王女殿下を守りたい者たち
アリアを女王から王女に設定変更したことにより、大幅に内容変更いたしました。
翌日の午後。
帝国宮廷の一室に、両国の重臣たちが集まっていた。婚姻協議のための会議である。
「では、王女殿下の帝国滞在中の生活について――」
帝国宰相が資料を開く。
「現在の侍女の方々は、そのままお側に置いていただいて構いません」
「ありがとうございます」
ルヴェリア側の侍女長が頭を下げる。
「また、王女殿下の護衛についてですが――」
「こちらも帝国騎士団から精鋭を選出します」
「……」
ルヴェリアの騎士団長が静かに口を開いた。
「我々の護衛も残します」
「もちろんです」
帝国宰相が頷く。
「……ところで」
帝国側の若い騎士が言った。
「王女殿下は、本当に素晴らしい方ですね」
「ええ」
帝国の侍女も頷く。
「昨日、私の名前を覚えていてくださったんです」
「私は怪我をした兵士のことを気にかけてくださいました」
「私は城下で――」
次々に出てくる。
ルヴェリア側の重臣たちは、しばらく黙って聞いていた。
そして、
「……今さらですか?」
ルヴェリア宰相が呟いた。
「え?」
「王女殿下が素晴らしいことなど、我々はとうの昔に知っています」
帝国側が黙る。
「殿下が幼い頃からお仕えしているのです」
侍女長が胸を張る。
「初めて文字を書かれた日も知っています」
騎士団長が続ける。
「初めて馬に乗られた日も」
宮廷魔術師が言う。
「初めて魔法を使われた日も」
「……」
帝国側の者たちが顔を見合わせる。
「……古参だ」
「圧倒的な古参だ」
誰かが小さく呟いた。
⸻
そして、その日の夕方。
帝国の一室に再び数人が集まっていた。今度は婚姻協議ではない。
「王女殿下をお守りする会を作りませんか?」
侍女長が言った。
「賛成です」
「私も」
「異議なし」
帝国側もルヴェリア側も。
驚くほどあっさり意見が一致した。
「では、会の目的は?」
「王女殿下の安全を守る」
「快適な生活を支える」
「殿下がお困りの際は全力で助ける」
「……」
帝国宰相が少し考えた。
「それはつまり……」
ルヴェリア宰相が答える。
「王女殿下を愛する者たちの集まりです」
「…………」
「何か?」
「いえ」
帝国宰相は咳払いをした。
「正式名称は?」
侍女長が紙に書く。
『王女殿下をお守りする会』
「決まりですね」
こうして両国の重臣たちによる、秘密の会が発足した。
⸻
その頃、当のアリアは庭園にいた。
「わあ……!」
新しく植えられた花を見て、目を輝かせる。
「この花、綺麗ですね!」
「王女殿下がお好きだと伺いましたので」
「まあ!」
アリアは嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!」
侍女は微笑む。
――違います。
優しいのは、王女殿下です。
だから、皆が殿下を大切にしたくなるのです。
⸻
夜。
秘密の会の名簿が机に置かれていた。
会員数――二十三名。
「……増えたな」
帝国宰相が呟く。
「今日だけで六名です」
「まだ増えるでしょうね」
ルヴェリア宰相が苦笑する。
「我々の国では、殿下を慕う者がもっと多い」
「……」
帝国側が固まった。
「では、今後さらに?」
「間違いなく」
その時、廊下から足音が聞こえた。
「誰だ?」
全員が慌てて名簿を隠す、と同時に扉が開いた。
「ここにいたのか」
現れたのは――
皇帝レオンハルト。
「陛下!?」
全員が立ち上がる。
レオンハルトは部屋を見渡した。
「何をしている」
「……」
「……」
誰も答えられない。
やがて帝国宰相が観念して口を開いた。
「王女殿下をお守りする会を……」
「……そうか」
レオンハルトは机の上の隠しかけた名簿を見る。
「会員は?」
「現在二十三名です」
「そうか」
レオンハルトは少し考えた。
「……私も入る」
「…………」
「…………」
「…………え?」
全員の声が重なった。
皇帝は真顔だった。
「問題でもあるか?」
誰も答えられない。
だがこの瞬間、まだ誰も知らない。
皇帝本人が、この会の会員番号一番を巡って最も激しい戦いを繰り広げることになるなんて。
そして、その会が数ヶ月後には帝国中を巻き込み、やがて他国の王族や重鎮までも加入する巨大組織になることを。
もちろん――
その中心にいるアリアだけは、
「最近、皆さん仲良しですね!」
と、何も知らずに笑っているのだった。




