第22話:【第1章完結】設計なきインスタンスのビルド負荷と、カーネルのオーバーヒート
第7話と第10話に☆が付きました!!
頂いた挿絵ありのマークとなります。
「ハぁ……ハぁ……ッ! ルリ、高濃度マナパッチの……パラメータ調整は……!?」
俺──ジェイ・ロンこと黒木勉は、膝をガクガクと震わせ、観測拠点のデスクに両手を突いて倒れ込みそうになりながら叫んだ。
目の前の絨毯の上。
15層から『送還・召喚』の最上位権限で強引に転送させた女性魔術師は、血の海の中で浅い息を繰り返し、命の灯火(HPログ)を今にも消そうとしていた。
「パラメータ調整って言われてもー☆ 彼女の体内の魔素バランス、15層のバグ暴走のせいでぐっちゃぐちゃだよ!? 普通の回復魔法を当てたらコンフリクトを起こして即死しちゃう☆」
「ちっ……! 既存の構造体から設計していたら、とても間に合わないか……!!」
彼女のステータスログ(リソース状況)が、警告色の赤から不気味な灰色へと変わりかけている。
物理的な骨折や内臓破裂(ハードウェア損傷)だけじゃない。15層の過剰な魔素に晒されたことで、彼女の内部データ構造そのものが崩壊しかけているのだ。
(考えるな! 設計図(クラス定義)をじっくりコンパイルしている猶予なんてない……!)
俺の持つ『凡者の小道具』──。
本来ならば、特定の機能を付与したオブジェクトを作成する場合、脳内で設計を完璧に固め、仕様を定義してから実体化させる必要がある。
しかし──設計なし(ノープラン)で、思いつきの機能を力任せにそのまま実体化(インスタンス化)させることも可能だ。
ただし、その場合はシステム構築のツケがすべて俺自身の肉体と精神へと「ダイレクトな負荷(苦痛)」として跳ね返ってくる。
これは自分のスキル効果だからリソースの多さではカバーできないwww、何て余計な設定をつけたあの時の自分を殴りたい!
(構うかよ……!! 目の前でこの優秀なコード(命)が消えるくらいなら……!!)
「──『凡者の小道具』……強制インスタンス化ッ!!」
(俺の凡者の小道具は、魔素係数に直接働きかけて物理法則を変更できる……)
それを拠り所に、俺は脳内の安全装置を完全に解除し、設計図なしの状態でダイレクトにオブジェクトの生成を開始した。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!?!?」
瞬間。脳味噌に直接高圧電流を流し込まれたような、絶絶たる激痛が頭蓋の内側を駆け抜けた。
(痛ぇ……ッ! 脳が……焼き切れる……ッ!!)
仕様定義を放棄し、世界の物理エンジンへ強引に「こういう機能のオブジェクトを出せ!」とリクエストを叩きつけた反動だ。視界が真っ赤に染まり、全身の毛細血管が破裂しそうなほどの圧力が俺の精神(CPU)を痛めつける。
だが、止めるわけにはいかない。
「第一オブジェクト……《生体データ固定器》……ッ!」
手のひらに、歪な形状をした青白い金属の針が実体化する。この針で刺した物体の時間進行係数を0.000001倍にさせる。
設計を省いた代償として、右腕の筋肉が断裂したかのような激痛が走った。俺はその針を、彼女の手のひらへと突き立てた。
(傷はまとめて治すから……)
カチリ、と微かな駆動音が響き、彼女の体を取り巻く灰色のノイズが一時的にほぼ固定される。これで、少なくともあと数十秒は生命維持のエラー(死亡)を保留できる。
「ジェイくん!? 顔色が完全にデスカラー(致死色)だよ!? もうやめなよ、君の脳がオーバーヒートで壊れちゃう☆」
「うるさい……! 次だ……ッ!!」
脳内で警告アラートが狂ったように鳴り響く。
『賢者の石』の並列思考エンジンが過負荷で悲鳴を上げ、レベル10の最高処理速度が逆に俺の意識を灼熱の苦痛で満たしていくが、次の手を打つ。
(仕組みはいまだ未解析…だが、俺は確かに観測した!)
かつて冒険者を癒した神殿の風景を思い浮かべる。
(理屈は分からないから設計は不可能……だが実在することを俺は知っている)
それを拠り所としてスキルを使う。
(傷の縫合……魔素係数の再平準化……細胞の高速増殖……! これらすべてを統合した特異オブジェクトを……設計なしで連続構築(連続ビルド)する……!!)
「ぐっ……ぶはっ……!?」
口から生温かい血が溢れ出た。
鼻からも、耳からも血が滴り落ちる。
『凡者の小道具』を介して理解していない現象を、無設計のまま力任せに行う再現する代償。それはまさに、自身の魂を直接削り取るような暴挙だった。
「第二オブジェクト……《多重生体平準化ドリップ(フルリペア・パッチ)》……ッ!!」
俺の手の中に、七色に怪しく光るガラス瓶と管が実体化した。
同時に、左目から激痛とともに視界が消失する。一時的な過負荷による神経障害だ。
「ルリ……! これを彼女の腕のラインへ接続しろ……! 彼女の体内の魔素係数 alpha_{mana}を……1.0近辺へ強制同期させる……!!」
「わ、分かった☆ 分かったから落ち着いてよジェイくん!!」
ルリが慌てて管を奪い取り、瀕死の女性魔術師の腕へと接続する。
ドクン……! ドクン……!
七色の液体が管を通り、彼女の体内へと流れ込んでいく。
その瞬間、彼女のへし折れていた骨が強引に結合し、破裂していた内臓が急激な細胞増殖によって修復され始めた。全身の皮膚を覆っていた凄惨な亀裂が、まるで時間を巻き戻すかのように塞がっていく。
「あ……が……っ……」
女性魔術師の口から、弱々しいながらも確かな「空気の漏れる音(呼吸)」が漏れた。
灰色の絶望色に染まっていた彼女のステータスログが、ゆっくりと、確実に──正常なグリーンゾーンへと押し戻されていく。
『──対象オブジェクトの構造修復率:98%。生命維持プロトコルの安定を確認』
コンソールに流れる、静かなシステムメッセージ。
(……繋がった……。命が……繋ぎ止められた……)
そのログを目にした瞬間、俺の全身を縛りつけていた緊張の糸が、プツンと音を立てて切れ落ちた。
「ハ……ハハ……。ざまあみろ、不具合め……。ログの異常終了は……絶対に……認めん……」
視界が急速に闇へと沈んでいく。
脳のカーネルが完全に限界を迎え、いわばCPU温度が上限を突破したことによる物理的な緊急シャットダウン(気絶)だった。
「ジェイくん!? ちょっと、ジェイくんッ!!☆」
畳み掛けるようなルリの叫び声が、まるで遠い水中から聞こえるかのように遠のいていく。
俺は、命を取り留めた女性魔術師の隣へと、糸が切れた人形のように崩れ落ち、そのまま深い意識の底へと転がり落ちていった。
これにて第1章完結です。ここまで、お付き合いいただきましてありがとうございました!
第2章も続けて投稿するつもりです。二日に一度、夜1時の更新予定です。
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