音楽教室に通い始める
兄が通っていた音楽教室のおかげで、我が家には小さなオルガンがあった。
決して裕福な家ではなかったのに、わたしにも音楽を習わせてくれた両親の気持ちを、今になって思い返しては胸がじんわりする。
一年生の秋わたしも兄と同じように通うことになった。
初日の夕方、仕事から母がなかなか帰ってこなくて、心細さで涙がぽろぽろこぼれた。
でも、あの頃の母は毎日ぎりぎりの時間まで働いて、わたしに間に合うよう必死だったのだと、今ならわかる。
教室に入ると、家のオルガンより大きなエレクトーンが並んでいて、その光景だけで胸がわくわくした。
楽譜を読み、指を動かし、先生が奏でる和音を当てる練習。
そして、わたしが一番好きだったのは歌う時間。
声を出すたび、胸の奥がふわっと温まっていくようで、子どものわたしにはそのひとときがご褒美みたいだった。
楽譜を読むのは苦手で、家に帰ってからの練習も正直ほとんどしなかった。
それでも、教室にいる時間はいつも楽しくて、音に包まれているだけで幸せだった。
同じクラスの幼稚園の年長さんたちに囲まれて少し背伸びしていたけれど、鍵盤に触れるとそんな気持ちもすっと消えた。
今思えば、忙しい中送り出してくれた母も、家計を支えながら習い事を続けさせてくれた父も、どちらも本当にありがたかった。
あのオルガンの音は、わたしにとって音楽だけじゃなく、家族のあたたかさそのものだったのかもしれない。




