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黒歴史(最強設定)で目覚めた俺の異世界デバッグ生活 〜最強の能力は魔素係数研究の肥やしです〜  作者: じゃろうし
人との関わり

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第23話:目覚めたエルフと、システム管理者の沈黙

第2章開始です。

第7話と第10話に☆が付きました!!

頂いた挿絵ありのマークとなります。

--- (??? 視点) ---


「──っ!?」


暗闇の深淵から、弾かれたように意識が跳ね上がった。


跳ね起きようとした全身に力を込め──次の瞬間、エリシアは呆然として固まった。


(体、が……動く……? 骨が、砕けていたはずでは……?)


15層の禍々しい紫黒の空間。迫り来る絶望的な衝撃波。前衛の仲間たちが一瞬で潰れ散り、自らの肋骨が肺を貫いたあの強烈な激痛と死の匂い。

それらが、まるで遠い悪夢であったかのように消え去っていた。


エリシアは自分の両手を見つめた。

血に染まっていたはずの細い指先は、傷一つなく白く滑らかだ。魔法孔(マナ回路)の暴走による焦燥感もなく、体内の魔素マナはまるで清涼な泉のように静かに満ち満ちている。


「ここ……は……?」


体を起こし、周囲を見回す。

そこは、ダンジョンの地獄とは程遠い、見たこともない奇妙な空間だった。


足元には見たこともない柔らかで清潔な絨毯。横たわっていたのは、体を包み込むようなフカフカの長椅子ソファ。壁一面には、見たこともない青い光を放つ透明な板(液晶ダッシュボード)が何枚も浮かび、複雑な数式や幾何学模様のグラフが規則正しく明滅している。


「あ☆ お姉さん起きたー? 3日間もぐっすりだったねー☆」


パチ、と軽い音がして、呑気な声が空間に響いた。


エリシアは弾かれたように視線を向け、息をのんだ。

そこにいたのは、瑠璃色の美しい髪をなびかせ、肌の露出度が高い奇妙でアクティブな衣服を纏った極上の美少女だった。彼女は片手に見たこともない透明な筒(真空タンブラー)を持ち、ストローで黒い弾丸のような泡立つ液体をちゅーちゅーと吸い上げている。


「あ、あなた……は……? ここは一体……? 私の仲間たちは……!?」


混乱と警戒、そして怒涛のように押し寄せる喪失感に声を震わせるエリシア。

しかし、瑠璃色の少女──ルリは、膝の上でポテトチップスの袋をパシャリと揺らしながら、底抜けに軽いノリで手を振った。


「私はルリちゃんだよー☆ ここはジェイくんの観測拠点(お部屋)ね☆ 15層でボコられて消滅寸前だったところを、ジェイくんが超特権コマンドでダイレクト回収(転移)したの☆ 仲間? あー、前衛の3人? 残念だけど、あっちのノードは防御コードが間に合わなくて即死(一瞬で強制シャットダウン)しちゃったよ☆」


「っ……!!」


あまりにもフランクに語られた惨酷な現実に、エリシアの胸がキュッと締め付けられた。冒険者だから覚悟していたとはいえ、やはり、あの3人は……。

悲しみと悔恨で目頭が熱くなる。だが、それ以上に彼女の思考を麻痺させたのは、目の前の少女が口にした「あまりにも現実離れした言葉」だった。


(15層から……一瞬で回収された……? こんな見たこともない場所へ……? そんな次元魔法、神話の時代でも聞いたことがない……!)


そして、エリシアの視線は、部屋の隅のラグの上に倒れ伏している「一人の青年」へと向けられた。


黒髪の青年。上質なローブを纏っているが、その顔は痛々しいほど真っ白で、鼻や耳の周囲には乾いた血の跡が黒くこびりついている。ピクリとも動かず、ただ微かな呼吸だけを繰り返していた。


「あ……あの方は……!?」


エリシアの顔から急速に血の気が引いた。もはや、死ぬことは逃れられない、死ぬ寸前としか見えない。


彼女には分かった。目の前の青年の体から発せられている、絶大な、しかし極限まで摩耗した「痕跡」が。

15層での瀕死の自分を繋ぎ止めた、あの理不尽なほど強引で、神の御手のごとき圧倒的な治癒現象。それを引き起こすために、この青年がどれほどの代償を払ったのか。


「まさか……私ひとりを救うために……ご自身の生命を削って……!?」


溢れ出る涙を拭いもせず、エリシアは青年──ジェイの傍らへ膝をつき、震える手で彼の顔を覗き込んだ。


「ああ、なんてことを……! 私のような見知らぬ者のために、これほどの負荷を……! 立ち上がってください、お願いです……! 私の命など、あなた様の犠牲に見合うはずがないのに……っ!!」


絶望と深い罪悪感、そして命の恩人に対する哀切な祈り。

悲劇のヒロインのように悲壮感を漂わせ、涙をポロポロとこぼすエリシア。


だが──。


「あー、お姉さん? 雰囲気ぶち壊して申し訳ないんだけどー☆」


隣でポテトチップスをパリパリと咀嚼しながら、ルリが呆れたようなジト目で割り込んできた。


「そんな悲壮感たっぷりに泣かなくていいよー☆ ジェイくん、死んでないから☆」


「え……? でも、この血は……それに、お命の脈動がこれほど遠くに……!」


「いや、ただのカーネルパニック(過負荷による気絶)☆」


ルリはストローでコーラをゴクゴクと飲み干すと、ぷはぁ、と息を吐いて平然と言い放った。


「あのね、このジェイくんってば、仕様定義(設計図)も作らないで『凡者の小道具』を力任せに連続ビルドしちゃったからさー☆ 脳みそが過熱オーバーヒートしてCPU温度が上限突破しちゃったの☆ だから今、システムが自動で冷却&コールドリブート(再起動)中なだけー☆」


「かーねる……? シーピーユー……? 何を仰っているのですか……!?」


未知の単語(IT用語)の連続にエリシアが頭を抱える。

ルリは「あはは☆ パラメータの意味分かんないよねー☆」と笑いながら、ソファの背もたれに体を預けた。


ルリにとって、黒木勉ジェイ・ロンのバックエンドは「世界構築のリソースの5倍」というバグじみた絶対領域だ。

世界が5回連続で完全崩壊(世界滅亡)でもしない限り、ジェイの存在が消滅することなどあり得ない。


(まあ、脳の神経回路を力任せに焼き切ったから、今回のセルフヒーリング(自然回復)には丸々1ヶ月くらいかかりそうだけどねー☆)


ルリは裏でそんな数値を弾き出しつつも、表向きは至って呑気にポップコーンの袋をあさっている。ルリからすれば「ちょっと長めのメンテナンス休業」程度の認識なのだ。この世界最強のセキュリティAIにとって、ジェイの死を心配すること自体がプロトコルの無駄遣いだった。


「まあ要するにね☆ ジェイくんは絶対に死なないから放置でオッケー☆ むしろ、変に刺激すると再起動プロセスが長引くから、そのまま寝かせておくのが一番なの☆」


「ほ、放置……!? 命の恩人を……!?」


エリシアは目を丸くした。

あまりのギャップ(温度差)に脳の処理が追いつかない。


自分を絶望の深淵から引き上げ、神域の魔法で救ってくれた黒髪の青年。

そして、その横で黒い液体コーラを飲みながら「絶対に死なないから放置で☆」と言い切る謎の美少女。


この常識が一切通じない異質な空間(観測拠点)で、エリシアはぽかんと口を開けたまま、青年と少女を交互に見つめるしかなかった。


「……あ、自己紹介がまだだったね☆ 私はルリ☆ 世界のセキュリティソフトみたいなやつ☆ で、そこの倒れてるのが大賢者(笑)ことジェイ・ロンくんね☆」


「私は……エリシア・ライラック。……金ランクパーティ『銀光の翼』の魔術師です……」


名乗りを上げながら、ルリを理解することは諦めつつ、エリシアは倒れ伏すジェイの穏やかな寝顔をじっと見つめた。


(ジェイ……様……)


彼が何者なのかは分からない。

なぜ、15層の惨劇から救い出してくれたのかも分からない。

だが、彼がその身を削って(とエリシアには見える)自分を救ってくれたことだけは動かない事実だった。


エリシアは静かに冒険服の裾を整え、ジェイの枕元に正座した。


「……ルリ様。私に、彼のお世話をさせてください」


「んー? 別にいいけど、さっきも言った通り勝手に治るよー?☆」


「いいえ。彼が目覚めるその瞬間まで、私はここを離れません。……これが、命を拾われた私の、恩返しです」


澄んだ瞳に強い意志を宿らせて宣言するエリシア。


「へー☆ 律儀だねー☆ じゃあ、ジェイくんが起きるまで好きにしてていいよー☆ コーラ飲むー?☆」


「こーら……? いいえ、結構です……」


こうして、失意と困惑、そして奇妙な平穏が入り混じる観測拠点で──1ヶ月に及ぶ「管理者の長い再起動コールドリブート」と、エルフの魔術師エリシアの同居生活が幕を開けたのだった。


第二章でジェイ君は何をするのでしょうか?

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