給食とパンのかけら
学校にも少しずつ慣れてきたころ、わたしの日々には小さな楽しみがあった。
それは、給食の時間。
わが家の仕事は天気に左右される。
晴れれば忙しく、雨が続けば手が止まる。
仕事がなければ、収入もない。
そんな暮らしのなかで、母は家の裏にある小さな畑を耕し、季節の野菜を育てていた。
煮物や味噌汁の具は、ほとんどがその畑の恵みだった。
だからこそ、学校の給食はわたしと兄にとって、特別なご馳走だった。
温かい汁もの、甘いコッペパン、牛乳の白さ——どれもが家では味わえない豊かさだった。
カレーライスなどは、誰かの誕生日でもない限り出てこない。
だから夕食にカレーが出ると、「今日、誰かの誕生日?」と母に尋ねては笑われたものだ。
そんなある日のこと。
給食を食べ終え、掃除の時間に机を動かそうとしたとき、机の下にパンのちぎれたかけらがねじ込まれているのを見つけた。
「わたし、食べ残したのかな」
そう思って、何も言わずにそのパンを口に入れた。
けれど今思えば、それはわたしの仕業ではなかった。
誰かがわたしの机に押し込んだ、小さな悪意のかけら。
もし、あのとき先生に伝えていたら、何かが変わっていたのだろうか。
けれど、幼いわたしには、言葉にする勇気がなかった。
パンのかけらの味だけが、いまも胸の奥に沈んでいる。
そして夜になると、わたしは兄と二人きりで過ごすことが多かった。
母も父も仕事で帰りが遅く、家の中はしんと静まり返っていた。
兄の存在は心強くもあり、同時に、寂しさをよりはっきり思い出させる灯のようでもあった。
小さなちゃぶ台の上の明かりを見つめながら、わたしたちはそれぞれの沈黙の中にいた。




