって】いたからだ。
歩いている内に隠れていた獣人たちが姿を現した。最初の男を含め人数は5人。全員が鍛え抜かれた戦士の体をしていた。
驚いたことにそのうちの2人は女性だ。全員とも武器は短槍で、投げたり突いたり、場合によって使い分けていた。八十雄が歩きやすいように下草を払ってくれたり、危険な蛇を捕まえてくれたりと、思ったよりも親切だった。
八十雄は色々と話しかけてみたが、言葉が通じないのか怪訝な顔をされるだけで返事は返ってこない。バルチは相変わらず背中に張り付いたままで、若干、気まずかった。
先頭で案内していた男が、少し開けた近くに沢のある空き地で足を止めた。今夜はここで野営をするようだ。
火は獣人が起こしていたので、八十雄は食事の準備を始めようかと思ったが、その頃になってもバルチは背中から離れない。掴んで離そうとしたが「ん~、ん~」と、全力で抵抗したため、諦めてそのままにしておいた。思ったよりも力が強く、驚いたほどだ。
「しょうがないなぁ。面倒だけど、いっちょやるか」
バルチを引き剥がすための秘策、プロジェクト【北風と太陽】を実行する。剥がせないなら、自ら離れるように仕向けるのみだ。
八十雄はザックから鍋と辺境の村で譲って貰った小麦粉と岩塩を取り出した。この時点で分かったと思うが、好物のうどんを作っておびき出すだけである。
沢の水を少しずつ足しながら小麦粉を練って練って、練っていく。じっとりと汗を体が汗をかく位、力を込めて練りまくる。ここで手を抜くと美味しいうどんにならなくて、バルチに微妙な顔をされるのだ。
程よい弾力が出たところで、丸くまとめ湿った布で包んでおく。その頃になるとバルチがモゾモゾと動き出した。何を作っているのか察したようだ。
続いて燻製にした川魚を取り出し、頭と内臓を取り除いて鍋で煮込み始める。出汁がたっぷり出たところで一度燻製を取り出し、後でこれも具材にするためとっておく。鍋にわずかな岩塩と、乾燥させた香草を入れて味を調えた。
その頃にはもう、匂いに釣られたバルチが背中から離れ、わき腹に張り付くようにしながら、鍋の様子を注視していた。バルチの顔を覗き込むようにして視線を合わせると、恥ずかしそうに小さく笑った。
周囲の獣人たちも汁の匂いが気になるようだ。無関心を装いながらもチラチラと視線を飛ばしてくる。彼らは沢で魚を取ってきたようで、槍に沢山の魚を刺していた。器用に木の枝で即席の串を作ると、それで川魚を刺し焚き火で焼いていく。料理の担当は女性の獣人だった。
寝かせておいた麺を、綺麗に洗って水気を拭き取り打ち粉をうった盾の上に置くと、この為にわざわざ持ち歩いている小さめの麺棒で平たく伸ばしていく。バルチもそうだが、猫人族は好奇心が強いようで、麺棒の動きに合わせて全員の尻尾が同じ様に揺れている。猫好きの八十雄が思わず掴みたくなるほど愛らしい。
八十雄流のうどんは、薄味の汁がよく絡むように細めだ。とんとんとんっと麺を切り終えると、火にかけていた汁の鍋に投入する。麺に火が通る前に、出汁を取った燻製魚をばらして細かい骨まで取り除く。取った魚の身をほぐして、道中で取っておいた山菜と一緒に軽く煮込み具にするのだ。
「よし、完成」
出来立てホヤホヤのうどんをバルチ専用の茶碗に盛り付けた。具の魚の身を山盛りにしたら我慢できなかったようで、隠れていた上着の中から飛び出す。愛用の箸を渡せば、嬉しそうに食べ始めた。
「美味しいかい?」
「じーじのちゅるちゅる、おいちいねぇ」
「そうか、そうか。お代わり食べるかい」
「んー♪」
差し出したバルチのお茶碗にお代わりをよそってやると、どんぶりの動きに合わせて5人の獣人たちの視線も付いてくる。自分の茶碗にうどんをよそった後で、たっぷり残っている余りを鍋ごと女性の獣人に差し出した。箸がなかったので、魚を刺していた串で食べるようにジェスチャーで教えてやる。
自分の分をすでに食べ終え、寂しそうな顔をしていたバルチを膝の間に抱えなおし、八十雄は自分用に取り分けていたうどんを、バルチと2人で分け合って食べた。
獣人たちは、最初はうどんの熱さに苦戦していたが、息を吹き吹き、おいしそうに食べ始めた。順番に一口ずつ交代で食べていて、本当に仲が良い。
視線を向けると獣人族はシャイなのか、一斉に視線をそらし、うどんを食べるのを止めてしまう。
邪魔をしては悪いと、八十雄はバルチと手をつなぎ、汚れた食器とまな板代わりに使った盾を洗うために、沢に向かって席を外した。
その夜の見張りは獣人たちでやってくれるようで、八十雄には早く寝るような身振りをしている。軽く頭を下げて、眠ってしまったバルチを胸に、毛布を取り出して包まった。焚き火も炊かれているので、屋外でも暖かい。
(なるようにしかなんないもんな)
獣人たちの視線を感じながら、八十雄は目をつぶった。
翌朝、簡単な食事を済ませてから行うのは、日課のブラッシングだ。
猫っ毛の癖に八十雄に擦り寄るように寝るバルチは、毎朝、酷い寝癖を量産するのだ。ふぁ~と、あくびをかみ殺しているバルチの頭から肩、腕から足まで、見えている範囲のすべてを獣毛ブラシで整えていく。バルチも気持ちが良いようで、ぐでっと脱力するのは毎度のこと。
それに女性の獣人さんが食いついた。爛々と底冷えするような視線で一挙一動を追っている。
物は試しに、ちょいちょいと女性の獣人さんを呼んでみると、思ったよりも素直に背中を預けてきたので、八十雄も引くに引けなくなってしまう。2人に一通りブラッシングをかけてみると、毛艶が見違えるほど輝き出した。今では、昨夜まで警戒心バリバリだったバルチと並び、100%脱力して身を任せている。
結局、獣人の里に付くまでバルチと2人の女性獣人さんのブラッシングをやり続ける羽目になった、八十雄であった。
読んで頂き、ありがとうございました。
2015 1/4 下記の通り修正を実施
獣人たちが姿を現し。→ 獣人たちが姿を現した。
汗を体が汗をかく位、→ 体が汗をかく位、
2015 1/22 下記の通り修正を実施
獣人S → 獣人たち
2015 1/23 下記の通り修正を実施
身の回りをかたずけ → 身の回りを片付け
程よい弾力が出た所で → 程よい弾力が出たところで
出汁がたっぷり出た所で → 出汁がたっぷり出たところで
薄味の汁が良く絡む → 薄味の汁がよく絡む




