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あの教室から、今の私へ  作者: 青井空


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5/10

給食とパンのかけら

学校にも少しずつ慣れてきたころ、わたしの日々には小さな楽しみがあった。

それは、給食の時間。


わが家の仕事は天気に左右される。

晴れれば忙しく、雨が続けば手が止まる。

仕事がなければ、収入もない。

そんな暮らしのなかで、母は家の裏にある小さな畑を耕し、季節の野菜を育てていた。

煮物や味噌汁の具は、ほとんどがその畑の恵みだった。



だからこそ、学校の給食はわたしと兄にとって、特別なご馳走だった。

温かい汁もの、甘いコッペパン、牛乳の白さ——どれもが家では味わえない豊かさだった。

カレーライスなどは、誰かの誕生日でもない限り出てこない。

だから夕食にカレーが出ると、「今日、誰かの誕生日?」と母に尋ねては笑われたものだ。


そんなある日のこと。

給食を食べ終え、掃除の時間に机を動かそうとしたとき、机の下にパンのちぎれたかけらがねじ込まれているのを見つけた。

「わたし、食べ残したのかな」

そう思って、何も言わずにそのパンを口に入れた。


けれど今思えば、それはわたしの仕業ではなかった。

誰かがわたしの机に押し込んだ、小さな悪意のかけら。


もし、あのとき先生に伝えていたら、何かが変わっていたのだろうか。

けれど、幼いわたしには、言葉にする勇気がなかった。


パンのかけらの味だけが、いまも胸の奥に沈んでいる。


そして夜になると、わたしは兄と二人きりで過ごすことが多かった。

母も父も仕事で帰りが遅く、家の中はしんと静まり返っていた。

兄の存在は心強くもあり、同時に、寂しさをよりはっきり思い出させる灯のようでもあった。

小さなちゃぶ台の上の明かりを見つめながら、わたしたちはそれぞれの沈黙の中にいた。


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