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王女殿下の幸せを守る会と彼女にだけ甘い氷帝陛下  作者: 凛桜


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会員番号一番は誰のもの?

 その夜。

 ヴァルディア帝国の皇宮、その一角。

 普段なら決して一堂に会することのない人物たちが、一つの部屋に集まっていた。


 ルヴェリア王国から婚姻協議のため派遣されている宰相、王女付き侍女長、王国騎士団長、護衛隊長、宮廷魔術師。

 そして帝国側からも、宰相、皇宮侍女長、騎士団長、皇帝付き侍従らが顔を揃えている。


 机の中央には、一枚の紙。

 そこに大きく書かれているのは――


『王女殿下をお守りする会 会員名簿』


 である。


「……まず確認しておきますが」


 帝国宰相が咳払いをした。


「これは、正式な公的組織ではありません」


「分かっています」


 ルヴェリア宰相が即答する。


「では、なぜ私まで呼ばれたのでしょう」


「あなたが一番最初に入会を申し出たからです」


「……」


 帝国宰相は黙った。

 否定できない。



「さて」


 ルヴェリアの侍女長が名簿を取り上げる。


「まずは会員番号を決めましょう」


「待ってください」


 帝国騎士団長が口を挟んだ。


「番号など、入会順でいいのでは?」


「それでは困ります」


「なぜです?」


「殿下に長年お仕えしてきた者が、最近加入した者より後ろになるのは納得できません」


「……」


 帝国側がざわつく。


「つまり、古参順にしたいと?」


「当然です」


 ルヴェリア侍女長は胸を張った。


「私は殿下がまだ幼い頃からお仕えしております」


「私は殿下が帝国へ来られてから、毎日お側におります」


「それだけではありません」


 ルヴェリア宰相が口を開いた。


「私は殿下が初めて国政について父王陛下に意見された日を知っています」


「私は初めて剣を握られた日のことを」


「私は初めて魔法を使われた日のことを」


「私は初めて――」


「待ってください!」


 帝国宰相が頭を抱えた。


「あなた方、強すぎませんか?」


「何がです?」


「古参としての情報量がです!」


 室内に小さな笑いが起きる。

 しかし誰もが本気だった。

 アリアのこととなると、彼らは皆、驚くほど真剣だった。



「では」


 ルヴェリア宰相が紙を指差す。


「会員番号一番は、誰にしましょうか」


「私でしょう」


 即答したのは、ルヴェリア侍女長だった。


「殿下の日常を最もよく知っているのは私です」


「いや、私だ」


 騎士団長が言う。


「危険から殿下を守るのは騎士の役目です」


「殿下の魔力を理解しているのは私です」


 宮廷魔術師まで参戦する。


「……」


 帝国側も黙ってはいない。


「帝国側としては、皇宮での生活を支える侍女長を一番に推したい」


「私も騎士団長を――」


「待ってください」


 ルヴェリア宰相が静かに手を上げる。


「一番というのは、そう簡単に譲れるものではありません」


 空気が変わった。

 誰もが真剣な顔になる。

 たかが会員番号。されど会員番号。

 王女殿下を愛する者たちにとっては、誇りそのものだった。



 その時、扉が開いた。


「何をしている」


 低い声に全員が振り返る。


「――陛下!?」


 そこに立っていたのは、皇帝レオンハルトだった。

 黒い軍服、冷たい眼差し。いつもの氷の皇帝そのもの。


「こんな時間に集まって何をしている」


 全員が沈黙する机の上。


『王女殿下をお守りする会』


の名簿。

 隠すには、あまりにも堂々としすぎていた。


「……」


「……」


「……」


 帝国宰相が観念した。


「王女殿下をお守りする会を……」


「そうか」


 レオンハルトは名簿を見る。


「会員は?」


「現在、二十三名です」


「そうか」


 しばらく沈黙。


「私も入る」


「…………」


 全員が固まった。


「陛下?」


「聞こえなかったか?」


「いえ、聞こえておりますが……」


 帝国宰相は恐る恐る尋ねた。


「……皇帝陛下ご自身が、ですか?」


「当然だ」


 当然だった。

 あまりにも当然のように言うので、誰も反論できない。


「では……会員番号はいかがいたしましょう」


「一番」


「え?」


「一番だ」


 室内が静まり返った。

 ルヴェリア侍女長が目を丸くする。


「陛下、それは……」


「何か問題が?」


「いえ……」


 問題しかない。

 しかし皇帝相手に言える者はいない。

 すると、


「お待ちください」


 ルヴェリア宰相が立ち上がった。


「殿下に長年お仕えしてきた我々を差し置いて、皇帝陛下が一番というのはいささか――」


「私が最も近くでアリア王女を守れる」


「……」


「ならば一番で問題ない」


 完全なる正論だった。正論なのだが。

 その瞳があまりにも真剣だった。


「……陛下」


 帝国宰相が呟く。


「何だ」


「それはもう……会員番号の問題ではないのでは?」


「……」


 レオンハルトが黙る。


「何か言ったか」


「いえ、何も」


 帝国宰相は即座に視線を逸らした。



 こうしてーー


『会員番号一番


レオンハルト・ヴァルディア』


が決定した。本人の圧倒的な権力によって。


 しかし問題はその後だった。


「では二番は――」


「私です」


 ルヴェリア宰相が即答。


「三番は私で」


 侍女長。


「四番は私が」


 騎士団長。


「五番は――」


 帝国宰相。


 こうして一桁の会員番号が、瞬く間に埋まっていく。

 誰もが真剣。誰もが有能。

 そして、全員が一つだけ共通していた。


 ――アリアに幸せでいてほしい。


 ただ、それだけだった。



 一方、当のアリアは。


「ふふっ」


 自室で今日届いた手紙を眺めながら、嬉しそうに笑っていた。


「帝国って、本当に素敵なところですね」


 侍女が微笑む。


「はい」


「皆さん優しいですし」


「はい」


「最近、私の好きなものをよく覚えてくださっているんです」


「……はい」


 侍女は少しだけ目を逸らした。

 まさか、その「皆さん」が自分の知らないところで会員番号を巡って真剣勝負をしているなど、アリアは知る由もない。



 そして同じ頃、皇帝の執務室。

 レオンハルトは、一枚の紙を眺めていた。


『王女殿下をお守りする会 会員番号一番』


と書かれた紙。

 レオンハルトは、それを静かに机の引き出しへしまった。


「……一番」


 小さく呟くその口元は、ほんのわずかに笑っていた。

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